2009年の金融経済情勢とICTトレンド

murakyut2009-01-02

明けましておめでとうございます!
早速、近くの不動尊に初詣に行き、おみくじを引いてきました。何と大吉!!
よろず細かきことに心を配らず、時の至るのを待てば物事成る。病人長引くも大切に養生すれば、ついに本復する。生死十に八九生きる。暴風下にある不況の嵐の中にあって、2009年の幸先を期待できる良いお告げでした。
ここを訪れた方々の新年のご多幸をお祈り申し上げます。

【金融・経済情勢の激変】
思えば、前回9月7日に更新して以来、大幅なブランクとなってしまった。金融・経済環境の激変のため、暫く事態の把握に時間を取られてしまったためだ。
9月15日に米国大手投資銀行のリーマンブラザーズが経営破綻し、16日にはAIGの救済策が発表され、21日にはゴールドマン・サックスモルガン・スタンレーが銀行持株会社への移行を表明し、世界から投資銀行が姿を消してしまった。サブプライムショックの激震が一気に世界を駆け巡った。
証券化商品やクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などの新しい金融商品市場の膨張が、融資したローンを証券化して投資家に販売し、証券引受業務といったブロカレッジ業務から自己勘定でのプリンシパル投資まで手掛けるという川上から川下への一気通貫型の金融コングロマリット型ビジネスモデルが機能停止してしまった。信用格付けが機能しなくなった金融市場はクレジット・クランチに陥り、氷結状態になっている。

【ピンチはチャンス】
その後、米国自動車大手ビック3の経営破綻の懸念といった実物経済悪化が急速に進み、日本国内の企業業績もここ1〜2ヶ月で急速に悪化した。新年に入っても坂道を転げ落ちる5合目あたりを彷徨っている有様だ。
世界不況の震源地の米国経済の回復はオバマ新大統領の采配の行方如何に懸かっている。
欧州も不動産バブルの崩壊で、中小国の事実上の国家財政破綻が起きており1ポンド=100円の時期もすぐ目の前だ。こうした世界不況を救う潜在力を持っているのは、世界最大の外貨準備高と成長力を誇る中国と成長力は乏しいけどお金は持っている日本であり期待は高い。

比較的サブプライム問題の傷が浅かった日本経済は、2009年が企業業績的に見ても更なる減収減益の最悪ボトム期となるだろう。年明け後も失業率の更なる悪化などで家計の不況感も暫くは悪化が続くだろう。
但し、日経平均株価は9月から10月末にかけて12000円台から7000円割れまで下落したものの、その後は8000円前後のボックス圏で推移している。親しい某証券アナリストに聞いたところ米国ビック3の経営破綻も織り込んだ株価推移になっているという。ということは、株価だけ見れば、2009年の業績ボトムを織り込んだ水準になっていると見られ、新規投資を狙う投資家は投資チャンスを窺っているといったところだろう。企業もクレジット・クランチの中での資金作りのために事業部門の売却などを進めるだろうから、これからM&Aなども活発化するに違いない。

2009年の金融・経済情勢いついては、投資家の立場に立っている春山昇華氏のブログ「おかねのこねた」での分析が中期的かつ構造的視点に立ってしっかり的を得ているため、いつも信頼できる分析情報として参考にしているので引用しておく。

2009年の経済情勢としては、世界を見渡して、業績下方修正は年明けも終わっていないと思う。
1月〜2月にかけてが、企業の景況感が一番冷え込むのではないかと考えている。
2009年の株価の反応だが、
?金融環境の変化よりは遅いが、
?企業の経営者の思惑や業績見通しの対外発表よりは早い
という常識的なものだろう。
図解入りの詳しいログは以下を参照。
http://www.doblog.com/weblog/myblog/17202/2622195#2622195
あと、2009年の世界経済の行方についての大局観は、おなじく春山氏の「2009年を考える、パラダイム・シフト」が参考になる。 
http://www.doblog.com/weblog/myblog/17202/2622170#2622170

マスコミ情報は、常に後追い情報になっているため、暫くは業績悪化や失業率の増加など、当面は悲観的なニュース情報ばかり流し、国民を不安の淵に陥れるだろうから、半歩先を見て常に割り引いて見て行こうと思う。

【世界金融大不況がもたらす意味】
さて、足許の金融経済環境の分析は置いておいて、今回の世界的な金融大不況がもたらす2つの大きな成果が待っていると思う。
1)1つはサブプライム問題が象徴するような過大な借金をして不動産のような大型消費をする米国型消費経済が世界経済の牽引車ではなくなったこと、
2)2つ目は、GoogleAmazonの取組みに象徴されるようにICTを活用したグローバルなオープン・ネットワーク経済化が一層進むと予想されること。

前者においては、中国、インドなどのアジアの経済成長牽引力の重要性がますます高まるとともに、新エネルギー開発や資源開発が新しい成長エンジンとして注目されるだろう。
後者においては、クラウド・コンピューティングの進展による新たなICT産業の勃興に加えて、企業経営のガバナンスにおいても、米国流の株主保有説に基づく市場原理主義でもなく、日本流の経営者保有擬制説に基づく経営者主体主義でもない真のダイバーシティ経営が要求されるだろう。

こうしたことを考えると、私が9月7のブログで書いたように、コモディティ化する事業を売却し、全世界にクラウド・コンピューティング・センターを構築しながら、1)エネルギー・環境関連の基礎技術開発、2)ITS関連の基礎技術開発、3)メディカル関連基礎技術開発、4)農作物の大量生産を目指した農業関連基礎技術開発などに先行投資をしながらICTサービス企業化を推進するIBMの事業戦略の方向性は正しいと言えよう。
http://d.hatena.ne.jp/murakyut/20080901

また、8月24日のブログにも書いたように、イノベーションのコストの削減が図れる一方で、市場投入期間の短縮化や他社とのリスクシェアの可能性が生まれ、大幅な効率化が図れるオープンソース化も重要な企業経営戦略となろう。ICT産業はまさにこうした来るべき新世界のインフラと基礎サービスを提供する主体として役割期待は大きいと思われる。
http://d.hatena.ne.jp/murakyut/20080824


さて、日本企業の現状を振り返ってみると如何なものか?アクティビストファンドのような市場原理主義者が姿を消して保守反動に走りかねない懸念は残っていると思われる。
日本企業では、依然として50歳代以上の世代に大きな権限を握られ、35〜50歳前後までのサラリーマンの閉塞感が沸くような年功序列的な経営ガバナンス風土が多く残っている。こうした環境下では、こうしたオープン・ネットワーク経済化への対応に乗り遅れかねないように思う。
こうした日本企業の経営ガバナンスに対して、少し前の景気好調時の株式市場で、世界の投資家はJapan PassingならぬJapan Nothingと揶揄したわけだが、こうした根本基調が改善された訳ではないのだ。
「組織の文化が腐るのは、トップが腐るから」という金言があるが、日本企業は概してこうした基調から抜け出していないことが活力低下の大きな原因になっているように思う。オープンネットワーク経済化は、何もコンピューター技術論に留まる話ではなく、こうした組織マネジメントの柔軟化を進める起爆剤であって欲しい。
http://nishimori.blog110.fc2.com/blog-entry-156.html

今回の大型不況の中のリストラの流れの中で、ピンチをチャンスと捕らえて賢明な経営判断がなされることを期待するのみだ。

【米国で注目されている2009年の技術トレンド】
世界不況の震源地の米国のシリコンバレーベンチャー企業も苦境に立たされているが、日本以上に新技術開発への取組み意欲は強いようだ。
Business Weekの記者によるTech Trends to Expect in 2009の対談内容は興味深い。
http://www.businessweek.com/technology/content/dec2008/tc20081211_906153.htm

2009年の注目技術・イベントとして、ゲーム関係、iPhoneなどのスマートフォン、中国の景気後退影響、フラッシュメモリ、壁掛けPC、持ち運びできるUMPC、次世代携帯電話のLTE、ワイヤレス・ブロードバンドの世界的な普及、音声認識技術を使ったアプリケーション、パーソナル・アシスタント関連の10項目を挙げている。

次に、米国のVentureBeat誌 2008/12/31に掲載されているTen tech predictions for 2009 では以下の10項目が挙げられており、活発な動きが無視できなさそうだ。

http://venturebeat.com/2008/12/31/ten-tech-predictions-for-2009/
1.技術系ベンチャーIPOは年内は望めない: ちなみに、2008年はシリコンバレー発企業によるIPOはわずか1社!
2.エネルギー・インフラへの投資は続く: Obama次期大統領は8,000億ドル(約70兆円弱)の景気刺激策を約束しているが、少なからぬ資金が風力発電プラントや送電線網構築に費やされる。
3.AndroidiPhoneを抜く: 40を超すAndroid搭載機が発表され、Android搭載機の売れ行きは2009年7月までにiPhoneを超すだろう!
4.Appleは今年も絶好調: 2008年Q4の純利益は前年同期の約2.2倍を記録。しかも、売上高の2倍以上に匹敵する前受金を売上計上しないでこの実績(詳しくはこちら)。この勢いは2009年も衰えない。
5.クラウド・コンピューティングが流行りそう: ユーザはコストをかけずにサービスを利用できるので、不況に強そう、ということらしい。
6.クリーンテックがらみのトラブル続出: 環境にやさしいはずのクリーンテックだが、風力プラントの停止、ソーラー設備製造による環境破壊、訴訟、盗難など、あちこちで問題が起きているようだ。クリーンテックだからと言うだけで信用してはならないということらしい。
7.Twitterはマネタイズできるか: 出来なかったら身売りもありえる?
8.Microsoft版のiPhone - "Zune Phone"が登場: 果たして実現するか?
9.iTunesDRMフリーに: 可能性はあるのか?
10.VCの資金調達(ファンド設立)は激減: 問題はどの程度まで減少するか。VCが資金調達できなければ、VCからベンチャー企業への投資も減るのは必然。賢明なベンチャーは、VCからの資金調達に頼り過ぎずに成長する道を探している。


一方で、PC業界に絞った2009年のIT業界についての大胆予想としては、ややニッチだけど次のようなブログ評論がされている。(概要だけ引用)

http://japan.cnet.com/blog/kichi/2009/01/03/entry_27019130/
GPUの飛躍の年。OpenCLDirectX 11によるGPUメーカに依存しない開発環境が揃うこと。IntelからLarrabeeが発売される可能性など。
■PC向けCPU関係では、PC向けのCPUがそろそろオーバースペックになりかけていること。
■サーバ向けCPU関係では、SunのROCKや、IBMのPOWER6の後継のPOWER7のリリースの可能性についての言及。
UMPC(Netbook)の行方については、AMDUMPC向けCPU&チップセットのリリースの可能性
■PCの世界市場シェアについては、Acerの勢いは止まらず、Dellを追い抜くのではないかとの言及。
■ブラウザ競争
Chromeの正式版に続き、Safariの次世代バージョンとFirefoxなど、今後もJavascriptプラットフォームの競争激化が進むとの言及。
スマートフォン市場
Androidの発売とIntelの"Moorestown"が発売されることに伴う、スマートフォン市場の活況。
SSDが発展・普及。2009年には東芝から512GBが発売され、一般ユーザには十分過ぎる容量となり、転送速度が200MB/sを超える製品が珍しくなくなるため、ノートPCやNetbook等のモバイルだけではなくデスクトップPCにも採用される可能性。

ICT全般論では、ブロードバンド先進国の日本でも米国と同じような項目が注目テーマとして挙げられようが、オープンソース的なビジネスモデルやクラウド・コンピューティングに向けたミドル・ソフトウェア開発などの取組みが誰によってなされるのか注目したい。

少し長くなったが、新年を迎えた中での大きなトレンド感を整理してみた。

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