今日は、少しクラウドに関するちょっと気になった技術的な論評があったので・・・・・

日経エレクトロニクス1月26日号で、米国Sun Microsystemsの副社長兼フェローでJavaの最初の設計を手掛けた「Javaの父」と呼ばれるJames Gosling氏とのインタビュー記事の中で、同氏がGoogleの技術戦略に疑問視するコメントがあったので紹介する。

Q)Googleの「すべてはクラウドに展開する」という発想は、あまりよくないことお考えなのか?
A)検索では正しいアプローチでしょう。しかしデスクトップ・アプリケーションをすべてクラウド・ベースにするのは感心しません。Google Apps表計算や文書作成のWebアプリケーションはひどい出来です。こうしたアプリケーションはJavaJavaFXでもWebアプリケーションとして実装できますが、ネットワークの遅延を考えると悲惨な結果にしかならないでしょう。

確かに、すべてのデスクトップ・アプリケーションをすべてクラウド・ベースになるというのは、ネットワーク遅延という問題を考えると、やや極論だろう。なんでもクラウド・ベースになるとは思わない。

一方で、Googleは、昨年12月9日にOpen Handset Alliance(OHA)のメンバーに新たに14社を加えた。中でも日本の携帯電話事業者では、NTTドコモKDDIに加えてソフトバンクモバイル加わることになった。

世界で唯一、日本の同一国内の3キャリアをOHAのメンバーに加えた背景には、Googleにとって携帯先進国の日本はこれからの世界のケータイビジネスの行方を見極めるテストマーケットとして重視した可能性が高いと言われている。
3番手のソフトバンクモバイルを加えた背景には、むしろライバルであるYahoo!Appleなどを使っているユーザーをいかに自陣営に取り込んでいくかの戦略を練る上での格好の”実験動物”と捉えられたのではないかと、Batayan3氏が2008年12月16日のエントリーでコメントしている。
今年は、携帯各社からGoogleAndroid携帯が発売されると言われているが、どのようなアプリケーションができる携帯が売り出されてくるのか不明。
世界の携帯先進国の日本でもこれから本番という段階なので、ネットワーク遅延の可能性も含めて、全てがクラウド・コンピューティングに向けた実験段階というということなのだろう。まだ、技術戦略への評論も時期尚早だと思う。

あっ、最後に、上記で「なんでもクラウド・ベースになるとは思わないと」書いたが、この辺の話に関連する話題として、日本のIT産業へのマイナス・インパクトについてu1969さんが書いた以下のエントリーコメントがある。クラウド化した場合、日本のIT産業の差別化にとって「ガラパゴス化は良いことでは」と。

クラウドやPaaSは、サービスが標準化されているので、利用する日本企業にとっては選択の余地がなく、コミュニケーションも必要ない。Web画面だけで申し込みできるかもしれない。そうなると「言語の壁」はなくなる。
でも、クラウドやPaaSの普及は間違いないだろうなぁ。このような「正しい」技術は、業界がどう考えようと、顧客が望むので普及する。オープンソースのように。
そのように考えると、日本のIT産業ももっと差別化を考えないと。米国のサービスを再販するなど、もってのほか。
ちょっと違う話しになるかもしれないけど、「日本はガラパゴス化しており、良くない」という話しをよく耳にする。でも、意図的に、戦略的に「ガラパゴス化」するというのは「あり」なのではないか?それも差別化だし。問題は、ガラパゴス化した日本の製品が、海外では通用しない、ということだと思うけど、逆にガラパゴス化した日本の製品が海外で競争力を持てれば、「ガラパゴス化は良いこと」なのでは?

これに対しては、私が大分前に日本のIT産業の進むべき方向についてmkusunokさんの別のエントリーにコメントしたことがあり、思い出したので、少し話の視点はぶれるが蛇足で付け加えておく。

インド人や中国人なら大学院卒の上級SEが年収300〜500万円で採用できてしまうという統計があり、日本のSEの国際価格競争力の低下は明確になってきています(日本だと同レベルのSE雇用維持に700〜1000万円かかる)。
これがインドや中国へのオフショア化の流れを作ろうとしています。一方で米国では、Salesforce.comがSaaSのような新しいASPサービスを展開し、ここにGoogleなども加わり、クラウドコンピューティングという新しいITトレンドを作り出しています。日本のSIer業界は、こうした国際化の波にも乗れず先行きの出口を失ったゼネコン業界と同じような危機に瀕しているように見えてなりません。
700〜1000万円クラス以上の超優秀な上級SEやマネジャーのみを、隷属されている硬直的な大企業から引き剥がし、大学などにGoogleのようなインキュベーションセンターを作った上で、政府が補助金を出して彼らをそこに集め、海外を凌駕するような先進的SE技術の研究開発をして産学協同の成果を国際的にアピールするくらい思い切ったことが必要なのじゃないでしょうかね?

日本のITサービス業界や携帯電話業界のIT産業の国際競争力の強化という視点からの今後の対抗措置を考えるとなかなか悩ましいような気がする。

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