景気の急速な悪化と経済界の認識不足 〜米国時代の終焉

米国政府は、2月27日に最大の金融機関シティグループ保有優先株普通株に転換することにより36%の大株主になることを発表し、事実上、米国政府管理下で同金融グループの事業の整理が進められることになった。こうしたことから米国の金融不安が再燃し、米国株安につられ日経平均株価も3月3日には、2008年10月末の7000円割れ一歩手前の7000円台まで低下している。
実態経済を見ても米国の2008年10-12月の実質GDPは▲6.2%の下落、日本の2008年10-12月実質GDPも▲12.7%と輪をかけた急激な下落となった。
10-12月期の日本の急速な景気悪化は、自動車や電機産業を中心に、これまで加速していた設備投資に急ブレーキがかかったことによるもの。だが、自動車や電機といった主力製造業の牽引で世界第二のGDP大国となった日本にとって、主力産業の急ブレーキはゆゆしき事態を物語っていると言えよう。

こうした急激な景気後退に対して経済界は、お決まりの景気対策を求める声がほとんどで、日本の輸出立国モデルが崩壊し、古い産業構造の存続がもはや不可能になっているという本源的な事象を正面から捕らえる経済界の経営者陣は少ないようだ。

3月1日の日経新聞のコラムで、榊原英資氏が以下のような評論をしている。

「金融バブル崩壊後の米国経済の苦境は、米国時代の終焉を意味しており、実は先進国における製造業の没落を意味している。少なくとも先進国ではもの離れが始まり、大量生産、大量消費のパターンが崩れてきている。自動車、スーパーマーケット、ファーストフード文明の落日だ。」
「米国を見習い、これを追い越すことに注力してきた日本も曲がり角にきたのである。ものが次第に売れなくなってきているし、恐らく、この傾向が逆転することはない。」「これからの成長産業は、少なくとも先進国では製造業ではなく、農業・医療・教育などだろう。日本では今まで規制が強く、社会主義的だったこれらの分野を成長産業に育てていくことができるかどうかに、この国の将来はかかっている。

私も、まさにそうした長期トレンドの潮目に直面していると思っている。
なので、現在の景気悪化が、日本経済の本質的問題に根ざしているものである以上、目先を取り繕うだけの景気対策に意味はないだろう。今必要なのは、次世代を担う産業の育成なのだと思う。

こうした中で、私はICTの役割は、これら次世代を担う産業育成を支える、新しい情報・コミュニケーションツールの創造だと思っている。
例えば、2008年9月1日のエントリー「IBMの次世代事業戦略」でも紹介したように、IBMは、新規分野の基礎技術開発投資として、1)太陽電池、海水淡水化、バイオマス燃料電池など「エネルギー・環境」関連の基礎技術開発、2)交通システムなど「ITS」関連の基礎技術開発、3)鳥インフルエンザアルツハイマー対策などの「メディカル」関連基礎技術開発、4)農作物の大量生産を目指した「農業」関連基礎技術開発などエレクトロニクス企業の殻を破るための領域の開拓を掲げている。日本のICT産業にこうした長期ビジョンに立ったR&Dに取り組んでいる企業は少ないように思う。

また、クラウド・コンピューティングの進展やSemantic WebなどWeb3.0の展開により、固定通信かモバイル、one to oneかP2Pを問わないコミュニケーション環境やSaaSの普及による集合知の創造環境をもたらしてくれるだろうが、こうした新しいICT環境は、農業・医療・教育分野などで、従来の既成概念に囚われないビジネスアイデアを創出してくれるに違いないと思っている。

目先の現象に囚われず、複眼的かつ創造的な視野に立って、明日を見つめて行きたい。
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