総務省スマートクラウド研究会中間報告案を読んで思うこと 〜独自のクラウド技術開発支援の対象が示された点に注目

2月10日、総務省からスマート・クラウド研究会の中間とりまとめ案が発表された。概要の紹介を含めて全体の印象と注目点をざっとまとめてみる。(3月9日まで意見募集中。ツイッター政策議論のハッシュタグは #scloud )
ここ2年間くらい日本国内でも様々なクラウド本が出版され、ユーティリティ・コンピューティングという新しいIT社会インフラの今後の期待や取組みが伝えられてきたが、本報告書はその集大成と言え、ようやく米国レベルの認識が公式に共有できるようになったのではないかと思った。寧ろ、今後は如何に利活用を進め、IT社会インフラとして使い倒していくかが日本の産業界全体の国際競争力強化にとって重要になるのだというメッセージを感じた。

併せて目を引いたのが、第4章でクラウド技術開発の政府支援の具体的な対象と取組み姿勢が示された点だ。特筆すべきは、これまで色々注目されてきた仮想化技術に加えてGoogleの分散データシステムであるBigTableMapReduce、そのオープンソース版のHadoopを引き合いに出され、コンピューティング技術の根幹とも言える分散処理技術の研究開発を推進していくことが盛り込まれたことだ。往々にして利活用のためのソフトウェアやシステム開発が注目されるが、大量データ処理技術という基礎技術開発促進にも焦点が当てられたことは特筆される。

かつて日本のICTは半導体技術の先進性で国際競争力をつけた時代があったが、スマート・クラウド時代においては通信技術に加えて、こうした分散コンピューティングのミドルウェア技術開発力が重要になる。しかしながら、この分野はGoogleなど米国勢の独壇場になっており、日本の多くのICT事業者もこれら海外技術の単なるインテグレータに成り下がってしまっているのが現状だ。
これまでこのブログの過去のエントリーでも今後のICTの国際競争力強化ではこうしたソフトウェア開発力の日本発の強化が欠かせないと述べてきたが、ようやく国家戦略の中にもこうした基幹技術の自国開発支援の視点が盛り込まれた格好だ。
スマートクラウド研究会の中間とりまとめ案の概要を記述してみる。

1.クラウドサービスの特徴と課題
クラウドサービスの特徴として、拡張性(必要なだけコンピュータ資源を利用できる)、可用性(他のサーバーでの代替利用可能性)、俊敏性(直ちに利用可能でクラウドサービス基盤も変更可能)、可視性(計測管理可能)、経済性(初期投資費用の変動コスト化)が挙げられている。一方で、クラウドサービスの課題として、安全性・信頼性の確保、データの所在、サービスのボーダレス性、独自の事業展開に対する国際・標準ルール化の必要性を指摘している。こうした特徴と課題は今後のクラウド事業者の新たなサービスの付加価値のメルクマールになってゆくのだろう。
2.クラウドサービスの普及で期待される効果
クラウドサービスの普及で期待される効果として、産業の枠を超えた効率化の実現(ICT利活用コストの低減化、企業のスタートアップの容易化など)、社会インフラの高度化の実現(交通管制、河川・港湾管理、災害対策、エネルギー制御などの高度化)、環境負荷の低減、企業のグローバル展開の促進があると言う。その通りだろう。
3.クラウドサービスの普及基本三原則
政府のクラウドサービスの普及に向けた基本三原則として、多様なクラウドサービスの利活用促進、クラウド技術開発の促進、環境整備・公的支援・調達主体の3点での政府支援が挙げられている。
4.クラウドの利活用促進の対象分野
政府はクラウドサービスの利活用促進の対象分野として、電子行政クラウドのほか、医療クラウド、教育クラウド、農業クラウド、地域コミュニティクラウドを挙げているほか、スマートグリッドでの活用や次世代ITS、広域センサーセットワークによる河川情報、雨量情報、災害情報での活用、中小企業やベンチャー企業の利活用促進を掲げている。医療、教育、農業、地域を重点分野として取り上げられていることが特徴的だ。

5.次世代クラウド技術開発の政策支援
今後開発支援していく次世代クラウド技術分野として、1)大量データベース処理を行うため大量のコンピュータ資源を使って大規模並列処理を実現するクラウド技術、2)安全性・信頼性の向上を実現するクラウド技術、3)環境負荷の軽減に貢献するクラウド技術の3点を挙げている。こうした次世代クラウド技術開発支援のために、政府は産学官連携のオープンイノベーションを生み出すための「クラウド研究開発プラットフォーム」、アジア・太平洋諸国と連携した次世代クラウド技術の開発を行う「アジア・太平洋クラウドフォーラム」を開催し、共同技術開発や標準化などを進めてゆくと言う。

6.その他政府支援策
クラウドサービスが利用者の所在地と関係なくボーダーレスな環境で提供されることから、政府は、各国に保存されたデータベース等に関する裁判管轄権、個人情報保護法知財権の保護、有害情報対策、政府の民間データへの介入可能性などについて、政府間で国際連携を図って行くと共に、ネットワークの中立性問題にも対処していくとしている。オープンインターネットと同様に、無秩序にクロスボーダー展開しかねないクラウドサービス関連産業の適正な育成を促すためにも、公正なルール化を政府が後方支援していく姿勢を示した点は評価できよう。