IBMの次世代事業戦略 -次世代メインフレームと次世代データセンター、クラウドコンピューティングへの取組み

murakyut2008-09-01

日本IBMでも2008年8月1日、同社晴海事業所内にクラウドコンピューティング環境を提供するための施設「IBM クラウド・コンピューティング・センター@Japan」を開設した。
IBMは、2007年6月の米シリコンバレーをはじめに,アイルランドのダブリン,中国の北京,南アフリカヨハネスブルグクラウド・コンピューティング・センターを開設してきており、日本は世界で5番目のセンターとなる。

先日、ある大手情報システムメーカーの幹部の方とクラウドコンピューティングについての話をしていて「GoogleのようなBtoC型のWeb企業が注力するのは分かるけど、メインフレーム事業を中核に位置づけているIBMが何故あれほどクラウド・コンピューティングを意識した研究開発に邁進するのか理解できない」という言葉が出てきたのが印象的だった。筆者は、日本ICT企業が見えている事業環境認識が、グローバルなIT進化の世界観から取り残されてしまっていることを直感した。そこで、今回は、IBMの事業戦略ビジョンについて、少し深く整理してみることにする。

巨大コンピューターメーカーのIBMは、メインフレーム事業をコアにしながらも、コモディティ化したDRAM事業、フラットパネルディスプレイ事業、HDD事業、PC事業(中国Lenovoへ売却)からは容赦なく撤退した。一方で、次世代の半導体技術開発(Cellなど)、次世代コンピューターアーキテクチャー、クラウドコンピューティング、)複雑なビジネス問題を解決する数理技術の開発への先行投資は惜しまず、オープンソース化の流れを着実に取り込みつつ高収益ICT企業として成長していることを前回書いた。


従来の延長線上にないIBMの新時代に向けた研究開発投資分野
IBMの新時代に向けた研究開発投資の分野は、以下のような従来にない新規分野の基礎技術開発投資である。ここにエレクトロニクス企業として新しい地平線に向けたチャレンジが窺える。
1)太陽電池、海水淡水化、バイオマス燃料電池など「エネルギー・環境」関連の基礎技術開発、
2)交通システムなど「ITS」関連の基礎技術開発
3)鳥インフルエンザアルツハイマー対策などの「メディカル」関連基礎技術開発
4)農作物の大量生産を目指した「農業」関連基礎技術開発
こうした新規分野の技術開発にあたりIBMは、各地域のメーカーや大学や自治体などと共同開発のパートナーシップを結びながら取り組もうとしている。
これらの新規分野は唐突に出てきたものではなく、これまで当社が蓄積してきたナノテクノロジー半導体の微細化技術など大量の知的財産権、コンピューターを利用した生命工学技術などの活用の延長線上にある新規分野だ。また、投資成果の狙いも太陽電池メーカーや医療機器メーカーになる訳ではなく、これまでと同様に技術ライセンス収入の増大、コンサルティング・サービスやソフトウェア・ハードウェアなど売上増大を目指すものと見られる。

IBMは明らかに、選択と集中を目指す従来型エレクトロニクス企業とは異質の未来を切り開こうと動き始めている。
もっとも、IBMは、従来型のメインフレームメーカーとしての要素技術への重点投資も表明している。これらは前述した、次世代の半導体技術開発、次世代コンピューターアーキテクチャー開発、クラウドコンピューティング技術開発、数理技術の開発の4分野である。これらのコア技術開発が、エネルギー・環境、ITS、メディカル、農業関連といった異質な新規分野の技術開発とついになっている点がユニークである。


IBMのクラウドコンピューティング技術開発
クラウド・コンピューティング技術開発の中には、大量のインターネット・トラフィックと企業からのサービスコールに応えるための次世代データセンターの開発が中核におかれている。
次世代データセンターのコンセプトとして、IBMは、「運用中心」から「ビジネス目標主導モデル」への転換、「IT運用に関する課題解決やコスト削減」から「経営とITの一体化」を掲げている。

IBMは、次世代データセンター事業計画の中で、IBMが最も得意とするサーバー分野でオープンテクノロジの活用、業界とのコラボレーション、IT業界におけるリーダーシップを積極的に果たすとしており、これにより、ブレードサーバーでの先進的な仮想化ソリューション、エネルギー効率の改善ソリューション、セキュリティサービス、ビジネスオペレーションの継続保障をメインフレームとセットで巨大な1つのハードウェアとして顧客に提供しようとしている。

クラウドコンピューティング技術の中核をなす次世代データセンターでは、拡張性や柔軟性を高める仮想化技術(主にコンピュータとOSの関係を仮想化するサーバーの仮想化)と、熱処理部分のコストダウン化がコア技術として重視されている。IBMの次世代データセンター事業計画では、前者で圧倒的な優位性を発揮するものとして注目されよう。


日本エレクトロニクス企業はIBMの後を追えるのか・・・
国内同業事業者も、IBMのクラウド・コンピューティングへの取組みを意識してサーバー事業の強化やオープンアーキテクチャへの移行を進めようとしている.
しかしながら、IBMはクラウド・コンピューティング技術の開発、次世代半導体技術開発、次世代コンピューターアーキテクチャー開発、数理技術の開発に加えて、グローバルベースで、エネルギー・環境、ITS、メディカル、農業関連といった異質な新規分野への研究開発投資を壮大なビジョンを持って取組んでいる。
こうしたIBMの余裕のある取組みを考慮すると、日系エレクトロニクスメーカーの取組みは、IBMの構想の壮大さに引けと取って見えてしまうような気がしてならない。

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