起業を増やさナイト〜実践的起業セミナー報告

2月24日の18:00から、会計士の磯崎哲也氏、運用会社レオスキャピタルワークスの藤野英人氏、VC日本テクノジーベンチャーパートナーズ代表の村口和孝氏の3名による起業セミナー「起業を増やさナイト」が開催された。
生々しい成功・失敗・オフレコ体験談を交えたトークセッションだったこともあり、教科書的でもなく、ベンチャー企業がアピールするお祭り騒ぎのベンチャーカンファレンスとも違い、実に常識的な本質を押さえた説得力のある素晴らしいセミナーだった。村口氏がこれからは「起業2.0」の時代だと述べていたが、かつての国内産業保護政策の下でのソニーやホンダなど「起業1.0」の時代とは違うグローバルかつオープンな環境の中での新しい起業スタイルが求められている。イノベーションの停滞やベンチャー起業の停滞が懸念される昨今、リスクマネーの供給と起業家をつなぐ資本市場の活性化が求められていると思う。実践経験に富んだ貴重な起業セミナーだったと思うので、概要をまとめておこうと思う。
「起業を増やさナイト」 Twitterハッシュタグ=#kigyo http://kigyoka.com/kigyoka/public/news/news.jsp?id=1130
●開催日時 2010年2月24日(水) 18:00-21:00
●企業家ネットワーク事務局:藤田大輔 氏 (@mabou77)
●講師陣 磯崎哲也 氏 (@isologue)、藤野英人 氏 (@fu4)、村口和孝 氏 (@kazmura)

1.磯崎哲也氏 ―ファイアンス(資金調達)から見たベンチャー起業論
起業はリスクが少ないとは言わないが、世の中で誤解されているほど怖いことではない。起業に失敗しても、良い経営をしていてきれいに清算させて挨拶に行けば、うちに来ないかという誘いがかかることもあり、必ずしも二度と失敗は許されないという世界でもない。この場合、寧ろ失敗の経験はバリューだ。
資金調達について言えば、起業した最初には銀行はお金を貸してくれない。そのため、銀行からお金を借りない起業計画が必要。大企業など大動脈にはお金が回るようになっているが、ベンチャーや中小企業など毛細血管まで行き渡ってこないのが現状だ。一方で、エクイティの投資家とベンチャーをつなぐ資本市場は人で持っているが、まだまだその道の人(ベンチャーキャピタリスト)を育てていかなくてはならないのが現状。間接金融から直接金融への更なるシフトが必要だ。個人資産1400超円に対してVBに投資されているお金は日本で1兆円弱で世界的に見ても極めて少ない。こうした中で、現状では、ベンチャーキャピタルに投資してもらうにしても、良いベンチャーキャピタルを選ぶことと投資契約に気をつけることが肝要。
ただ、ベンチャーにアドバイスする人がここ10年で増えてきたので様々な助言も求められるようになってきており好ましい方向にはある。
資本を受け入れる場合、初期の資本政策が極めて重要。資本政策の初期の間違いほど後になって修正がきかない。慎重に考えた方が良い。何も考えずに気前よく株式を渡し過ぎて株主数が山ほど増えてしまい、株主調整がきかなくなってしまうのがよくある失敗例。
VBは、帳簿価格で勝負してはダメで、将来の予想キャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法で評価した企業価値を主張すべき。
起業は恐くない!ベンチャーは楽しい! 起業しないリスクもある!と考えるべきだ。

2.村口和孝氏 ―独立系ベンチャーキャピタリストから見たベンチャー起業論「起業家2.0」の時代。
VBの表層的美点ではなく、本質的美点を見極めて投資していくのがベンチャーキャピタリストの仕事。
例えば、DeNAには8億5000万円投資して、100億円超のリターンが帰ってきたという成功事例がある。
新規事業は組織人では無く、起業人でないとできないと見ている。サラリーマンみたな行動する起業家は失敗するし、起業家みたいな行動するサラリーマンは組織の摩擦に苦労する。出世とは、世に出ること、昇格とは本来、意味が違うはず。
ただ、日本の起業環境は歴史的に大きく変わってきている。高度経済成長期の起業は、1ドル360円という固定相場の下駄(本当の実力は200円くらい)を履かせてくれた保護政策の下での起業だったと見ておりこれを、起業1.0の時代だと捉えている。今は過去の成功経験が通じなくなった。今は円高の時代なので世界に向けて商売して行くのが大変になっている。

起業は転びながら成長してく。一社として計画通りに順調にいった会社はない。 
失敗する可能性がわかっていて起業するのと、絶対成功すると思って起業するのでは全然違う。失敗することがいけないのではなく、その可能性の高さを認識できていることが大事。DeNAにしてもinfoteriaにしても計画通りにいったことは全然ない。DeNAヤフオクとの競合で20億の累積赤字を出したことがある。
会社員は与えられた役割で成果を出す、起業家はなにやろうがいいから成果を出す。市場を通じて好きなことやって成果を出すのが資本主義、多数決で合理的にきめられるのもあるが市場原理の良い側面もある。
多数決、選挙、市場主義方式の3つをうまくバランスよく使うことが大事。

現在は起業1.0から起業2.0を模索する過渡期の時代。失われた10年というのは組織人1.0の人(サラリーマン)の言い草。寧ろ試行錯誤している有意義な時代と捉えるべきだ。
シリコンバレーが凄い人がやっているというが、シリコンバレーの創業社長やVCの2/3は異民族で、ベンチャーキャピタリストも半分は異民族。シリコンバレーの創業の3割が外人(非米国人)。また、シリコンバレーも今の成功を得るまでは失敗の試行錯誤の時代もあった。
Japan as No.1の1980年代、インテルが倒産の憂き目にあった中で、MBAで日本的経営が研究され、米国では、独禁法違反にならないレベルで、巧妙に「系列」が取り入れられていった。もっとも著名なVCのクライナ・パーキンス(KPCB: Kleiner, Perkins, Caufield & Byers)も、"THE KEIRETSU"を有益な投資先のリスクヘッジ手段として活用した。 こうしてシリコンバレーのVCは、日本の成功を見習いながら成功していった。

でも、1990年代以降の日本では、系列が機能しなくなった。その理由は、日本人がさっさと家に帰るようになり、職場や周辺企業と仕事の話をしなくなっていったからだと思っている。その結果、かつて、アメリカから見たら日本の起業家1.0は非常に発展していた見られていたにも拘わらず、その後日本は、組織人1.0の時代を経た後、起業家2.0の時代への転換がうまくできず、創業投資金額においては先進国の中では世界最下位に近い状況になってしまった。今後、いかに資本市場を上手に使いこなしていくかが重要。

キャズムの概念は大事。キャズムの前をいかに充実させるかが重要で、戦後の起業家1.0の人たちはそれが上手だった。その後、サラリーマンは(組織人1.0の人)中心の時代に移っていったが、組織人1.0の人は、キャズムを超えた事業をどう維持するかに全力をかけることが普通。キャズム前とキャズム後では成功の仕方がちがう。そもそも、キャズムを超えるポイントまでいけることがまず難しい。
VCはキャズムを超えたものに投資するのではなく、キャズムを超える前のVBに投資し、キャズムを越えさせて証券市場に送り出していく仕事。こうした投資家と事業家をつなぐ資本市場の機能がいっそう重要になる。

企業とは企業=起業家×事業(顧客×商品)×経営だ。その際、起業家としての自分(特に健康)、家族、一族の3つの要素を大事にすることが大切。その上で、起業の3条件は、1) 社会からの要請(ニーズ)があること、2) リスクが取れること、3. 「起業する」と決断できることではないかと思う。

10年後を読む未来仮説を持つことが大事。その上で、企業=起業家×事業(顧客×商品)の公式なので、起業家はどのような生き方をするか、。どういう顧客にどういう商品を売るのかが大事だが、これが難しい。なぜこの事業を始めるのかが大事。とはいっても、正解はないのでディスカッションする中でVCは起業家に5年間お金を託すかどうか考えていく。

桃太郎の物語は、起業家のモデルを表している。吉備団子=ベンチャーキャピタルのお金。雇ったサル・キジ・イヌは、 知恵の猿、情報力のキジ、良く働く犬。大事なのは、きびだんごを全部食べず、サル・キジ・イヌを雇うのに使った点。桃太郎のおばあさんは優れたベンチャーキャピタリストで。桃太郎物語はベンチャー起業モデルの象徴と言える。

3.藤野英人氏 ―独立系中小型株ファンドマネージャーから見たベンチャー起業論
そもそも自分(藤野氏)は、司法試験準備のお金を作るため、野村アセットマネジメントに就職したのだが、配属されたのが、中小企業の調査チームで、これがベンチャー企業と付き合うことになった発端。
その後、中小企業の投資にのめり込んでいった。こちら側(投資家)からあちら側(起業家)に行きたくなったので、レオスキャピタルワークスを創業した。
「あちら側」(起業家)とこちら側(投資家側)の最大の違いは頭の良さや経験ではなく、挑戦心。経験や嗅覚も大事だが、起業の一番の決めてはリスクテイカーになれるかどうかと、やはり何をしたいのかがすごく大事。
起業家は雇用も生むし、法人税も払うし、所得税も払うし、これこそが最大の社会貢献だ。
会社の運営は、従業員が気持ちよく働き、氾濫を起こさず、永遠に資金調達できるなど、ファイナンスがショートしない限りは、永遠に続く。ただ、株式公開までこぎつける社長は、そのファイナンスの時にすごい力を発揮し、本気を出して立ち向かっていく力がある。
こうした成長力の源泉を見極めるには、世の中の偏見や常識を疑ってみることにある。例えば、大塚家具は、日比谷から有明に本社を移した後、大塚社長の娘さんの代になって業績が回復した。
当時、臨海副都心と言えば、有明の都市博がダメになったからダメというのがマジョリティの意見だったが、実際に足を運んでみると、眺めがよくデートにいくカップルが寄るには絶好の好立地だと思った。そして、銀行員経験で数字にシビアな娘さんが社長になって自ら家具の搬入をやっているのを見て、これはいけると思って投資判断した。

ただ、いざ起業すると、一般的に、起業して3年で70%―90%が倒産・廃業する 新規事業や創業はそもそも1勝9負。起業の失敗のほとんどは、社内の同僚など後ろから玉を撃つ人が出てくることから始まる。コミュニケーションを密にしたり、飲み会をしたり、ビジョンを共有したりが大事で、撃たれるリスクをヘッジしないといけない。そのためにはなんでもすることが大事。コストとプライドを低く。社員を誉めることはコストゼロで効果絶大。

起業時には銀行はお金を貸してくれない。とにかくローコスト・オペレーションを徹底した。
組織にいるからできないから会社をつくる。会社をつくると経理も総務も自分でやらなきゃいけない。いかに組織がありがたいか、会社を作るとわかる。
また、嘘をついたり不誠実であると会社はすぐに破綻する。嘘つきは長期的に排除される。正直だけでもよくない。なるほどね。したたかさ、とかはけっこう必要だと僕は思います。
コストとプライドを低く。人をほめる。必要条件はいっぱいある。勤勉・倹約・正直・礼儀正しい・熱心・コミュニケーション重視など。成功するための十分条件をずっと求めてたが、十分条件は見当たらなかった。 十分条件はないと分かっていても、人は結構成功者のキャリアをなぞりたがるし、世論に流される。でも勝ち馬に乗るのは大事ともいう。難しいところがある。
「労働=時間とストレスをかけるもの、との労働観。これが日本の最大の問題だ」。自分の思いを共有し、人に貢献して、それを持続的に行うために対価を頂く行為が本来の労働だと思う。そして、成功に力を貸すのが金融の務めだとだと思っている。

4.Q&Aセッション
Q:日本の起業家と海外の起業家のちがいは?
A(村口氏):日本の事業は典型的に視野が狭く首都圏や日本全国レベルの事業計画。 シリコンバレーの事業計画書は世界レベルが普通であり、最初の段階でカリフォルニアをまずというのはある。

Q:どうすれば、グローバルレベルの起業の視野が広がるか?
A(村口氏):金融のことやりたいならウォールストリート行ってみる。そしたら「ここじゃない」と思うかもしれない。音楽好きなら北島三郎の故郷に行ってみるとか、実地検分しながら確かめてみることが大切。
新卒者は新卒カードを切るべきだと思う。でも、どこも内定決まらない場合、形だけでも企業するのも手であり、企業したものの3年間売り上げゼロだったけど、その後、大手企業に中途採用されるケースもある。

Q:何故、南場社長のDeNAに投資したのか?
A(村口氏):南場社長は、圧倒的な情熱、成功にかける執念、しつこさがあったので投資した。その当時、女性経営者NG、コンサル出身はNG、髭の経営者はNG、といったVCジンクスみたいなのがあった。彼女は2つ当てはまっていたが、 3ヵ月アドバイスしてたらすごくしつこく連絡をしてきた。そして根性があった。アドバイスしたことを翌週になってはどんどん提案し直してきた。
南場さんは、1)良い意味でしつこい。何度も電話がかかってきた。2)根性があった。3)情熱。4)成功にかける気合。5)アドバイスや言ったことにしっかり修正して、その後自分の提案を持ってきてぶつかってくるなど、腹がキチッと座っていた。何度ぶつかっても揺らがなかった。本気で成功しようと思って十年彼女のように頑張れる人は少ない。VCの仕事はそんな人を見つけることだと思っている。本気で成功しようとして10年間思ってやり続けたら5%くらいは成功すると思う。

Q:資本政策の留意点は?
A(磯崎氏):アメリカは上場時に創業者が株持ってないことも多くあるが、日本は上場後も社長がリーダーシップを取って回りが従うというケースが上手くいっている。従って、日本は上場後も社長がある程度持ち株比率を持っているとかパターンが多い。

Q:創業時の資金調達は?
A(藤野氏):創業時に銀行が貸してくれることはまずない。中小企業保証協会に行った。損してお金が返ってこなくても殺されない人から資本を集めることが大事。創業期の資金調達先のリストは犠牲者リストとも言える。

Q:起業する際の市場を見極めるコツは?
A(村口氏):起業することはトンネルを掘り抜く事ににている、自分の側とユーザー側の両側面から掘る。トンネルを掘り進めた時に市場があるかどうかの判断のために、たまにはキジに乗ってトンネルの向こうを見に行く。 うまくかみあえばつながるがつながらなければ失敗ということになる。