P2P(Peer to Peer)型ネットワークについて考えてみた

かつてWinnyなど違法なファイル交換ソフトのゲリラ的な流布により社会的問題化したP2Pネットワーク技術が、セキュアな完成度の高いネットワーク技術に進化して再び注目を集めている。
ネットから簡単にダウンロードできる無料のP2Pソフト「KeyHoleTV」を使ってPCでインターネット経由のテレビ番組を視聴してみた。実験ソフトなので、画質はYoutube並みで、番組数は限られているが日テレやテレビ朝日、地方テレビ局、ラジオ局の番組の一部や海外のCNBCの番組などがリアルタイムでストレスなく見られる。また、「KeyHoleVIDEO」を使えば誰でも映像を発信してP2Pの環境で放送局ができるようになっている。番組数は少ないが見たことのないローカル番組や海外番組などが県域や国境を越えてP2P技術により簡単に受発信できる点は先進的だ。(使い方はこちら

KeyHoleTVは、総務省地上デジタル難視聴問題解決技術の実証実験として、2007年5月24日から7月28日まで在京キー局のアナログ放送の区域外再送信の実験で使用されたフリーソフト。次世代離散数理技術といったP2P型ネットワーク配信技術により、伝送帯域幅を極限まで押えながらブロックノイズのない映像配信がインターネット上で暗号化によりセキュアな状態でできるようになっている。

こうした技術が発展・普及しないのは、既存の広告放送モデルや放送制度などに代わる新しい枠組みが存在しないためだ。米国ではBittrrentなどのP2P型ネットワーク型の映画配信ビジネスが既にテイクオフしている。また、最近ではFlashP2P通信対応など、P2Pの応用技術が非常に注目されていると言われている。しかしながら、今後、日本でのマス広告市場は新聞、ラジオ、雑誌を中心に急速に縮小していくと予想される。こうしたメディア環境変化の中で、とりわけローカル放送局の生き残りのためにもPod Castなどとも連動した様々なP2Pサービスが登場せざるを得なくなってくるだろう。よく言えば地方からグローバルへの情報発信、地域・国境を越えたコミュニティ・メディアの発展が促されることを期待している。

2011年にはアナログ放送からデジタル放送に完全移行する一方で、情報通信法(仮称)の成立により通信・放送の垣根が消滅し、さる2月19日のNTTのR&Dフォーラム2009で、NTT三浦社長が基調講演で述べていた通り、ICT業界はオールIPをベースにサービスの融合(放送と通信、固定と携帯など)、所有から利用へのシフト(クラウドコンピューティング)、利用者中心(参加型サービス、サービスのパーソナル化)が一気に進むことになろう。
急速にブロードバンドIPネットワーク化が進む中で、大量にトラフィックを消費する上位のヘビー・ユーザーがトラフィックの大半を使用するようになるという、ネットワークの公平なコスト負担での利用が阻害されるという「ネットワークの中立性問題」が指摘されている。総務省が2007年9月20日にまとめた「ネットワークの中立性に関する懇談会報告書」を踏まえて、ネットワークの混雑の解決策としてP2Pを利用したトラフィックの分散化が注目されている。また、2012年頃には現行のIPv4によるIPアドレスが枯渇するといわれており、IPアドレス在庫が格段に大きいIPv6によるP2Pアプリケーションの本格化にも注目が集まっている。(P2Pネットワークの在り方に関する作業部会報告書 参照)

P2Pが注目されるのは、こうした理由だけではないようだ。クラウドコンピューティング化が進む中で、GoogleAmazonなど有力センターサーバへの事実上のIP情報の一極集中化への対抗策としてのP2Pへの期待も急速に高まりつつある。

未だに日本でP2Pと言えば、Winnyなど違法でウィルス的に配布される問題ファイル交換ソフトとして警戒されている。しかし、最近のP2Pはコンテンツ保護・課金・認証などの機能と一体化した技術システムとして進化してきており、そうした誤解を解くために、今後のP2P見る上での論点を整理してみる。

P2Pの何が違法なのか?
情報の著作権に対して正当な対価を払わないで情報を交換することが違法なのであって、P2P自体が違法な訳ではない。違法性をなくすためにはWinnyにような匿名性を排除し、著作権保護技術をP2Pネットワーク技術に組み合わせれば、合法的にP2Pで低コストでコンテンツを配信・交換できるようになる。現に、米国で有料映画配信システムとして普及しつつある、BitTorrentは次の4つの特徴を持っている。
(1)ファイルの大量配信に特化することで配信を効率化
(2)ファイルを分割して配信することで安定した配信を実現
(3)ファイルを取得した端末に平行して配信させる分散配信
(4)匿名性の排除

Googleに勝てるP2Pモデルとは何か?
P2Pモデルには以下の3形態があるといわれており、以下の(1)(2)のサーバーサイド型P2P技術のうち、(2)の進化系に勝機があるようだ。
(1)クライアント・サーバー型(Google型):中心のサーバーに全ての情報を持ち、サーバーがないとクライアントは何もできない
(2)ハイブリッド型P2PNapster型):中心のサーバーにインデックス情報だけ保有し、情報交換はP2Pで行う
(3)ピュア型P2P:インデックス情報もピアであるPCが保有し、PC同士で情報交換を行う(Gnutella
歴史的に見ると、P2P技術はWinnySkypeのように個人の端末のリソースを上手に利用する技術だった。しかし最近では、クライアントは、ある一つのサーバーに検索を依頼し、同時にそのサーバーが接続する他のサーバーにも検索を依頼することで、クライアント同士で直接、情報交換しないサーバサイドP2Pと呼ばれる技術が注目されているようだ。超大量な処理を行うためには既存の分散技術だけでは対応できなくなっており、分散ストレージや分散データーベースにおいては、サーバサイドP2Pが有力だと言われている。
AmazonDynamo楽天のROMAなどが代表例として注目されている模様。

トラフィックの最適化ツールとしてのP2P
P2Pは近くの個別端末がデータを持っているのならバックボーンを経由せずにファイルを入手できるのでトラフィックの分散ができる。現在は、ISPのネットワークリソースの負担感を軽減するP2Pシステムも開発されている模様であり、米国のP4P、日本のP2Pネットワーク実証実験などで様々な実用事例が提案されている。


WEBブラウザー間でのP2P通信の実現化
WEBブラウザーにプラグインなどをインストールしてWEBブラウザー間でP2P通信を行うことが実現されている。FlashによるP2Pのほか、日本ではbitmediaによるJavaアプレットを使ったP2Pライブ配信ソリューション・シェアキャスト(専用ソフトのインストールを不要にした業界で初めてのクラウドコンピューティング時代のP2Pライブ配信ソリューション)が有名。

IPv4アドレス枯渇問題とP2P
IPv4アドレス枯渇に伴い、P2PシステムはIPv6化する必要が出てくると言われており、
ローカルの個別端末に固定のアドレスを振ることが可能となるIPv6では、途中のサーバーを経由せず個別端末ごとのP2Pでの情報交換が可能になるため、一層セキュリティ度合いの高いP2Pが実現できると言われている。


P2P SIP(リアルタイム通信のための有力プロトコル
P2P SIP というSkypeのようなP2Pを使ったVoIPの標準化グループ、IETF(Internet Engineering Task Force:インターネット技術の標準化を推進する任意団体)WGの動きがエンジニアの間では注目されているようだ。

以上、駆け足でP2P技術を巡る最新動向を眺めてみた。こうしたネットワーク技術にソーシャルネットワークつくりのためのOpenIDの紐付けや著作権保護やマネタイズの仕組みが組み合わされれば、今後、GoogleAmazonに縛られない様々なP2Pビジネスが発展するに違いない。

今後、日本でのP2P技術の活用の方向性、課題などについて、様々な切り口でご教示いただければ幸いです。

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