第二のIT革命が始まった 〜スマートグリッド革命の始まり

欧米中心にスマートグリッドのへの取り組みが活発化している。10月25日のNHKスペシャル「自動車革命」では、Google太陽光パネルと家庭内と電気自動車のバッテリーをつなぎ、最適な電力供給の一元管理を進めようとしている取り組みが紹介され、新鮮な印象を受けた。
日本では、電力供給網が脆弱な米国と異なり、先端技術による最先端の供給網が既に構築できており、日本の送電網は電力会社の強固な送電網によりすでにスマート(賢い)なため、今さら再生可能エネルギーを含めた電力供給網の整備は不要という認識が強い。しかしながら、スマートグリッドは電力、IT、通信の連携による第二のIT革命をもたらすもので、これらの国際標準化に乗り遅れると、世界的なビッグバンに乗り遅れてしまうことが十分理解されていないように思える。なので、今回は新しいクラウド的なビジネスの動きについてまとめておこうと思う(関連記事)。

スマ−トグリッドを後押ししているのは低炭素化を目指しながら経済成長も目指すグリーンニューディール政策で、そこでの三種の神器となりつつあるのが省エネ技術、再生可能エネルギー、電気自動車だ。これらを支える電力インフラがスマートグリッド(次世代伝送網)だ。
欧米各国は、リーマンショック後の長期的な経済立て直し策として、スマートグリッドの国際標準化と産業新興に向けて政府ともども積極的な取り組みを始めている。
スマートグリッドは従来の大規模発電所から送配電網を経由して一方向に電力を供給するシステムと異なり、ITや通信、蓄電池などを駆使した双方向型の分散型電力網を言い、家電機器や電気自動車がその端末となる。
1993年に米国クリントン政権が誕生した際に「情報スーパーハイウェイ構想」が打ち出されたが、スマートグリッドは、インターネット革命に匹敵する電力版の第二のIT革命だと言っていいだろう。
15年前の通信網は交換機があるのが当たり前だったが、今やIP化され交換機は消えつつあり、Googleをはじめとするインターネット産業が興隆した。今後、10〜20年後には今の発電所を起点とした電力系統網の存在は様変わりし、送配電システムメーカー、蓄電池関連メーカー、自動車や家電メーカーなどに新しいビジネスチャンスと既往ビジネスの転換をもたらす可能性があると思う。

標準化に乗り遅れれば日本の将来は危うい
世界のエネルギー設備容量のうち、再生エネルギーの代表格である風力発電太陽光発電に使用される割合が2030年には10%(風力7%、太陽光3%)となり、原子力の6%を上回るだろうとIEAは予想している。こうした再生エネルギー普及予想の背景には、世界各国のCO2削減政策の推進がある。
米国のオバマ政権は2月に米国経済再生のためグリーンディールを国家戦略に挙げ、再生エネルギーの総電力量に占める割合を2025年に25%まで引き上げるとしている。
欧州連合EU)は、1次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに20%にする目標を掲げており、これに向けてスマートグリッドを推進している。
一方で、日本は、9月22日の国連気象変動首脳会合(気候変動サミット)で鳩山首相が日本の温暖化ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減することを目指すと宣言をした。
ただ、環境・エネルギー関連の国際的枠組みにおける日本のプレゼンスは今一つ発揮されていない。2009年1月の国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の設立準備委員会の第一回会合はドイツ主導で開催され、2009年6月の第二回会合でようやく日本は参加した。
また米国は、NIST(米国標準技術局)が2009年9月にスマートグリッドの標準化のロードマップを公表し、2010年にはその運用を開始すると表明している。IEC(国際電気標準会議)でも国際標準化の議論が始まっているなど、日本の出遅れ感は否めない状況だ。
日本のインフラメーカーは、蓄電池や送電分野で高い技術力を持っているが、日本独自規格で作られている。国際標準化に遅れれば日本は高い技術力を持ちながらスマートグリッドの世界市場に関与できないことになりかねない。

業際を越えた製品・サービスを併せたトータルシステム提案力が求められる
欧米では、IBMは、水、エネルギー、交通、医療、教育、行政などのサービスをITで最適化する取り組みの中で、スマートグリッドを重点機能として位置付けており、デンマークのEDISONスマートグリッド・プロジェクトでシーメンスやDONG Energyなど国際企業との連携も進めている。
また、米国NIST(米国標準技術局)の標準化推進では、GEがスマートメーターや機器、GoogleがアプリケーションやAPIIntel通信プロトコルを担当するなど異業種間連携がしやすくなるような標準化が進められている。

日本メーカーは、世界最高水準の技術を持ちながらビジネスモデル構築や標準化が不得意なため、トータルビジネス面では割り負けてきた。スマートグリッドで国際市場で日本の技術・製品を売っていこうとすると、これまでの「技術起点型の知的創造サイクルモデル」から「事業起点型の事業創造モデル」への発想の転換が求められるだろう。つまり、従来取り組んできた優れた技術を開発して権利保護し製品化すれば売れるという「自社技術中心のコモディティ型モデル」をやめて「業際を越えた製品・サービスを併せたトータルシステム提供モデル」への転換が試されるということではないかと思う。

このことは、11月8日のエントリー「技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるのか?」でも書いたが、まさに日本製造業の世界復活が試される時を迎えていると状況なのではないかと思う。