新陳代謝を促せ!〜新産業育成とベンチャーキャピタル充実の必要性

新陳代謝を促せ!
新陳代謝を促せ。1月11日の日経新聞1面のコラム「ニッポン復活の10年」の伊藤元重東大教授の論評だ。日本国内は1992年頃からほぼ一貫して供給過剰で需要が足らない状況が続いている。これだけ長期間にわたって続いているデフレを解消するには産業全体の新陳代謝を進める必要があると。
例えば建設業や流通業、中小製造業などは需要に比べて企業数が多く、消耗戦に陥っているためM&Aや企業整理などを大胆に進める必要がある。一方で、雇用の受け皿となるような新産業をしっかり育て、供給過剰を解消するためアジアの需要をもっと取り込む必要があり、民間活力を活性化する必要があると。そして、規制緩和と法人課税の実効税率の引き下げが必要だと。
伊藤教授の指摘は御尤もだと思う。規制緩和法人税率引き下げは早急に実施されるべき施策だが、経済学者のいつものお決まりの答えだ。
リーマンショック後景気低迷が長引くと、世の中全体的にリスクに対して保守的な姿勢が強まりデフレ悪循環の傾向が高まってしまいがちだ。寧ろ、リスクを取りやすい環境作りをどのように進めるかの具体策を検討すべきだろう。
リスクを取っている企業や国ほど収益率や成長性が高いことは統計的にも証明されている。代表的な指標と思われる起業活動と成長率の関係を見ても、起業活動従事者シェアが高い国ほど成長率が高い。起業が盛んであれば、経営資源が速やかに移動し、イノベーションが進みやすいから起業が経済成長にプラスの影響を及ぼすことになる。
しかしながら、現実のベンチャー企業の起業動向を見ると日本は世界の中でも極めて低い水準に甘んじている。日本の起業率は1.8%(2002年)に留まっており、米国10.5%、イギリス5.4%、ドイツ5.2%と比べると大きく水をあけられている。起業件数でも中国は日本の7倍、韓国は8倍と日本を大きく上回っているのだ。

新産業育成とベンチャーキャピタル充実の必要性
2006年初頭のライブドアショック以降の新興市場の低迷に加え、2008年9月のリーマンショック以降、ベンチャー企業に資金を供給する役割を果たすべきベンチャーキャピタルの活動が極端に鈍っている。一方で、昨年末に提示された民主党の新成長戦略、国家戦略局の方針の中にも日本の内需拡大について新産業育成については触れていない点は大いに問題だと思う。

ベンチャー起業活性化のためには、制度・慣行といった実業面の改善とリスクマネーの供給環境整備といった金融面の2つの側面からの課題解決が必要になるだろう。
実業面では現行のモノ・技術・資金の流れの不備が指摘されている。また、偏差値教育の弊害や社長に個人保証を求め、失敗すれば敗者復活の機会がない点なども指摘されている。早急に弊害となっている業界慣行や規制の撤廃、大学教育の改革に着手する提言がなされるべきだろう。
一方で、ベンチャーへのリスクマネーの供給体制にも問題が多い。
日本のベンチャーキャピタルの特徴をみてみると、日本では、金融機関系(銀行、証券会社など)が6割、事業会社系が約2割であり、これらの子会社として設立されているものが多い。これに対し、アメリカでは独立系が8割を占めており、金融機関や事業会社の子会社は非常に少ない。金融機関や事業会社の子会社であるベンチャーキャピタルでは、親子会社間の人事異動の多さ等から専門的知識・能力を有するキャピタリストが育ちにくいうえ、ハンズオン型の経営指導的な投資は行われない。
 また、日米欧でベンチャーキャピタルへの出資者を比べると、日本は事業法人と金融機関が中心で、年金基金はほとんど出資していないが、アメリカでは年金基金が4割、欧州では3割を占めている。日本は欧米に比べて年金・投信運用を通じた家計の金融資産の起業への資金供給チャンネルが確立されていない。
これは、日本では、家計の資産保有は現金・預金が中心で、保険・年金が25%、株式・出資金は10%、投資信託は5%に満たず、その現金・預金が銀行を通じて企業に貸し出されるという間接金融の流れが基本にあるのに対して、欧米では現金・預金は約3割、米国では1割強にすぎず、大部分を保険・年金、株式・出資金、投資信託などリスク資産への運用に積極的に行う直接金融の流れが基本になっている金融構造の違いがある。
欧米では年金運用でのベンチャーキャピタルへの投資がオルタナティブ投資の有力選択肢になっているが日本では皆無。その理由は、日本のベンチャーキャピタルの平均IRRが-5〜0%と極めて低いことも足枷となっているのだろう。ベンチャーキャピタリストの育成も課題になっている訳だ。

今の時代に求められるベンチャー支援の方向性、過去ベンチャー支援がうまくいかなかった理由
なお、今の時代に求められるベンチャー支援の方向性、過去ベンチャー支援がうまくいかなかった理由については、2009年8月8日付けエントリー「間違ったベンチャー企業支援 〜官製VCと技術ベンチャー育成が機能しない理由」で色々書いた。こちらをご覧になっていただきたい。