アジアの時代 〜オープン型モノ作りが市場を制する

3月29日付日経ビジネスで「社外秘をなくせ〜オープン型モノ作りが世界を制する」と題した特集があった。その中でエアコン事業を行うダイキン工業が、中核技術を一定条件付きで中国エアコンメーカー・珠海格力電器(広東省)に供与して中国市場のシェア拡大したという象徴的な事例の紹介に目が引かれた。中核技術のオープン化でグロ−バル市場需要を獲得する新しいアジア市場との取り組みとして注目したい。

1.ダイキン工業の踏み込んだ提携内容と成果
日本メーカーは、これまで圧倒的な強みを持つ中核技術の海外(特に中国)への流出を最も恐れ、中国メーカーとの提携もほとんどが成熟分野を中心とする単純な生産委託での技術提携だった。
これに対して、ダイキン工業は、2008年3月、中国の珠海格力電器(格力)に対して、空調や室温をきめ細かく制御する先端中核技術であるインバーター技術を、目的外使用の禁止と制御プログラムの中身の非開示(ブラックボックス化)を前提に供与した。その上で、

  1. 日本市場向けインバーターエアコンの生産委託(年55万台)
  2. グローバル市場向けインバーターエアコンの共同開発
  3. 基幹部品の合弁生産(中国広東省
  4. 原材料の共同購買
  5. 金型の共同開発(中国広東省

という包括提携を締結。高機能の低価格インバーターエアコンの日本・海外販売でグロ−バル市場シェア拡大に成功した。

2.ソフトウェア部分のブラックボックス化とAPIの公開が鍵
インバーター技術は約30年前に日本で開発された門外不出の虎の子技術。一方で、中国・格力の年間生産能力は2000万台で日本市場の約3倍の規模であり、中国の潜在需要は圧倒的に強く、日本国内での高コスト生産でのインバ−ターエアコンを輸出していたのでは中国市場需要に応えられないばかりか日本市場での価格競争にも勝つことはできなかった訳だ。そこで、ダイキン工業は、インバーター技術の本当のコアの制御プログラムだけブラックボックス化してAPIだけ中国側に公開することで、中国側の安価な生産能力を手に入れたわけだ。
モノ作りの世界でも、制御プログラムというソフトウェア部分のブラックボックス化とAPI(Application Interface)のオープン化を進めつつ、労働集約的な生産機能は海外にアウトソースすることでグローバルな売上シェアを上げることが効果的な利益成長戦略の鍵になっていくと言えよう。

3.オーバースペックの排除も重要
一方で、格力が作る金型は日本金型メーカーの半額で納期も半分。日本の金型メーカーは高額装置で高精度の金型を生産するが、中国メーカーは低価格品に見合った安価な金型を生産するという。ダイキン工業は6割を中国・格力、4割を日本メーカーから調達することによりコスト構造は大幅に改善したという。要は、日本の金型メーカーの金型はオーバースペックだったというのだ。オーバースペックを如何に排除するかという点も、日本メーカーがアジア市場のシェアを奪ってゆく上で大きな鍵になるのだろう。

こうして、オープン化はモノ作りの世界でもソフトウェアの優位性とその技術運用の在り方(プログラムのブラックボックス化とAPIの公開など)がクロ−ズアップされてくると同時に、日本独自仕様によるオーバースペックが排除されてゆく。こうした課題を克服しつつ今後の成長が期待されるアジア市場でのボリュムゾーンを獲得してゆくことが、今後の日本メーカーの利益成長の方程式になって行きそうな気がする。