ベンチャー起業家精神、ベンチャー支援に思うこと

一昨年あたりから、国内ベンチャーに逆風が吹いている。国内の年間のIPO件数は、暦年ベースで2006年の188件を最近のピークに2007年121件、2008年49件、2009年19件と激減している。一方で、海外に目を向けると中国の香港・上海・深センの3市場での2009年のIPO調達額は700億ドルと世界のIPO調達市場の1/3を占めるに至っている。国内IPO市場の不振は、中国市場が活況を呈しているのを横目に見ると、単にリーマンショックで株式市場がシュリンクしたということでは説明がつかない。「最近はベンチャー企業の活力がない」と言われ、「ベンチャー投資は儲からない」「いいベンチャーがない」「日本のベンチャーキャピタル市場は終わった」とまで言われる始末だ。ベンチャー起業といったイノベーションなくして長期的な経済成長はないのだが・・・・。

最近、Twitterで自分が作ったベンチャービジネスのリストのタイムラインを流し読みしていて、ベンチャー起業や起業支援について、印象深いコメントがあって意を強くした。

ベンチャー起業家精神について
従来の常識が通用しない今の時代には、ソフトバンクモバイルの松本副社長の呟きにあるような坂本龍馬のような既成概念に囚われない率直な起業家精神が求められているのだろう。

坂本龍馬のどこが一番偉かったかと言えば、やはり、既成概念に決してとらわれず、全てを、純粋に、白紙から、自分の頭で、徹底的に考えた事だと思います。 今の世の中でも、この様な人は必ず成功すると思いますね。

よく、日本は、独立のリスクが高く、一回も失敗が出来ない土壌なので、新産業が起きないというくだらない意見がある。 私は、数々の経営者を知っているが、本当の良き経営者は、良い意味で周りの事を気にしない。 リスクが取れない大多数は、失敗による周りの目を気にするからである・・・・・・

という別の指摘も同じことを言っている。独立のリスクが高いということはいい訳に過ぎないという指摘はもっともだろう。
ベンチャー起業は若者の特権だと言う固定観念に対しても、ソフトバンク孫社長の弟・泰蔵氏と某氏への呼びかけは、人生に手遅れはないと一蹴する。

RT @孫正義:人生に手遅れは無い。RT胸に突き刺さる。あっという間にもう五十前。手遅れか。RT @孫泰蔵:泰蔵、あっという間に時は過ぎる。一瞬も無意味な時を過ごして事はなせん。頑張れ。

ベンチャー支援について
一方で、ベンチャー支援についても考えらせられる呟きがあった。ベンチャー支援の仕事とは、単に売上営業先の紹介やアイデア出しに留まらず、上手く経営効率をあげることを手伝うのが本来的な仕事だとしているが、その通りだろう。一方で、なまじの金融やコンサルには売上は作れないとの厳しい指摘もあるが、リスク負担に対して相応の成果が出ることの道理を考えれば、ある意味厳しい警告がなされるのは当然だろう。

上手く経営効率をあげることを手伝うのが本来的なベンチャー支援の仕事なのである。社長が出来ない、しがらみの断ち切りや、リストラなんかが、その好例。これをハンズオンだと言えば、そうかも知れないが、多分、巷のイメージは違うと思う。売上に関し、外部の人間が出来るのは、売上営業先の紹介と、アイディアを出すことだと一般には受け止められている。
ここで勘違いして欲しく無いのは、Aというアイディアを出すのと、Aを売上に結びつけるのとでは、数百倍程の違いがあること。 そう考えると、上場レベルの売上を作っていける人は、経営者本人だけなのである。 ただ、PEなどの人もあっての売上、利益であることを経営者は忘れてはいけない。
ハンズオンにつき補足。金融(PE)や、コンサルは、効率化や合理化を専門と業としており、実業家は少々の不合理なんか無視をして、いわゆる売上をあげることに邁進する点で、事業に対する捉え方が違うのである。よって、金融やコンサルには売上など作れないのである。
売上を作れる金融マン、コンサルなんて殆ど居ない。やるのはコストカットと役会での文句。本当にハンズオン出来るのは、実業での経験と人脈を持った人のみ。本来的にVCは、一回上がった人がやるべきこと。

人材の流動化の阻害がベンチャー起業やベンチャー支援の円滑化を阻害している面も

昨2009年末に、民主党が経済成長戦略の基本方針を発表した。輸出の大幅な伸びが期待できない中、新規産業の創出が重要なテーマと位置づけられている。それ自体は正しいのだけど、なかなか日本においては新規起業による産業の創出がうまく進まない。むしろ、起業意識は年々低下し、「日本人は保守的」だの「リスクを取る気概がない」という意見もよく聞く。そもそもこうした総論で片づけてしまっていいような問題だろうか?

能力のある人間がある程度リスクを取ってくれるようなシステムがないと、人材の適所適材が進まず、坂本龍馬のような起業家精神の持ち主も継続的には輩出せず、全体が伸び悩む。ベンチャー起業もベンチャー支援もこうした人材の流動化が進まなければ本格的には始動しないだろう。これこそ、日本経済が過去15年にわたって低迷し続けている大きな原因の1つだと思う。
こうした人材の流動化を阻害する硬直かつ歪んだ雇用システムが日本にはびこっていることも経済成長の停滞の大きな原因と言える。
本来ハイリスクに挑むべき人材が大企業に入り、保証的な仕組みによってリスクを取らずしてそこそこのミドルリターンを独占して満足する。そうでない弱者がローリターンな底辺で働き、上流部分のハイリスクまで引き受けることでバランスするようになってしまっている。
本当はこうした雇用システム全体を流動化するような見直がなされるべきなのに、現在の雇用システムを守ろうとする保守派は「自己責任だ」としてローリスク・ミドルリターンの権益を守ろうとして突き放し、底辺で働く労働者階級は「上流階級や経営者が悪い」と批判し、両者平行線をたどったまま硬直化が続いている。
全体の経済のパイを増やすには、ハイリスク・ハイリターンもローリスク・ローリターンの仕事も後から自由に行き来できるような流動的な雇用環境の整備が必要だと思う。しかしながら労働組合を背景に持つ民主党には、こうした現行雇用システムの流動化の発想は持ちえないだろうから、根本的な新規産業の創出を通じた成長戦略の実現は難しいような気がしてしまう。