日本の電子情報産業のガラパゴス化からの脱皮を考えてみる。

これまで、クラウドコンピューティングをテーマに10年後のICT社会を予想することをコンセプトに色々書いてきたが、何故、こうしたテーマに拘ってきたか深い理由がある。これまで日本の技術的な強みが活かされてきた電子情報産業が、Googleに代表される米国発の新たなルールブレーカーにより情報通信産業の基盤がサイバーソフトウェア化の波の中で覆されようとしていること、台湾、韓国、中国などの新興電子企業に世界中の技術情報が集まりつつある中で、携帯電話や家電などで優位性を発揮してきた日本の大手総合電機メーカーの競争力が覆されガラパゴス化していることに対して、何をすべきなのかという杞憂の念を抱いていることが根底にはある。

ガラパゴス化とは、ガラパゴス諸島の独自の生態系が世界の進化から取り残されてしまった例えだ。ガラパゴス諸島とは、チャールズ・ダイーウィンの「種の起源」で有名になった南米エクアドルに近い太平洋上に浮かぶ海の孤島で、外界から遮断され天敵になるような大型の陸上哺乳類が存在しなかったため、独自の生態系が維持され、独自の進化発展が進んだものの、世界の進化から大きく取り残されてしまった島である。

NTTグループが進めるNGNや世界最先端の日本のFTTHや携帯電話に代表される情報通信産業や、世界最高水準の品質を誇るエレクトロニクス産業は、世界最先端の技術水準にありながら、技術開発の方向性が国内に閉じてしまったため、昨今、ガラパゴス化と揶揄されるようになっている。モノ作りを自負してきた日本の地盤沈下と空洞化が急速に進んでいる。そして多くの日本の経営者や国民がこのことを深刻な危機と認識していない現実がある。

電子情報産業が作り出す製品群は、世界のボリュームゾーンを狙い撃ちにした標準品と、日本独自市場のハイエンド・カスタム品の2種類に分けられるが、とりわけ前者の世界標準品をグローバル市場で拡販する台湾メーカーの躍進は目を見張るものがある。そこには、半導体事業に見られるように、米国が設計と販売・マーケティングを行い、台湾が製造を行うという国際的な水平分業の枠組みで世界の顧客を相手にした商売をしているという構図がある。「ガラパゴス化する日本の製造業」を書いている宮崎智彦氏は、台湾企業急成長の理由として以下の9点を挙げている。

1. 米国シリコンバレーとの人脈
2. 水平分業モデル、製造装置との分業化
3. 数の論地とBRICS市場の拡大
4. 人件費の安い中国市場での生産が可能なこと
5. 島国で集中投資が可能、情報の行き来の数時間で済む環境
6. エイサー時代からの20年以上の蓄積
7. 親日であることが日本からの技術流出を用意にしたこと
8. 英語、中国語の二刀流
9. 国家の徹底的なバックアップ(誘致、税制、教育)

日本企業の課題としては、宮崎智彦氏が言うように、1)変化を変化と感じないリスク、2)世界市場への対応として日本を優先するか、世界を優先するかの問題、3)カスタム製品としてコテコテの技術、匠の技を活かしきれないことなどが挙げられるのだろう。

同じことは情報通信サービス企業にも該当すると思われる。2〜3年前に開催された総務省のICT国際競争力懇談会で指摘された日本の情報通信企業の課題として、以下の点が挙げられた。
次世代IPネットワーク分野では、技術面として、MPU関連技術やOS関連など独創的なソフトウェア開発力、環境面として、独創的な新規ビジネスを生む土壌、ビジネスモデルなどでは、全体最適化やシステム全体のコンセプト作り、グローバル展開可能な革新的なビジネスモデルなど。
ワイヤレス分野では、知財の確保や国内キャリア毎に異なる端末プラットフォームに多数のベンダーが対応することによるコスト競争力の低下、海外での競争に通用するICT人材の不足など。デジタル放送分野では、先進性を重視したためによる高コスト構造、グローバルで通用するシンプル性を求めるようなニーズへの対応力の弱さ、国内市場重視の企業活動など。

こうした問題意識と解決の方向性を模索していくことが、このブログテーマの趣旨であり、おいおいこの原点に立ち返って、思うところを書いていこうと思う。

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