コンシューマライゼーションが切り開くクラウドの世界 〜ビジネス向けクラウド展開の行方

私はかねがね事業戦略のプレゼンテーションや講演では、今後、ICT関連企業がICT市場でのソフト・コンテンツサービス市場を開拓していくのならば、現在10兆円のBtoC型の広義のコンテンツ市場(映画、テレビ、新聞、各種情報サービス、ゲームソフト、ネット広告などでケータイコンテンツも含む)よりも、ソフトウェア開発やEマーケットプレイスなど30兆円のBtoB市場(うち受注ソフトウェア市場7兆円、Eマーケットプレイス市場15兆円)を取りに行った方が魚影が多いのではないかと勧めている。

NTTグループNGNの利活用で放送のIP再送信に力点を置くが、放送市場はすべて取り込んでもたかだか2.5兆円(民放2兆円、NHK0.5兆円)に過ぎない。ケータイコンテンツ市場も、上記の10兆円のBtoC型の広義のコンテンツ市場の中に重複して埋もれるが漸く1兆円を超えたところ。BtoC型のコンテンツ市場規模は、所詮は家計の財布と企業広告6兆円(GDPの約1.1%で過去30年以上この比率は不変)が支出先であり、市場は限定的なのだと。
それが、どうも日本では総務省の業務管掌が未だに通信と放送という区分になっているためか、役所が未だに「通信と放送の融合」などと10年前のワーディングを公式文書に発表していたり、ソフトウェアの行政管掌は経済産業省で2分されていたりするため、つい総務省の許認可管轄下にあるNTTグループNGNの活用と言う時に、映像=放送をターゲットとしたメディア融合の指針を出してしまうのだと思う。

私は、BtoB市場の中の受注ソフトウェア市場7兆円がゆくゆくはSaaSに置き換わって行き、加えて、情報サービス投資が遅れている中堅中小企業が大企業並みの対売上高・ソフトウェア投資を行えば、新たに1.5兆円程度のSaaS市場が中堅中小企業で創出され、クラウドコンピューティング市場の原動力になっていくと予想している。

ところで、こうしたBtoB型市場のSaaSの浸透によるクラウド化は何が引き金になって進むのだろうか?

2月1日の関孝則さんのIT Mediaオルタナティブ・ブログのエントリーで、SNSのようなコンシューマー向けITとCRMなど企業向けアプリケーションとの最近の結びつきの動き=コンシューマライゼーションが企業向けのクラウド化を促進させるのではないかと述べている。1つの切っ掛けになるかもしれない。

正月にとりあげた米国のベンチャー企業のAppirioが、SalesforceFacebookをつなげるアプリケーションReferMyFriends(以前からあるアプリの新版らしい)をリリースしたようです。Salesforceは以前からForce.comにFacebookAmazon Web Service、Gooble APIをつなぐ機能を発表していて、クラウドクラウドをつなぐマルチクラウドには熱心な姿勢をみせていました。それをうまく使ってかAppirioがFacebookSNSアプリケーションとSalesforceCRMアプリケーションを結びついた訳です。
(中略)
SNSのように消費者むけのITが企業むけより先行して新技術が使われていき、そしていずれ企業むけのITにも影響を与える。この最近のトレンドをコンシューマライゼーションと呼ぶようで、Web 2.0などを中心ににわかに騒がれている新しいトレンドです。

Appirioが開発したReferMyFriendsとは、「企業がSalesforce上に構築している連絡先情報データベースを、個々の従業員がFacebook上に作成している連絡先情報ないし友だち情報にマッピングする。Salesforceマーケティングキャンペーンを作成すると、その情報をFacebook上にも反映するかどうかを選ぶことができる」というアプリケーションとのこと。こうしたアプリケーションが企業に普及すれば、企業がソーシャルネットワークを効果的な使い方を理解する第一歩になるのだろう。そのAppirio社が日本でもビジネスを始めるとの報道がされているとのことなので、日本企業がどのように受け入れるのか楽しみだ。

あと、直接クラウドに繋がるかどうか解らないが、SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)戦略の一貫として新コンポーネント「Infor MyDay」を8月に出荷を開始すると発表した日本インフォア・グローバル・ソリューションズの2月5日コメント記事は面白い。

「Infor MyDay」では、Inforだけでなく、他のソフトが分散管理するさまざまなデータソースから、ユーザーの役割ごとのレポートといった情報をウェブページに一元的に表示できるようにする。単純にシステムを新たに開発するのではなく、メインフレームなど既存の資産を最大限に活用できるのが特徴。既存のインフォア製品の保守継続ユーザーを対象に無償で提供する。(中略)Infor MyDayは、Inforと他のシステムでデータを分散するためにSOAの枠組みを用いている。相互運用のためにビジネス言語として、OAGIS標準を採用した。

とのことだ。インフォア社は世界第三位のビジネス・ソフトウェア企業で、製品を一から開発する一方で、業種に特化したERPを買収し、SOAで連携して事業を拡大しているようだ。
SaaSとして発展するかどうかは判らないが、日本のITサービス企業には見られない取組みであり、ビジネス向けクラウド展開の行方を見ていく上で参考になりそうだ。

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