アジアの時代 〜これからの若者の仕事

週末に、珍しく大学の同級生と地元で夕食を共にして飲んだ。
彼は、某エレクトロニクス系メーカーでアジアを中心とした海外営業で中国、台湾、シンガポールなどを飛び歩くアジア通。
その彼と話をしていて、ここ10年間で、シンガポールや香港、上海のバーなどで働く20代の日本人の女の子の数が急速に増えてきていると言う。
彼女らの目的は、日本で働き口がないのでアジアの自己研修と称して、働きながら英語、中国語の勉強をしているそうだ。バーターでアジアで日本語を教えている人も多いと言う。まだ日本の技術力の高さが残っている証左だろう。

確かに今の時代、20代の新卒の若者にとって、成長の止まった日本での就職先はどんどん減ってくる。今後とも衰退していく日本での雇用機会はどんどん減っていき、アジアでは人手不足で労働重要が増すことは確実だ。

その中で、若い女性は、どんどん日本を飛び出してアジアで仕事を見つけているというのだ。

英語と中国語を操りながら、これからの若者はアジアで就職先を探していかなくてはならない時代が、目前に来てしまっているという話。

これからの10年は過去の延長での日本の経済成長は続かず、アジア圏を巻き込んだ想像できないような変化が起こると肝に銘じておく必要がある。

中国の実力が巨大化せず日本の技術力の高さが残っているうちに、アジアの産業需要を日本に取り込む橋頭保を築くには、女性の登用が本格化していない日本からアジアに優秀な女性が飛び出してゆくことで、共同生産プラットフォームの構築に向けての新しい架け橋が築かれるかもしれない・・・・・・と思ったりした。

完全網羅 起業成功マニュアル 〜by ガイ・カワサキ氏

「完全網羅、起業家マニュアル」の著者、ガイ・カワサキ氏は、アップルコンピューターの草創期のエバンジェリストをした後、シリコンバレーで様々なPC企業をたちあげ、のちに、ベンチャーキャピタル「ガレージ・テクノロジーベンチャーズ」のCEOを務めている。彼の口ぶりは、本質をえぐり取るように突きつつ、とにかく熱い!!この本の冒頭で、「起業家は肩書ではない、それは未来を変えたいと思う人の心のありようだ。こうした人たちに本書を読んでいただきたい」と述べている。この著書は、ガイ・カワサキ氏のシリコンバレーでの起業の経験に基づく強烈な起業マニュアルである。そのため、書評というよりは、各章の概要を個人的な補足を加えながら備忘録として要約的にまとめておきたいと思う。

完全網羅 起業成功マニュアル

完全網羅 起業成功マニュアル

第一歩
第1章 エンジン始動の奥義
(1)意義を見出す。組織を立ち上げる最大の理由はそこに意義を見出すこと、世界をよりよい場所にする製品やサービスを作りだすことだと言う。大義名分を得たどのような製品やサービスを世に送り出すかを明確にすることが起業の原点ということなのだろう。アップルコンピュータの創業時の目標は打倒IBMだったと言う。世界の変革と社会的意義が根底に必要だと説いている。

(2)標語を決める。まどろっこしいミッションステートメントではなく、チーム全員が何をすべきか路頭に迷わないようにするための短く心地よい標語(マントラ)が必要だという。それは抽象的な一般用語は不要という。「楽しいファミリーエンターテイメント(ディズニー)」「満足を味わうひととき(スターバックス)」「考えよ(IBM)」などが優れているという。

(3)走り出す。企画・計画ばかりに拘らず、まずは走ってみることが大事だと言う。その際、「高い目標を持つこと」「パートナーを探すこと」「熱烈な利用ファンを持つ製品サービスを作り、二極化を恐れない」「その時々の流行り廃りに応じて多様に設計する」「プロトタイプを市場調査として活用する」といった大原則の実行が大事だという。

(4)ビジネスモデルを明らかにする。顧客とその悩みを明らかにすること、収益がコストを上回るような販売メカニズムをつくることがポイント。その際、具体的かつシンプルに、モノマネ可だと言う。

(5)マット(MAT:破片の飛散を防ぐ網)を織る。まずは7つのマイルストーンを達成する、即ち「コンセプトの裏付け」「具体的な設計を終える」「プロトタイプを感性させる」「資金を調達する」「テスト用の製品・サービスを顧客に提供する」「収支トントンを達成する」。
次に、仮説を絶えず追跡する、即ち「製品・サービスの評価指標」「市場規模」「粗利益」「顧客毎のROI」などが常に達成されているかの追跡。
最後に、タスク(必要業務)のリストアップ、即ち、オフィスを借りる、会計システムと給与体系の整備などなどの基盤整備だ。


明確化
第2章 ポジショニングの奥義
(1)優位性を把握する。即ち、「顧客がその起業や組織、サービスをひいきにすることでどんなメリットが享受できるか」「どうやって業界リーダーであることを証明するか」「従業員にどうやって自信を植え付けさせるか」が優位性確保のポイントになる。優れたポジショニングは、一目瞭然かつ具体的であること、コアコピテンシーが基礎となっていること、顧客にとって適合的である、長期的に顧客から支持される、ユニークである、といったメリットをもたらすという。

(2)ニッチより始めよ。顧客から評価され価格競争力も高いユニークかつニッチな製品・サービスを提供するのがベストだが、ドットコム企業の大半がユニークでもなく価格競争力もない製品・サービスを提供している。
(3)ネーミングで妥協しない。見ればそれと分る名前を付ければポジショニングも楽になるという。
(4)個人に関連付ける。ユーザーがその製品・サービスを使うとどうなるかが伝わる、平易な言葉での事業や製品・サービスの提供がよいと言う。
(5)メッセージを組織中に行き渡らせる。
(6)流れに身を任せる。市場の言うことに耳を傾ければ、市場はありのままのポジショニングを見つけてくれることも大事だと言う。

第3章 売り込みの奥義
(1)最初の一分で自分の説明をする
(2)それで?の声に答える
(3)聴衆を知る。即ち、打ち合わせの前に聴衆にとって何が重要かを調査しておく。
(4)10枚のスライドで済ます
(5)舞台を整える
(6)空想を書きたてる

第4章 事業計画作成の奥義
(1)事業計画作成がなぜ必要かは、投資家からの資金調達手続きの際、求められてくるものだからという理由の外に、創業チームの一致団結力や、見逃してきたものを浮き立たせること、創業チームに欠落しているものを明らかにできることがあると言う。
(2)計画は売り込みのあと。事業計画から抽出したポイントが売り込みではなく、売り込みを詳しくしたものが事業計画である。
(3)エグゼクティブサマリーを重視すべき。�タイトル、�問題、�解決策、�ビジネスモデル、�製品・サービスの目玉、�マーケティング・販売計画、�競合、�経営陣、�財務予想と重要指標、�現状・これまでの成果・スケジュール・資金の用途、こうしたエグゼクティブサマリーは事業計画のフレームワークでもある。
(4)読みやすく書く
(5)適正な数字を示す
(6)慎重に計画し、緊急的に行動する。即ち、製品・サービスがいつ市場に出るのか、誰がそれをいくらで買うのか、再注文してもらえるのかを事業計画には明記しながら、実現に向けて行動することが大事だと言う。

活性化
第5章 自己資本経営の奥義
(1)利益よりもキャッシュフローを重視することが自己資本経営の要諦。
(2)ボトムアップ方式で予測する。即ち、1日あたりの電話件数や成功率など具体的な変数からの積み上げで予想売上を立てることが大事。
(3)まず出荷、それからテストの発想が大事。但し、クオリティに難があればイメージにキズがつくので、事前に自分たちの製品・サービスが競合に勝っているかどうか、顧客ニーズを大いに満たしているかどうかなどを十二分に自問自答しておくことが大事だと。
(4)実績あるチームアップは諦める。即ち、著名なベテラン業界人を雇ったドリームチームを作るのは費用対効果が合わないことが大きいと言う。
(5)キャッシュフローがすぐに生じるサービス業としてスタートすることが望ましい。
(6)形式ではなく機能を重視する。即ち、法律、会計、PR、広告、ヘッドハンティングなど現実の機能性を重視した選択が大事だと言うこと。
(7)戦いの場を選ぶ。ソフトウェアを書くなど、独自のマジックを収入源にできる場からビジネスを始めるのが良いと。
(8)直販する。
(9)既に確立している市場リーダーのやり方を真似したポジショニングをすることで、マーケティングやPRコストを大幅に削減できる。
(10)人員を押さえてアウトソースする
(11)優秀な取締役会を設置することは、資金集めの助けにもなる。
(12)大局的な視点を持ち大きいことにこだわる。
(13)実行する。即ち、目標を設定して伝達する、進捗を測る、責任者を明確にする、成果を出した者に報いる、つまらなくなったから止めるということはせず最後まで続ける、実行の文化を築く、このような組織運営を定着させることが大事になる。

第6章 人材採用の奥義
自分とは考え方、能力、判断が全く違う人間を採用し、信頼、重用することが大切であると。人材採用のポイントは、?その人はあなたが必要とすることを実行できるか??その人はあなたが考える事業の意義に賛同しているか??その人にはあなたが必要とする強みがあるか・
(1)Aプレーヤーを雇う。即ち、現状のCEOや経営陣よりも優秀で、リーダーを生み出す人材を採用するのが大事だと。
(2)創業の熱意に感染した人を雇うことが大事。
(3)無意味な条件は無視する。即ち、性別、人種、宗教、年齢などは関係ない。
(4)確約を早まらない。即ち、内定通知は採用プロセスの最後に出す、などなど。

7章 資金調達の奥義
(1)事業を立ち上げる。即ち、意義があり世の中を買えるような事業を立ち上げる姿勢を示すこと。
(2)現在の投資家や弁護士・会計士、ほかの起業家、大学教授などに口をきいてもらう。
(3)売上実績を示すこと。
(4)知的財産、資本構成、経営陣、株式の付与、法令順守などで瑕疵がないようにしておく。
(5)多少瑕疵があるとしてもすべてを開示し、やましいことはないことを示すこと。
(6)競合相手がいることを示し、自社の強みと弱みをオープンにすること。

成長
第8章 パートナーシップの奥義
(1)新しい市場への参入スピードを早めるとか、新しい販売チャネルを築けるとか、コストを削減できるなどスプレッドシート上の財務予想を変える提携相手とパートナーシップを結ぶ。
(2)売上の上乗せ、新規顧客開拓など成果や目標をはっきりさせる
(3)現場の人たちに受け入れられるようなパートナーシップを結ぶ
(4)組織内の擁護派を巻き込む。即ち、それぞれの組織でキーパーソンを特定し、擁護者に権限を与えるなどが提携成功のためには大事。
(5)弱みを隠すための提携ではなく強みを更に強化する提携にすべき。
(6)ウィンウィンの関係を結ぶ
(7)終了条項を入れておく

第9章 ブランドの奥義
(1)伝染性を持たせる。即ち、クールなこと、機能の裏付けがあること、独特・常識外れ・感動的・使えば使うほど深みがあること・贅沢感・見事なサポートがあるなど。
(2)誰でも使いやすいといった障壁を低くする
(3)エバンジェリストを雇う
(4)製品・サービスを巡るコミュニティを築く
(5)人間味を出す
(6)製品・サービスを告知させるためのパブリシティを重視する
(7)従業員の全てが実行を言葉にでき、熱心に伝道活動ができるようにする

第10章 事業拡大の奥義
(1)百科斉放・百家争鳴、即ち予期せぬことが起きること歓迎する
(2)ゴリラ、即ち予期せぬ顧客や用途を見つける
(3)見込み客獲得のため、小規模な製品紹介セミナーの開催、スピーチ、出版、積極的な人脈作り、業界団体への参加などに集中し、従来型のマスマーケティングなどは行わない。
(4)カギを握る人物を探す
(5)カギを握る人物を探すための側近を取りこむ
(6)革新的な製品・サービスを受け入れない無神論者ではなく、そもそも製品やサービスを使いこなせなかった不可知論者(非消費者)を探す
(7)自社の製品・サービスを買ってもいいと考えている見込み客は、最終決断のために何が必要かを理解しているので、見込み客の意見を聞く
(8)実際に試してもらう
(9)最初は、リスクの低いごく狭い範囲や限られた方法で自社製品・サービスを使ってもらう
(10)拒絶から、如何にして更なる推奨術を向上できるか、どんな見込み客を避けるべきかを学ぶ
(11)事業拡大プロセスを管理する。即ち、社員全員に事業拡大を奨励しつづける、顧客毎に目標を設定する、先行指標をチェックする、真の成果に報いるなどにより、うちの予想は慎重だという慎重論を排除する。

責務
第11章 気高き事業遂行の奥義
社会を顧みず自分だけの利益を重んじる事業は大きくならない。また、持続可能な組織をつくりたければ、従業員に高いモラルや倫理基準を求める必要がある。こうした倫理的な組織の基本は、次の3点を実行することが大事だと。
(1)多くの人々を援助する
(2)正しい行いをする
(3)社会に還元する

〜富士山展望・・・・春霞みの中に消える前に写真に収めておこう

3月に入ったが未だ寒い。
我が家から見える富士山も未だ冬の富士山の顔をしている。
これから三寒四温を経て、だんだん富士山は春霞みの中へ消えてゆく。

霞みの中に消えて行く前に、写真に収めておこう。
朝の富士山。きりりと締まっている。

夕方の富士山。夕陽の残像に浮き立つ山影。

起業を増やさナイト〜実践的起業セミナー報告

2月24日の18:00から、会計士の磯崎哲也氏、運用会社レオスキャピタルワークスの藤野英人氏、VC日本テクノジーベンチャーパートナーズ代表の村口和孝氏の3名による起業セミナー「起業を増やさナイト」が開催された。
生々しい成功・失敗・オフレコ体験談を交えたトークセッションだったこともあり、教科書的でもなく、ベンチャー企業がアピールするお祭り騒ぎのベンチャーカンファレンスとも違い、実に常識的な本質を押さえた説得力のある素晴らしいセミナーだった。村口氏がこれからは「起業2.0」の時代だと述べていたが、かつての国内産業保護政策の下でのソニーやホンダなど「起業1.0」の時代とは違うグローバルかつオープンな環境の中での新しい起業スタイルが求められている。イノベーションの停滞やベンチャー起業の停滞が懸念される昨今、リスクマネーの供給と起業家をつなぐ資本市場の活性化が求められていると思う。実践経験に富んだ貴重な起業セミナーだったと思うので、概要をまとめておこうと思う。
「起業を増やさナイト」 Twitterハッシュタグ=#kigyo http://kigyoka.com/kigyoka/public/news/news.jsp?id=1130
●開催日時 2010年2月24日(水) 18:00-21:00
●企業家ネットワーク事務局:藤田大輔 氏 (@mabou77)
●講師陣 磯崎哲也 氏 (@isologue)、藤野英人 氏 (@fu4)、村口和孝 氏 (@kazmura)

1.磯崎哲也氏 ―ファイアンス(資金調達)から見たベンチャー起業論
起業はリスクが少ないとは言わないが、世の中で誤解されているほど怖いことではない。起業に失敗しても、良い経営をしていてきれいに清算させて挨拶に行けば、うちに来ないかという誘いがかかることもあり、必ずしも二度と失敗は許されないという世界でもない。この場合、寧ろ失敗の経験はバリューだ。
資金調達について言えば、起業した最初には銀行はお金を貸してくれない。そのため、銀行からお金を借りない起業計画が必要。大企業など大動脈にはお金が回るようになっているが、ベンチャーや中小企業など毛細血管まで行き渡ってこないのが現状だ。一方で、エクイティの投資家とベンチャーをつなぐ資本市場は人で持っているが、まだまだその道の人(ベンチャーキャピタリスト)を育てていかなくてはならないのが現状。間接金融から直接金融への更なるシフトが必要だ。個人資産1400超円に対してVBに投資されているお金は日本で1兆円弱で世界的に見ても極めて少ない。こうした中で、現状では、ベンチャーキャピタルに投資してもらうにしても、良いベンチャーキャピタルを選ぶことと投資契約に気をつけることが肝要。
ただ、ベンチャーにアドバイスする人がここ10年で増えてきたので様々な助言も求められるようになってきており好ましい方向にはある。
資本を受け入れる場合、初期の資本政策が極めて重要。資本政策の初期の間違いほど後になって修正がきかない。慎重に考えた方が良い。何も考えずに気前よく株式を渡し過ぎて株主数が山ほど増えてしまい、株主調整がきかなくなってしまうのがよくある失敗例。
VBは、帳簿価格で勝負してはダメで、将来の予想キャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法で評価した企業価値を主張すべき。
起業は恐くない!ベンチャーは楽しい! 起業しないリスクもある!と考えるべきだ。

2.村口和孝氏 ―独立系ベンチャーキャピタリストから見たベンチャー起業論「起業家2.0」の時代。
VBの表層的美点ではなく、本質的美点を見極めて投資していくのがベンチャーキャピタリストの仕事。
例えば、DeNAには8億5000万円投資して、100億円超のリターンが帰ってきたという成功事例がある。
新規事業は組織人では無く、起業人でないとできないと見ている。サラリーマンみたな行動する起業家は失敗するし、起業家みたいな行動するサラリーマンは組織の摩擦に苦労する。出世とは、世に出ること、昇格とは本来、意味が違うはず。
ただ、日本の起業環境は歴史的に大きく変わってきている。高度経済成長期の起業は、1ドル360円という固定相場の下駄(本当の実力は200円くらい)を履かせてくれた保護政策の下での起業だったと見ておりこれを、起業1.0の時代だと捉えている。今は過去の成功経験が通じなくなった。今は円高の時代なので世界に向けて商売して行くのが大変になっている。

起業は転びながら成長してく。一社として計画通りに順調にいった会社はない。 
失敗する可能性がわかっていて起業するのと、絶対成功すると思って起業するのでは全然違う。失敗することがいけないのではなく、その可能性の高さを認識できていることが大事。DeNAにしてもinfoteriaにしても計画通りにいったことは全然ない。DeNAヤフオクとの競合で20億の累積赤字を出したことがある。
会社員は与えられた役割で成果を出す、起業家はなにやろうがいいから成果を出す。市場を通じて好きなことやって成果を出すのが資本主義、多数決で合理的にきめられるのもあるが市場原理の良い側面もある。
多数決、選挙、市場主義方式の3つをうまくバランスよく使うことが大事。

現在は起業1.0から起業2.0を模索する過渡期の時代。失われた10年というのは組織人1.0の人(サラリーマン)の言い草。寧ろ試行錯誤している有意義な時代と捉えるべきだ。
シリコンバレーが凄い人がやっているというが、シリコンバレーの創業社長やVCの2/3は異民族で、ベンチャーキャピタリストも半分は異民族。シリコンバレーの創業の3割が外人(非米国人)。また、シリコンバレーも今の成功を得るまでは失敗の試行錯誤の時代もあった。
Japan as No.1の1980年代、インテルが倒産の憂き目にあった中で、MBAで日本的経営が研究され、米国では、独禁法違反にならないレベルで、巧妙に「系列」が取り入れられていった。もっとも著名なVCのクライナ・パーキンス(KPCB: Kleiner, Perkins, Caufield & Byers)も、"THE KEIRETSU"を有益な投資先のリスクヘッジ手段として活用した。 こうしてシリコンバレーのVCは、日本の成功を見習いながら成功していった。

でも、1990年代以降の日本では、系列が機能しなくなった。その理由は、日本人がさっさと家に帰るようになり、職場や周辺企業と仕事の話をしなくなっていったからだと思っている。その結果、かつて、アメリカから見たら日本の起業家1.0は非常に発展していた見られていたにも拘わらず、その後日本は、組織人1.0の時代を経た後、起業家2.0の時代への転換がうまくできず、創業投資金額においては先進国の中では世界最下位に近い状況になってしまった。今後、いかに資本市場を上手に使いこなしていくかが重要。

キャズムの概念は大事。キャズムの前をいかに充実させるかが重要で、戦後の起業家1.0の人たちはそれが上手だった。その後、サラリーマンは(組織人1.0の人)中心の時代に移っていったが、組織人1.0の人は、キャズムを超えた事業をどう維持するかに全力をかけることが普通。キャズム前とキャズム後では成功の仕方がちがう。そもそも、キャズムを超えるポイントまでいけることがまず難しい。
VCはキャズムを超えたものに投資するのではなく、キャズムを超える前のVBに投資し、キャズムを越えさせて証券市場に送り出していく仕事。こうした投資家と事業家をつなぐ資本市場の機能がいっそう重要になる。

企業とは企業=起業家×事業(顧客×商品)×経営だ。その際、起業家としての自分(特に健康)、家族、一族の3つの要素を大事にすることが大切。その上で、起業の3条件は、1) 社会からの要請(ニーズ)があること、2) リスクが取れること、3. 「起業する」と決断できることではないかと思う。

10年後を読む未来仮説を持つことが大事。その上で、企業=起業家×事業(顧客×商品)の公式なので、起業家はどのような生き方をするか、。どういう顧客にどういう商品を売るのかが大事だが、これが難しい。なぜこの事業を始めるのかが大事。とはいっても、正解はないのでディスカッションする中でVCは起業家に5年間お金を託すかどうか考えていく。

桃太郎の物語は、起業家のモデルを表している。吉備団子=ベンチャーキャピタルのお金。雇ったサル・キジ・イヌは、 知恵の猿、情報力のキジ、良く働く犬。大事なのは、きびだんごを全部食べず、サル・キジ・イヌを雇うのに使った点。桃太郎のおばあさんは優れたベンチャーキャピタリストで。桃太郎物語はベンチャー起業モデルの象徴と言える。

3.藤野英人氏 ―独立系中小型株ファンドマネージャーから見たベンチャー起業論
そもそも自分(藤野氏)は、司法試験準備のお金を作るため、野村アセットマネジメントに就職したのだが、配属されたのが、中小企業の調査チームで、これがベンチャー企業と付き合うことになった発端。
その後、中小企業の投資にのめり込んでいった。こちら側(投資家)からあちら側(起業家)に行きたくなったので、レオスキャピタルワークスを創業した。
「あちら側」(起業家)とこちら側(投資家側)の最大の違いは頭の良さや経験ではなく、挑戦心。経験や嗅覚も大事だが、起業の一番の決めてはリスクテイカーになれるかどうかと、やはり何をしたいのかがすごく大事。
起業家は雇用も生むし、法人税も払うし、所得税も払うし、これこそが最大の社会貢献だ。
会社の運営は、従業員が気持ちよく働き、氾濫を起こさず、永遠に資金調達できるなど、ファイナンスがショートしない限りは、永遠に続く。ただ、株式公開までこぎつける社長は、そのファイナンスの時にすごい力を発揮し、本気を出して立ち向かっていく力がある。
こうした成長力の源泉を見極めるには、世の中の偏見や常識を疑ってみることにある。例えば、大塚家具は、日比谷から有明に本社を移した後、大塚社長の娘さんの代になって業績が回復した。
当時、臨海副都心と言えば、有明の都市博がダメになったからダメというのがマジョリティの意見だったが、実際に足を運んでみると、眺めがよくデートにいくカップルが寄るには絶好の好立地だと思った。そして、銀行員経験で数字にシビアな娘さんが社長になって自ら家具の搬入をやっているのを見て、これはいけると思って投資判断した。

ただ、いざ起業すると、一般的に、起業して3年で70%―90%が倒産・廃業する 新規事業や創業はそもそも1勝9負。起業の失敗のほとんどは、社内の同僚など後ろから玉を撃つ人が出てくることから始まる。コミュニケーションを密にしたり、飲み会をしたり、ビジョンを共有したりが大事で、撃たれるリスクをヘッジしないといけない。そのためにはなんでもすることが大事。コストとプライドを低く。社員を誉めることはコストゼロで効果絶大。

起業時には銀行はお金を貸してくれない。とにかくローコスト・オペレーションを徹底した。
組織にいるからできないから会社をつくる。会社をつくると経理も総務も自分でやらなきゃいけない。いかに組織がありがたいか、会社を作るとわかる。
また、嘘をついたり不誠実であると会社はすぐに破綻する。嘘つきは長期的に排除される。正直だけでもよくない。なるほどね。したたかさ、とかはけっこう必要だと僕は思います。
コストとプライドを低く。人をほめる。必要条件はいっぱいある。勤勉・倹約・正直・礼儀正しい・熱心・コミュニケーション重視など。成功するための十分条件をずっと求めてたが、十分条件は見当たらなかった。 十分条件はないと分かっていても、人は結構成功者のキャリアをなぞりたがるし、世論に流される。でも勝ち馬に乗るのは大事ともいう。難しいところがある。
「労働=時間とストレスをかけるもの、との労働観。これが日本の最大の問題だ」。自分の思いを共有し、人に貢献して、それを持続的に行うために対価を頂く行為が本来の労働だと思う。そして、成功に力を貸すのが金融の務めだとだと思っている。

4.Q&Aセッション
Q:日本の起業家と海外の起業家のちがいは?
A(村口氏):日本の事業は典型的に視野が狭く首都圏や日本全国レベルの事業計画。 シリコンバレーの事業計画書は世界レベルが普通であり、最初の段階でカリフォルニアをまずというのはある。

Q:どうすれば、グローバルレベルの起業の視野が広がるか?
A(村口氏):金融のことやりたいならウォールストリート行ってみる。そしたら「ここじゃない」と思うかもしれない。音楽好きなら北島三郎の故郷に行ってみるとか、実地検分しながら確かめてみることが大切。
新卒者は新卒カードを切るべきだと思う。でも、どこも内定決まらない場合、形だけでも企業するのも手であり、企業したものの3年間売り上げゼロだったけど、その後、大手企業に中途採用されるケースもある。

Q:何故、南場社長のDeNAに投資したのか?
A(村口氏):南場社長は、圧倒的な情熱、成功にかける執念、しつこさがあったので投資した。その当時、女性経営者NG、コンサル出身はNG、髭の経営者はNG、といったVCジンクスみたいなのがあった。彼女は2つ当てはまっていたが、 3ヵ月アドバイスしてたらすごくしつこく連絡をしてきた。そして根性があった。アドバイスしたことを翌週になってはどんどん提案し直してきた。
南場さんは、1)良い意味でしつこい。何度も電話がかかってきた。2)根性があった。3)情熱。4)成功にかける気合。5)アドバイスや言ったことにしっかり修正して、その後自分の提案を持ってきてぶつかってくるなど、腹がキチッと座っていた。何度ぶつかっても揺らがなかった。本気で成功しようと思って十年彼女のように頑張れる人は少ない。VCの仕事はそんな人を見つけることだと思っている。本気で成功しようとして10年間思ってやり続けたら5%くらいは成功すると思う。

Q:資本政策の留意点は?
A(磯崎氏):アメリカは上場時に創業者が株持ってないことも多くあるが、日本は上場後も社長がリーダーシップを取って回りが従うというケースが上手くいっている。従って、日本は上場後も社長がある程度持ち株比率を持っているとかパターンが多い。

Q:創業時の資金調達は?
A(藤野氏):創業時に銀行が貸してくれることはまずない。中小企業保証協会に行った。損してお金が返ってこなくても殺されない人から資本を集めることが大事。創業期の資金調達先のリストは犠牲者リストとも言える。

Q:起業する際の市場を見極めるコツは?
A(村口氏):起業することはトンネルを掘り抜く事ににている、自分の側とユーザー側の両側面から掘る。トンネルを掘り進めた時に市場があるかどうかの判断のために、たまにはキジに乗ってトンネルの向こうを見に行く。 うまくかみあえばつながるがつながらなければ失敗ということになる。

総務省スマートクラウド研究会中間報告案を読んで思うこと 〜独自のクラウド技術開発支援の対象が示された点に注目

2月10日、総務省からスマート・クラウド研究会の中間とりまとめ案が発表された。概要の紹介を含めて全体の印象と注目点をざっとまとめてみる。(3月9日まで意見募集中。ツイッター政策議論のハッシュタグは #scloud )
ここ2年間くらい日本国内でも様々なクラウド本が出版され、ユーティリティ・コンピューティングという新しいIT社会インフラの今後の期待や取組みが伝えられてきたが、本報告書はその集大成と言え、ようやく米国レベルの認識が公式に共有できるようになったのではないかと思った。寧ろ、今後は如何に利活用を進め、IT社会インフラとして使い倒していくかが日本の産業界全体の国際競争力強化にとって重要になるのだというメッセージを感じた。

併せて目を引いたのが、第4章でクラウド技術開発の政府支援の具体的な対象と取組み姿勢が示された点だ。特筆すべきは、これまで色々注目されてきた仮想化技術に加えてGoogleの分散データシステムであるBigTableMapReduce、そのオープンソース版のHadoopを引き合いに出され、コンピューティング技術の根幹とも言える分散処理技術の研究開発を推進していくことが盛り込まれたことだ。往々にして利活用のためのソフトウェアやシステム開発が注目されるが、大量データ処理技術という基礎技術開発促進にも焦点が当てられたことは特筆される。

かつて日本のICTは半導体技術の先進性で国際競争力をつけた時代があったが、スマート・クラウド時代においては通信技術に加えて、こうした分散コンピューティングのミドルウェア技術開発力が重要になる。しかしながら、この分野はGoogleなど米国勢の独壇場になっており、日本の多くのICT事業者もこれら海外技術の単なるインテグレータに成り下がってしまっているのが現状だ。
これまでこのブログの過去のエントリーでも今後のICTの国際競争力強化ではこうしたソフトウェア開発力の日本発の強化が欠かせないと述べてきたが、ようやく国家戦略の中にもこうした基幹技術の自国開発支援の視点が盛り込まれた格好だ。
スマートクラウド研究会の中間とりまとめ案の概要を記述してみる。

1.クラウドサービスの特徴と課題
クラウドサービスの特徴として、拡張性(必要なだけコンピュータ資源を利用できる)、可用性(他のサーバーでの代替利用可能性)、俊敏性(直ちに利用可能でクラウドサービス基盤も変更可能)、可視性(計測管理可能)、経済性(初期投資費用の変動コスト化)が挙げられている。一方で、クラウドサービスの課題として、安全性・信頼性の確保、データの所在、サービスのボーダレス性、独自の事業展開に対する国際・標準ルール化の必要性を指摘している。こうした特徴と課題は今後のクラウド事業者の新たなサービスの付加価値のメルクマールになってゆくのだろう。
2.クラウドサービスの普及で期待される効果
クラウドサービスの普及で期待される効果として、産業の枠を超えた効率化の実現(ICT利活用コストの低減化、企業のスタートアップの容易化など)、社会インフラの高度化の実現(交通管制、河川・港湾管理、災害対策、エネルギー制御などの高度化)、環境負荷の低減、企業のグローバル展開の促進があると言う。その通りだろう。
3.クラウドサービスの普及基本三原則
政府のクラウドサービスの普及に向けた基本三原則として、多様なクラウドサービスの利活用促進、クラウド技術開発の促進、環境整備・公的支援・調達主体の3点での政府支援が挙げられている。
4.クラウドの利活用促進の対象分野
政府はクラウドサービスの利活用促進の対象分野として、電子行政クラウドのほか、医療クラウド、教育クラウド、農業クラウド、地域コミュニティクラウドを挙げているほか、スマートグリッドでの活用や次世代ITS、広域センサーセットワークによる河川情報、雨量情報、災害情報での活用、中小企業やベンチャー企業の利活用促進を掲げている。医療、教育、農業、地域を重点分野として取り上げられていることが特徴的だ。

5.次世代クラウド技術開発の政策支援
今後開発支援していく次世代クラウド技術分野として、1)大量データベース処理を行うため大量のコンピュータ資源を使って大規模並列処理を実現するクラウド技術、2)安全性・信頼性の向上を実現するクラウド技術、3)環境負荷の軽減に貢献するクラウド技術の3点を挙げている。こうした次世代クラウド技術開発支援のために、政府は産学官連携のオープンイノベーションを生み出すための「クラウド研究開発プラットフォーム」、アジア・太平洋諸国と連携した次世代クラウド技術の開発を行う「アジア・太平洋クラウドフォーラム」を開催し、共同技術開発や標準化などを進めてゆくと言う。

6.その他政府支援策
クラウドサービスが利用者の所在地と関係なくボーダーレスな環境で提供されることから、政府は、各国に保存されたデータベース等に関する裁判管轄権、個人情報保護法知財権の保護、有害情報対策、政府の民間データへの介入可能性などについて、政府間で国際連携を図って行くと共に、ネットワークの中立性問題にも対処していくとしている。オープンインターネットと同様に、無秩序にクロスボーダー展開しかねないクラウドサービス関連産業の適正な育成を促すためにも、公正なルール化を政府が後方支援していく姿勢を示した点は評価できよう。

ベンチャー起業家精神、ベンチャー支援に思うこと

一昨年あたりから、国内ベンチャーに逆風が吹いている。国内の年間のIPO件数は、暦年ベースで2006年の188件を最近のピークに2007年121件、2008年49件、2009年19件と激減している。一方で、海外に目を向けると中国の香港・上海・深センの3市場での2009年のIPO調達額は700億ドルと世界のIPO調達市場の1/3を占めるに至っている。国内IPO市場の不振は、中国市場が活況を呈しているのを横目に見ると、単にリーマンショックで株式市場がシュリンクしたということでは説明がつかない。「最近はベンチャー企業の活力がない」と言われ、「ベンチャー投資は儲からない」「いいベンチャーがない」「日本のベンチャーキャピタル市場は終わった」とまで言われる始末だ。ベンチャー起業といったイノベーションなくして長期的な経済成長はないのだが・・・・。

最近、Twitterで自分が作ったベンチャービジネスのリストのタイムラインを流し読みしていて、ベンチャー起業や起業支援について、印象深いコメントがあって意を強くした。

ベンチャー起業家精神について
従来の常識が通用しない今の時代には、ソフトバンクモバイルの松本副社長の呟きにあるような坂本龍馬のような既成概念に囚われない率直な起業家精神が求められているのだろう。

坂本龍馬のどこが一番偉かったかと言えば、やはり、既成概念に決してとらわれず、全てを、純粋に、白紙から、自分の頭で、徹底的に考えた事だと思います。 今の世の中でも、この様な人は必ず成功すると思いますね。

よく、日本は、独立のリスクが高く、一回も失敗が出来ない土壌なので、新産業が起きないというくだらない意見がある。 私は、数々の経営者を知っているが、本当の良き経営者は、良い意味で周りの事を気にしない。 リスクが取れない大多数は、失敗による周りの目を気にするからである・・・・・・

という別の指摘も同じことを言っている。独立のリスクが高いということはいい訳に過ぎないという指摘はもっともだろう。
ベンチャー起業は若者の特権だと言う固定観念に対しても、ソフトバンク孫社長の弟・泰蔵氏と某氏への呼びかけは、人生に手遅れはないと一蹴する。

RT @孫正義:人生に手遅れは無い。RT胸に突き刺さる。あっという間にもう五十前。手遅れか。RT @孫泰蔵:泰蔵、あっという間に時は過ぎる。一瞬も無意味な時を過ごして事はなせん。頑張れ。

ベンチャー支援について
一方で、ベンチャー支援についても考えらせられる呟きがあった。ベンチャー支援の仕事とは、単に売上営業先の紹介やアイデア出しに留まらず、上手く経営効率をあげることを手伝うのが本来的な仕事だとしているが、その通りだろう。一方で、なまじの金融やコンサルには売上は作れないとの厳しい指摘もあるが、リスク負担に対して相応の成果が出ることの道理を考えれば、ある意味厳しい警告がなされるのは当然だろう。

上手く経営効率をあげることを手伝うのが本来的なベンチャー支援の仕事なのである。社長が出来ない、しがらみの断ち切りや、リストラなんかが、その好例。これをハンズオンだと言えば、そうかも知れないが、多分、巷のイメージは違うと思う。売上に関し、外部の人間が出来るのは、売上営業先の紹介と、アイディアを出すことだと一般には受け止められている。
ここで勘違いして欲しく無いのは、Aというアイディアを出すのと、Aを売上に結びつけるのとでは、数百倍程の違いがあること。 そう考えると、上場レベルの売上を作っていける人は、経営者本人だけなのである。 ただ、PEなどの人もあっての売上、利益であることを経営者は忘れてはいけない。
ハンズオンにつき補足。金融(PE)や、コンサルは、効率化や合理化を専門と業としており、実業家は少々の不合理なんか無視をして、いわゆる売上をあげることに邁進する点で、事業に対する捉え方が違うのである。よって、金融やコンサルには売上など作れないのである。
売上を作れる金融マン、コンサルなんて殆ど居ない。やるのはコストカットと役会での文句。本当にハンズオン出来るのは、実業での経験と人脈を持った人のみ。本来的にVCは、一回上がった人がやるべきこと。

人材の流動化の阻害がベンチャー起業やベンチャー支援の円滑化を阻害している面も

昨2009年末に、民主党が経済成長戦略の基本方針を発表した。輸出の大幅な伸びが期待できない中、新規産業の創出が重要なテーマと位置づけられている。それ自体は正しいのだけど、なかなか日本においては新規起業による産業の創出がうまく進まない。むしろ、起業意識は年々低下し、「日本人は保守的」だの「リスクを取る気概がない」という意見もよく聞く。そもそもこうした総論で片づけてしまっていいような問題だろうか?

能力のある人間がある程度リスクを取ってくれるようなシステムがないと、人材の適所適材が進まず、坂本龍馬のような起業家精神の持ち主も継続的には輩出せず、全体が伸び悩む。ベンチャー起業もベンチャー支援もこうした人材の流動化が進まなければ本格的には始動しないだろう。これこそ、日本経済が過去15年にわたって低迷し続けている大きな原因の1つだと思う。
こうした人材の流動化を阻害する硬直かつ歪んだ雇用システムが日本にはびこっていることも経済成長の停滞の大きな原因と言える。
本来ハイリスクに挑むべき人材が大企業に入り、保証的な仕組みによってリスクを取らずしてそこそこのミドルリターンを独占して満足する。そうでない弱者がローリターンな底辺で働き、上流部分のハイリスクまで引き受けることでバランスするようになってしまっている。
本当はこうした雇用システム全体を流動化するような見直がなされるべきなのに、現在の雇用システムを守ろうとする保守派は「自己責任だ」としてローリスク・ミドルリターンの権益を守ろうとして突き放し、底辺で働く労働者階級は「上流階級や経営者が悪い」と批判し、両者平行線をたどったまま硬直化が続いている。
全体の経済のパイを増やすには、ハイリスク・ハイリターンもローリスク・ローリターンの仕事も後から自由に行き来できるような流動的な雇用環境の整備が必要だと思う。しかしながら労働組合を背景に持つ民主党には、こうした現行雇用システムの流動化の発想は持ちえないだろうから、根本的な新規産業の創出を通じた成長戦略の実現は難しいような気がしてしまう。

逆転のグローバル戦略 〜ローエンドから攻めあがれ

今年初めの1月2日付のエントリーで、2010年は日本のGDPが中国に抜かれて世界第3位に転落する大きな転機を迎えるなど、日本企業を取り囲むグローバルな競争ルールは一変していると述べた。その中で、日本企業は、贅肉を落とした縮小均衡と新たな成長という一見すると矛盾したスタートを切らねばならず、過去に経験したことがない斬新な成長戦略の切り口が必要になると述べた。その新しい成長戦略の答えを示してくれた著書が、アクセンチュアの西村裕二氏が書いた「逆転のグローバル戦略 〜ローエンドから攻めあがれ」だ。
日本市場の世界市場における位置づけが今後着実に低下していくことは間違いない。日本市場にのみ拘ることは日本企業にとって得策ではなく、海外市場に大きく打って出ることのみが有効な戦略となるのだろう。
日本企業の収益力の低下の大きな原因はグローバル化の遅れであり、次の好景気には先進国企業だけではなく、新興国企業が強力な競争相手として現れてくる。その前に、不況の今こそグローバルなハイパフォーマンス企業に学びパラダイム・シフトを狙う最後のチャンスだと西村氏は述べる。

アクセンチュア流 逆転のグローバル戦略――ローエンドから攻め上がれ

アクセンチュア流 逆転のグローバル戦略――ローエンドから攻め上がれ

不況の今こそ求められるパラダイム・シフト

西村氏は言う。不況期をどのように過ごしたかで数年後以降の業績が大きく異なると。
不況時にはリストラや一律のコストダウンで不況そのものに対応するのではなく、不況があけた後の状況を予測し見極めながらその新しい環境に対応することを考えることが重要だと。我々が適応すべき新しい環境は、経済の主役が日米欧の3極から多数の新興国に移る多極化世界で、それに対応したオペレーションを考えることが大事だと。

多極化する経済を牽引する3つの力
多極化する経済を牽引する力として3つの力がある。
1つ目は、情報通信技術の発達だ。SaaSを代表するクラウドコンピューティングや、Web技術を基礎としたSNSのような新しいソーシャルサービス。ITの発達によりこれまで多くのシステム開発サービスやビジネスプロセスのアウトソーシング事業を新興国にもたらし、新興国の技術基盤を底上げしてきた。
2つ目は、経済開放を推進する新興国の政策の変化だ。特に2001年に中国がWTOに加盟し加盟したことは、先進国と新興国の経済的な相互依存関係のレベルを高めることになった。
3つ目は、多国籍企業が活動地域を新興国へと移し規模を拡大させた結果、新興国多国籍企業にとっての新たな資本と労働力の供給源となっていったことだ。

新興国は重要な消費市場に育ってきており、2025年までには購買力平価ベースで世界消費の半分以上を占めるようになると言う。また、イノベーション、人材、資本の供給源としても新興国の存在が大きくなってくる。

ローエンド商品での創造性の発揮が重要に
多極化世界を構成する消費者の大半は貧困層と中間層であり、低価格化に創造性を発揮し、いいものを安く提供するするグローバル版の水道哲学の考え方が日本企業の浮上にとって重要になると言う。
こうしたグローバル化を実践するにあたっての壁とされる、経営を任せられる人材と英語を話す人材の確保にあたっては、30代若手を関連会社の経営者としてチャレンジさせる将来リーダー育成プログラムと同時通訳の手配でカバーできるので心配ないと言う。

多極化時代のハイパフォーマンス企業の特徴

グローバル経営を成功させる秘訣は、「市場創造力」「M&A力」「ものづくり力」「グローバルオペレーション力」「経営管理力」の5つであり、多極化時代のハイパフォーマンス企業の条件だと言う。
1.市場創造力
市場創造力では、先進国での方法に固執することなく、その国・地域の人々にとって身近な製品開発や販売チャネルを探りながら地道なシェア拡大を図ることが重要だと言う。
2.M&A
M&A力では、規模拡大のためのM&Aもさることながら能力獲得のためのM&Aを地道に積上げていく経験力が重要だと言う。
3.ものづくり力
ものづくり力では、高付加価値品を作ることから安くていいものを作ることにシフトさせることが必要だと言う。抜本的なコストダウンのためには、「製品プラットフォーム化」「部品の共通化」「サプライヤの集約化」「研究・開発投資を設計・デザインなど川下へのシフト化」が重要になると言う。
4.グローバルオペレーション力
グローバルオペレーション力を高めるためには、深さから広さにシフトすることが大事。サプライチェーン業務や財務・経理業務、人事・総務業務など管理業務をグローバル標準化することで、製造工場の標準化、業務のグローバルレベルでの可視化、企業間での標準化による在庫や業務コストの削減などの効果をもたらす。
バックオフィス業務の標準化にあたっては、情報システム費用の抑制やIT化した業務を海外の低コスト地域に集約化することにより、さらなるコストダウンが可能になると言う。
5.経営管理
経営管理力を上げるためには、「予算立案から経営管理までのPDCAサイクルを多頻度化すること」「予測により未然のうちに対応を考え迅速なアクションを講じる予防型経営管理」「財務・顧客・業務プロセス・従業員の観点から行う多面的経営管理」の実施が重要になる。また、資金、人材、イノベーションなどの経営資源の国境や組織を越えた有効活用も重要になる。

市場創造力を上げるとは、市場参入から市場創造へ発想を変えること
新興国市場で市場を創造するためには、他社とは差別化された事業や製品に絞った展開、現地でのベストなビジネスパートナーの確保、経営トップの強いコミットメントが重要。その上で、ローエンドを狙う、ローカルニーズに適応する、ビジネスモデルを革新する、インフラを構築する、ブランドを構築するといった方策を採る必要がある。

M&A力を高めるとは、足し算から掛け算のM&Aへ発想を変えること
日本企業にはこれまで本業意識や自前意識にこだわる余り、一部の企業を除いてM&Aを戦略的に活用しようとする発想が不足していた。
能力獲得型のM&Aには「グロ−バルな販路を持つ会社がローカルな販路を持つ会社を買収するケース」「製品力や技術力に強みを持つ企業が流通ネットワークに強みを持つ会社を買収するケース」「製品力や販売力を持つ企業が生産拠点の獲得を狙って買収するケース」の3パターンがある。
能力獲得型M&Aは、自社の強みを梃子に買収先の企業の業績を何倍にもすることを狙うものなので、自社の強み×買収先企業の強みの掛け算のM&Aになる。
その際、経営者のコミットメント、中長期的な視点に立ったM&A戦略、割安な会社ではなくいい会社を見つけること、最初に戦略立案・実行・統合を見通して置くこと、逆張りの発想で投資する、できるだけ買収先の自立性を尊重するスピーディーな統合が成功のコツになる。

ものづくり力を高めるとは、ローカルニーズを吸い上げつつグローバルでハイパフォーマンスを得るものづくりを目指すこと
日本メーカーの価格競争力の低下要因は、もののコストにおける生産現場の占める割合の低下にある。そのため、生産現場のみのカイゼン活動を超えて、バリューチェーン全体をスコープとしてグローバルでト−タルコストを下げる改革が求められていると言う。
ガラパゴス化した高価格の日本の携帯電話を例に取れば、感度の高い消費者に対しては主に製品の概観を差別化して応えつつ、製品内部はシンプルなつくりにして製品間での部品の共通化を進めてスケールメリットを追及することが重要になると言う。
ローカルニーズを吸い上げつつグローバルでハイパフォーマンスを得るものづくりを目指すためには、以下のような発想転換が必要だと言う。
(1)儲かるような利益管理を行うターゲットコストの見極め
(2)提供しない機能を決めて価値を絞る
(3)内部の多様性を減らしつくりをシンプルにする
(4)ベストなサプライヤーを選択してバリューチェーンを構成し、グローバルベースでのドリームチームを作り協業する大胆な外部化を進める
(5)ゼロからの製品開発ではなく、各国・各地域の製品へのニーズや嗜好の徹底研究に基づき、競争力の源泉となるコア技術や擦り合わせ技術のみへ投資し、他はアウトソースする


3年でハイパフォーマンスを実現するための4つの課題テーマ

3年で日本企業がハイパフォーマンスを実現するために、4つの課題テーマが掲げられている。
1.価値観を変える
内需信仰とハイエンド志向、自前主義、カイゼン志向、現場への権限委譲の見直し(組織力の強化により組織への帰属による安心感の元で確実な収入と高いキャリアへの要望の高まりへの対応)が必要。
2.できない理由を排除する
「グローバルなスケールが充分でない」「任せられる人がいない」「英語を話せる人が少ない」といった固定概念の克服が大事。
3.ハイパフォーマンス企業への進化のアプローチ
「夢と社会的使命で変革エネルギーを高める」「変革の効率性を高める」「しがらみを断ち切る」
4.ラストチャンスを活かし、再び世界の頂点へ
今後、世界経済が回復すれば先進国企業も新興国企業も積極的な成長戦略を取ってくる。欧米人は大きなアイデアを出すのは得意だが、深く掘り下げることは苦手と言われるが、日本人が大きなアイデアを出すことに努力し、得意の深く掘り下げることを継続すれば、欧米型のハオパフォーマンス企業には真似のできない経営スタイルを構築することが可能になる。 

将来に対する悲観論で終わらず、これまでのアクセンチュアコンサルティング研究から得られた明確かつ具体的な処方箋が示されていると思う。