新たな黎明期を迎えた携帯電話業界

湯川鶴章のIT潮流」で、ケータイ3社の戦略鮮明に−僕はソフトバンクに一票、というエントリがあった。その発端は、11月10日のソフトバンクモバイルNTTドコモの冬・春モデルの携帯電話新機種発表で、孫社長が「Wi-Fiが答えだ」、山田社長が「Wi-Fiより3G」との発言を受けて、ユーザーから見た携帯電話サービスの多様化が話題になっていたので、最近の携帯電話の背景にある事業動向についてまとめておく。
結論を言えば、今は無線ブロードバンドの変革点にあり、ここ2〜3年でAndroid+LTEで様々な無線ブロードバンド・サービスでの思わぬ展開がありそうだということだ。

足元は100Mbpsの高速モバイル・ブロードバンドへの移行の黎明期

足元の携帯電話会社のサービス戦略の動向は、3.9世代携帯電話(LTE)への移行に向けての各社のロードマップ、iPhoneAndroid携帯といったスマートフォンの導入戦略の2つによって左右され、これらが明確化する2012年くらいまでは視界の効かない試行的な端末・サービス展開が続くだろう。
報道では、以下のようにソフトバンクモバイルとNTTドコモの取り組み姿勢は対照的だとしているが、それぞれLTEへの移行にあたってのお家事情が背景にある。

ソフトバンクモバイルは、携帯電話の無線LAN機能を使って高速通信やコンテンツ配信を行う「ケータイWi-Fi」サービスを発表。孫正義社長は「3GとWi-Fiの両方を搭載しているのが当然だという時代になる」と現行3Gより高速なWi-Fiのメリットを強調した。
 一方ドコモは、フェムトセルを自宅に設置して高速に通信できるようにする「マイエリア」サービスを発表。山田隆持社長は「Wi-Fiは補完的に使うもの」と3Gの高速化で対応していく姿勢を示す。高速通信をめぐる両社の思想は対照的だ。

6月10日、総務省は、NTTドコモKDDIソフトバンクモバイルイー・モバイル沖縄セルラーに対して3.9G(LTE)の基地局開設計画を認定した。認定に伴って、3.9G(LTE)向けの周波数帯の割り当てが決まり、ソフトバンクモバイルが1.5GHz帯の10MHz、KDDI沖縄セルラーが1.5GHz帯の10MHz、NTTドコモが1.5GHz帯の15MHz、イー・モバイルが1.7GHz帯の10MHzを割り当てられた。

3.9G(LTE)は、3.9世代の次世代携帯電話規格で、最終的には100Mbps超の伝送速度といった光ファイバー並みの高速移動体通信が可能となり、技術的にも周波数の変調方式にOFDM方式を使うことから、UQコミュニケーション(KDDIグループ)が展開するWimaxウィルコムが展開しようとしている次世代PHSWiFiと技術的には95%近く同質化すると言われている。
ただ、サービス開始時期は携帯キャリアによって異なっている。現行使用周波数帯域を早速にでもLTEとして使えるNTTドコモは2010年12月と真っ先にサービス開始する計画に対して、ソフトバンクPDC(第2世代携帯電話規格)で1.5GHz周波数帯を2010年3月31日まで使っているためLTEの開始が遅れざるを得ない。そのため、先ずは2010年4月にHSPA+の商用サービスを提供、2011年7月にDC-HSDPAを展開、LTEについては加入状況などを見ながら検討するとしている。
KDDIは、従来3Gで展開してきたCDMA2000から3.9GでLTEに鞍替えするため、その準備期間もあり、2010年度の後半にも現行のCDMA2000の改良版であるマルチキャリア化で高速化したEV-DO Rev.Aの商用サービスを提供し、LTEの導入は2012年12月を予定していると言う。最後発のイー・モバイルは、この8月に下り最大21MbpsのHSPA+、2010年9月に下り42MbpsのDC-HSDPAの商用サービスを展開し、LTEの商用サービスは2012年の開始を予定している。
このように、LTEの導入に向けては、資金余力のあるNTTドコモが準備万端整っているのに対して、ソフトバンクモバイルKDDIは現行規格を延命させながらユーザーの高速化ニーズに応えざるを得ないというお家事情があるようだ。

ソフトバンクモバイルの「ケータイWi-Fiサービス」は、スマートフォンなど大容量ユーザーのトラフィックWiFiに分散させつつ、こうした先進ユーザーのブロードバンド利用の習慣が根付けば、無駄に既存3G設備を増強せずにLTE投資に集中でき、将来のLTE+WiFiのブロードバンド環境出来るという算段なのだろう。
一方で、NTTドコモの「マイエリアサービス」は、3Gで高速化しつつ早期にLTEにバトンタッチしつつフェムトセルスマートフォンなど大容量ユーザーのトラフィックを捕捉して行こうという考え方だろう。

両者の取り組みの違いにはインターネットというオープン性に根差したWiFiを重視するソフトバンクLTE+フェムトセルでオーソドックスな通信キャリアのモバイル・ブロードバンド戦略を推進しようとするNTTドコモの違いが窺える。

2〜3年後には多様なAndroid端末がモバイル・サービスの多様化を促す可能性が高い

もう一つ無視できないのが、iPhoneAndroid携帯といったスマートフォンの導入戦略だ。
iPhoneAppleが端末からソフトウェア(AppSore)、インターフェースまで一貫してビジネスデザインしている一方で、Androidは、あくまでもミドルウェア部品であって、端末開発やインターフェース、アプリケーション開発は個々の事業者に任されている点が大きく違う。
そもそもAndroidスマートフォンを開発するためのソフトウェア・フレームワークLinux OSに各種ミドルウェアとアプリケーションをパッケージしたもの。Androidは、元々
2003年10月、携帯機器向けソフトウェアの開発を手がける米国Danger社の創業者であるAndy Rubin氏(現・Google社のMobile Platform部門ディレクタ)が設立したスマートフォン開発向けソフトウェア・プラットフォーム会社で、2005年8月にGoogleに買収され、Googleの一部門になった経緯がある。2007年11月にGoogleは普及団体であるOHA(Open Handset Alliance)を設立し、ソフトウェア開発キット(SDK)のベータ版を公開。2008年10月にはAndroidの全ソースコードを公開している。
Androidの特徴は、ハードウェア開発と同時にソフトウェア開発を行える利点があり、GUIの作りやすさをはじめ、スマートフォンに関わらず、カーナビゲーションキオスク端末デジタル家電コピー機の操作パネルなど様々な分野に応用できるM2M(Machige to Machine)市場を狙った開発ソフトであるという点である。
こうした諸々の特徴から、Android端末は、iPhoneよりも製品開発の柔軟性があり、応用サービス分野も広い。
11月12日、NTT東日本がフォトフレーム型のAndroid端末を開発したと発表した。NTTドコモが2009年5月にリリースしたAndroid携帯端末はまだその入口に過ぎないのだと思う。

5月19日のエントリーで「Android携帯発売の意義 〜経験価値経済への移行のカンフル剤になるか?」という評論を書いた。LTEが本格普及し始める2012年以降は、100Mbpsの高速無線ブロードバンドと各種のAndroid端末の登場で、様々な経験価値の体感ができるようになるのだろう。
今は無線ブロードバンドの変革点にあり、ここ2〜3年でAndroid+LTEで様々な無線ブロードバンド・サービスでの思わぬ展開がありそうだ。