2010年のM&A動向から見た2011年以降の日本産業構造の変化

2010年のM&A動向分析から、2011年以降の日本産業構造の変化を占ってみる。
アジアを中心に海外企業の買収が加速する一方で、中国企業による日本企業買収も目立った2010年

2010年の日本企業が当事者となったM&Aは、円高の積極活用や財務体質改善による豊富なキャッシュ余力を活かして、成長市場を海外に求めるため、海外企業を買収するIN-OUT型M&Aが大きく伸びた。M&Aの総件数は前年比12.8%減の1707件(2006年のピーク(2775件)比38.5%の減)、金額ベースでも前年比18.0%減の6兆4842億円となったが、海外企業を買収するIN−OUT型のM&Aは増加し、件数で前年比24.1%の371件、金額ベースで前年比26.8%増となり、M&A金額全体の56.5%を占めるにいたった。
国別では米国が114件、中国(香港含む)が47件、英国20件、オーストラリア16件、台湾15件、韓国、インド、シンガポールが14件となり、アジア企業の買収が目立つ。
また、海外企業による日本企業の買収(OUT−IN型M&A)は、件数は143件で前年比3.6%増、金額ベースでは4345億円で前年比36.3%減となったが、国別では、中国企業による日本企業買収が37件と米国の35件を上回り初めてトップになったことが特徴的だ。
 日本企業同士の国内事業再編(IN‐IN型M&A)は1193件で前年比21.5%減となり、M&A総件数に占めるIN‐INの割合は69.9%と、前年比7.8ポイント減、金額ベースでも前年比45.1%と大幅減少しているが、内容は少子高齢化や景気低迷などにより国内市場が縮小に対応するための、食品や医薬品、学習塾、地銀など内需型業界の再編だ。

アジア市場の成長を具体的にどのように取り込むのかが試される1年に
2011年は、世界の物作り生産基地が中国・アジアにシフトし、少子高齢化が進む中で、国内事業の縮小再編は避けられず設備能力にダブつき感があるIT電機業界や石油化学業界での国内事業再編、事業ポートフォリオ最適化を目指す医療・医薬・ヘルスケア業界での再編、少子高齢化や景気低迷の影響を受ける調剤薬局やドラッグ業界、電機量販店業界、学習塾業界、地銀などの縮小再編が続くことになるだろう。
 一方で、2010年と同様に、内需型企業による海外戦略強化や資源獲得、商社と事業会社が連携した海外展開などの動きは更に活発化するだろう。例えば、手元資金の潤沢な優良大手IT電機企業による海外企業の買収や、医療・医薬・ヘルスケア分野での海外企業の買収、資源・権益確保を目指した海外事業の買収などが盛んに行われると予想される。
一方で、2010年と同様に、金額は小規模ながら中国企業が日本のブランド力や技術開発力を求めて日本企業を買収したり資本参加する動きも更に加速するに違いない。
2011年度はアジア市場の取り込みが重要なテーマになるとみられる。その中で、製造業の場合、世界の物作りの拠点が中国・アジアにシフトし、日本の地位が相対的に低下する中で、アジア向けのクロズボーダーM&Aを進める場合、縮小する国内市場の余剰生産設備のリストラや中核技術流出の防止と新興国のボリューゾーンとなっているローエンド市場獲得といった2つの課題を両立して企業は取り組む必要が出てくる。こうした点に、アジア市場を取り込みながら具体的な連結業績の改善と企業価値向上を図っていく難しさが出てくるものと思われる。
アジア市場の内需の成長を正面から取りこんでゆくためには、もはや日本発の高付加価値製品を新興国富裕層に売って行くとか新興国の低賃金労働を活用するための生産委託という水際戦では通用しなくなった。そこで、既に出ているいくつかの代表的な事例を見てみる。

アジアの内需を取り込みグローバル化を目指す提携戦略事例 
エアコン事業を行うダイキン工業は、2008年3月に、中核技術のインバーター技術の制御プログラムをブラックボックス化することを条件に中国エアコンメーカー・珠海格力電器に生産委託し、低価格・高機能のグローバル市場向けインバーターエアコンの共同開発によりその後大きく業績を伸ばした。同時に、オーバースペックだった日本の金型メーカーへの発注を4割に減らし6割を中国製金型に切り替えるリストラも行っている。
次に、4期連続の赤字に陥っていたレナウンは、2010年5月に中国の山東如意集団山東省)の発行済株式数の40%の資本を受け入れて財務内容を梃入れ2011年度黒字化、今後中国での店舗拡大を通じて新たな成長を目指している。
最後に、2010年12月27日付け日経新聞にて報道されたが、中小型液晶を手掛ける日立ディスプレイズは新工場建設に当たって、EMS最大手の台湾ホンハイ社に最終的に発行済株式の70%の1000億円を出資してもらい、日立は現状業績不振で市場変動リスクの大きい同事業を切り離して社会インフラ事業に経営資源を集中することを検討しているとのことだった。証券市場ではこの報道を好感して株価は上昇したが、中小型液晶の技術流出の問題がクリアされていない模様でその後正式リリースはない。中小型液晶の陳腐化リスクを考えれば将来的な日立グループ企業価値向上に繋がる合理性のある話と考えられる。
IT電機産業を中心に日本国内の余剰生産設備のリストラに当たっては国内事業者に買い手が現れない場合、その買い手候補にアジア、特に中国・台湾企業などが上がってくることも頻出するかもしれない。

2011年は日本企業がアジア企業に浸食され、また日本企業がアジア企業を侵食しながらアジア市場が融和に向かい、それを軸にグローバル化を加速させて行く1年になるような気がする。