上場企業71%減益(08年10〜12月期)という数字が踊る中でのダボス会議 〜足元の経済定点観測など

年初のエントリー「2008年の回顧と2009年の展望」で米国自動車大手ビック3の経営破綻の懸念や日本国内の企業業績のここ1〜2ヶ月での急速な悪化局面に入り、足元も坂道を転げ落ちる5合目あたりを彷徨っている状況だが、ピンチはチャンスだと書いた。

そんな中、1月28日から31日までスイスのダボスで世界の政財界の指導者が集う世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)が開幕されたが、日経新聞の面には、上場企業71%減益(08年10〜12月期)という見出しだけが躍り、ダボス会議が大々的に報道されることはなかった。

断片的にダボス会議関連で報道されたのは、麻生さん(首相)が、アジア向けに1兆5000億円ものODAを行うと意思表明したことや、ダボス市内のホテルで同行記者団に語った際、 環境セッションで同席した英国のトニー・ブレア前首相のことを、「トニー・ブラウン」と3回も言い間違えたことなど。相変わらず、日本国民から見て、今どきアジア向けにODAを1.5兆円も実施することが日本の経済指導力に繋がることなのかといった疑問感や、指導者として当事者意識の欠けた発言を相変わらずしている・・・・といった情けない報道のみだ。

確かに、今回のダボス会議は、金融危機による世界同時不況の中で、かつてのビルゲイツのようなIT業界のビッグネームなども登場せず、去年までは注目の星で石油で巨大資金を集めた中近東のSWF(国富ファンド)などもなりを潜め、中国やロシアの首脳が米国型資本主義のせいで世界同時不況に陥ったと米国批判するなど、全般としてはかなりトーンダウンした重苦しい雰囲気だったようだ。

さて、足元の経済動向を数字を追ってフォローしてみる。米国の2008年第四四半期のGDP速報値が年率換算で▲3.8%と発表されたが、市場コンセンサス予想が▲5.0%だったので金融市場的には想定の範囲内でぼ下落でノーサプライズ。でも、水準的には、1982年以来の下落幅で、1990年の不動産が金融危機S&L危機)以来の落ち込みだ。
米国の住宅価格動向(ケース・シラー指数)も2008年11月でピークから▲25.1%の下落率となっており、暫くは底値を探る展開となるだろう。

日本の鉱工業生産指数も2008年2月をピークに▲24%と、第一次石油ショック時の下落幅約▲19%を超える大幅な生産調整が続いている。私の親しいエコノミストに聞いても、2009年は更に▲15〜▲20%程度下落するという見方をしているので、年初のエントリーで書いたように、日本の実態経済の悪化のジェットコースター状態も5合目近辺で、道半ばといったところだろう。

失業率も足元5%程度まで上昇しているようだが、ITバブル反動不況時に5.5%の水準まで悪化したことがあり、今はこの水準に至っていないのだから、これもまだ悪化の道半ばだ。2009年度上期(4〜9月)で更に企業の生産調整(当然、企業業績の赤字幅は拡大)が進むだろうから、失業者の増加はまだまだこれからが本番だろう。
ただ、1930年代の金融大恐慌の際には、失業率は20%を超えたとされており、さすがにその水準までは悪化しないだろう。だから、マスコミやそれに乗って発言している、どこかの総理大臣が言う「100年に一度の不況」というのは大袈裟だと思っている。平常心が働かなくなると、ついこういう感情的なフレーズが踊り、世の中の人たちに余計な不安心理を煽ることになるのだろう。

あと心配なのは、急速に進展している信用収縮(クレジット・クランチ)だ。日本の社債市場は2009年度6.3兆円の償還を迎えるが、投資家からの投資が敬遠されている格付けA(シングルA)以下の社債償還額が3.4兆円がリファイナンスできるかどうかの瀬戸際に来ている。今や、シングルA以下の社債へ投資するような機関投資家は少なくなっている。今後、強烈な信用収縮の中で資金繰り破綻する企業もこれから相次いで出てきてもおかしくない。

今期、トヨタが4000億円の営業赤字、日立が7000億円の営業赤字への下方修正を発表する状況で、2009年度は更に企業業績全体では悪化し、ボトムになるというのが市場でのコンセンサスになっている。大企業の経営破綻のニュースがいつ飛び込んできてもおかしくないのが2009年だろう。
失業率ももっと悪化し、巷の消費者の顔はもっと悲壮感に満ちた顔に変わっていく可能性が高い。

1月5日のエントリーで、人間の心理は弱いものだと書いた。でも、最初から今は序の口・5合目だと、このくらい腹をくくっておけば、これから嫌というほど新聞やニュースに躍り出てくるだろうバッドニュースに悲嘆にくれることもなくなるのではないか?

経済雑誌WEDGEの2月号の表紙に、大雪のなかで車が1台も走っていない凍りついた首都高速の写真が掲載されていた。そこでの写真家のコメントは、赤穂浪士の討ち入りや、2.26事件といった暗いイメージではなく、高速回転していた都市が完全に機能停止し、煽られるように働いていた我々にしばしの休息を与えるような明るいイメージだとコメントしている。

最近の日本は明日を考える余裕がなくなってしまっている、そのような傾向が強いような気がする。でもその時に勝機があるのだ!と1月5日のエントリーに書いた。構造変化が求められているいまこそ、前向きに明日のグランドデザインを真っ白なキャンバスに、色々な楽しい未来像を描いていくときではないだろうか。

欧米では、中期的な新規雇用のためのグリーン・ニューディール政策が始動している。ドイツでは新エネルギー開発の要として太陽光発電関連を挙げ、原子力発電所の建設を禁止してまで政府が新エネルギーに補助金を出す割切りよう。米国・オバマ大統領も、今後中期的に太陽光発電関連で500万人の新規雇用を生み出すと打ち出している。
これらを担うシリコンバレーベンチャーの足腰も健在だ。

また、最近、半導体DRAM)産業が急速に業績悪化して厳しい状況に陥っているが、今や世界の半導体工場となってる台湾では台湾政府が5000〜6000億円を半導体や電子デバイス企業の支援のために投資すると打ち出している。現在、資金繰りに窮している日本のDRAMメーカーのエルピーダ・メモリも事実上、台湾政府の支援の下、台湾系メーカーになってしまう日も遠くないような気がする。

日本政府は、最近規制緩和と市場主義に走りすぎ、産業政策力がめっきり落ちた。将来の成長産業のビジョンもなければ無策といっていいような状況だ。

GoogleAmazonが新しいクラウドの世界を切り開いていくIT産業であれば、今こそ、日本のゼネコン化したITサービス企業はガラパゴス化を盾に籠もるより、年収700〜1000万円クラス以上の超優秀な上級SEやマネジャーのみを、隷属されている硬直的な大企業から引き剥がし、大学などにGoogleのようなインキュベーションセンターに集めて、政府が補助金を出して支援したら、海外を凌駕するような先進的SE技術の研究開発ができる産学協同ベンチャーIT企業ができるのではないだろうか?これくらいの大胆な発想転換とリーダーシップの出現に期待したいのだが・・・・


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