2010年のICTトレンド

このブログを書き始めた一昨年の夏の2008年8月16日のエントリーで、私は10年後のICT社会インフラのキーワードは、Wikiクラウド・コンピューティングメタバースではないかと書いた。

2010年代の10年間のIT業界の見通しについてシリコンバレー在住の海部美知氏は、1月3日のエントリーでIT・ウェブそのものの進化はますますスローダウンし、進化した技術をどうやって他の産業に応用して、問題を解決するのかに向かう時代になっていくのではないかと述べている。

これから先、2010年代はどうなんだろう、とぼんやり考えてみると、ひょっとしたら、目に見える「IT・ウェブそのもの」の進化はますますスローダウンするんじゃないだろうか。少なくとも、通信の世界から見ていると、「携帯電話」という商品そのものの魅力はすでにやや色褪せたというか、登場時ほどのインパクトはなくなっているし、動画やスマートフォンなどの分野でも、2005〜6年をピークに、その後は「改良版」が徐々に出てきているだけで、素人が見てもハッキリわかるようなインパクトのある製品やサービスというのは、現在の技術インフラ(チップとか通信速度とかコストとか)の制約の中では難しくなってるような気がする。(中略)進化した技術をどうやって他の産業に応用して、問題を解決するのか、もっと大袈裟にシリコンバレー風に言えば「どうすれば世界をよりよくすることができるか」といった方向にエネルギーが向きだしているような気がしている。

さて、そうした2010年代の1年目である2010年のICTトレンドは、こうした業界変化を裏方で支えていくための一層具体化したデバイスやサービス、要素技術が出てくると思われる。
技術の進歩はGoogleの出現のような画期的な変革はないものの、身の回りの生活品を変えてゆく着実な技術が様々な形で具現化していくような気がしている。有識者が書いているエレクトロニクス分野も含めたICTの2010年の注目テーマのコラムを拾ってみた。
(日経エレクトロニクス) http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20091229/178911/
(瀧口範子シリコンバレー通信」) http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070222/262978/
(TechCrunch 2010年に大きく伸びる技術トップ10–タブレットからソーシャルCRMまで) http://jp.techcrunch.com/archives/20100101ten-technologies-2010/

それぞれのコラムのキーワードを拾ってみる。
日経エレクトロニクスは、スマートグリッドと電気自動車開発、インターネット接続家電、医療・健康機器の情報家電との連携だ。
瀧口範子氏のシリコンバレー通信は、クラウドの一般ユーザー移行、携帯のマジックワンド(自動選択ツール)化、コンピュータの多様化、ニュース・コンテンツの有料化、インターネットテレビの本格化、グーグルの事業多角化、エコモニター技術、SNSユビキタス化、電子書籍リーダーの定着、Wi-Fiの普及化を挙げている。
TechCrunchでは、タブレッド、位置情報、リアルタイム検索、Chrome OSHTML5、モバイルビデオ、拡張現実(AR)、モバイルトランザクションAndroid 、ソーシャルCRMを挙げている。

さて、これらの共通項目で今後10年後に向けてのトレンドを作っていくと思われる代表的な技術トレンドを取り上げてみたい。
1.スマートグリッドの標準化動向
11月22日のエントリーでも書いたが、スマートグリッドは昨年のクラウド・コンピューティングに続く次世代の大きなインフラ基盤になってゆくものとして外せないだろう。特に米国で先行しているスマートグリッド(日本のスマートグリッドとは異なる)の標準化の動きは世界のデファクトになっていく可能性もあり目を外せない。Googleがパワーメーターの普及を通じた電力需給調整システムや電気自動車をバックアップ電源として活用するための新たな電力需給調整システム分野に参入しようとしている点は留意しておく必要があろう。

2.電子書籍端末など様々なネットワーク家電の出現
充実したコンテンツ、インターネットにいつでもどこでも繋がる、ハードもソフトも手ごろな値段で安いといった3点を満たした様々な端末ビジネスモデルが登場しそうだ。代表的なものはAmazonが販売している電子書籍端末Kindleシリーズだ。
またAppleが今春販売予定のタブレットも注目されている。キッチンでレシピを探すとか、ちょっとした調べ物をするといったキッチン用コンピューターなどの機能が期待される。
またモバイルビデオの普及も本格化する見込みだ。
11月21日のエントリーでもふれたがGoogleAndroidは携帯電話のみならずM2M(Machine To Machine)での 組み込み型ミドルウェアOSとしての普及を目指している点も見逃せない。

3.ARの普及による携帯のマジックワンド化(自動選択ツール化)
AR(拡張現実)のアプリケーションの充実で、街中で携帯をかざすと携帯のカメラ画面に探している目的物を示されるといったサービスも本格化するだろう。
4月11日のエントリーで書いたセカイカメラが本格的にフロンティアを築いていくことに注目したい。

4.Android携帯端末の多様化
これまでAppleiPhoneスマートフォンの独壇場だったが、昨年は、VerizonのDroidをはじめ、Androidケータイの機種が20種類あまり発売された。近々Googleの独自携帯電話端末Nexus OneGoogleiPhone対抗端末として発売されるが、それはAndroidケータイとしては初めての、キャリアを特定しないアンロック製品となる点に注目したい(T-Mobileからキャリア補助金付きのも発売される)。スマートフォンの勢力図と通信会社、ソフトウェアメーカー、端末メーカー入り乱れた様々なビジネスモデルが展開されそうだ。

5.SNSユビキタス化の進展(ソーシャルCRMの普及)
TwitterFacebookで一般大衆に普及したソーシャルでリアルタイムなコミュニケーションツールが、今年は企業にも浸透していくという。Salesforce.comが近く立ち上げるChatterは、TwitterFacebookから汲み上げた企業データのリアルタイムストリームを、ビジネスのツールとして活用するそうだ。SNSTwitterとリンクしてリアルタイム性を持ち、SNSがインターネット上の人間インフラのようにユビキタスに使われてゆくようになる。SNSは、リアルタイムでの集合知のプラットフォームに発展していきそうだ。


6.リアルタイム検索
5と関係してくるが、Google等はTweetなどリアルタイムアップデートの検索機能を充実させると予想される。Collecta、OneRiot、Topsyなどのリアルタイム検索専門サイトも、さらに精度を上げ、リアルタイム検索は、TwitterFacebookなどにおけるナビゲーションの役割を果たすだろう。また、リアルタイム検索とリアルタイムフィルタリングの結合によりユーザは、最新の情報を入手するだけでなく、もっとも適切で正しい情報を入手できるようになる。

海部美知氏は、2010年代はIT/通信は人々に幸福をもたらすようになってほしいものだと述べている。

深く静かに、他の産業の「縁の下の力持ち」として価値を発揮するんじゃないか。「クラウド」とは、そういう性格のものではないか。目に見える部分はほんの少しずつ、地味に使い勝手が向上する程度かもしれないし、90年代のように「諸手を挙げてみんなどーっと移行」というふうにはならないけれど。ここしばらくの業界の様子を見ていると、そんな気がしている。

こうしてWikiクラウド・コンピューティングメタバースと霞のように曖昧にくくっていた10年後のIT社会像は、縁の下の力持ちとして具体的な実像に近付いていくように思われる。