2020年の広告市場の姿 〜2008年日本の広告費のトレンドから予想する

2月23日、電通より2008年の日本の広告費の統計が発表された。サブプライム危機による年後半の急速な景気悪化で、総広告費は6兆6926億円と前年比▲4.7%の減少になったと言う。
媒体別では、テレビ広告費が1兆9092億円で前年比▲4.4%減少(対総広告費シェアは28.5%)、新聞広告費が8276億円で前年比▲12.5(同12.4%)、雑誌広告費4078億円で前年比▲11.1%減少(同6.1%)、ラジオ広告費1549億円で前年比7.3%減少(同2.3%)と、マスコミ4倍体広告費合計は4年連続の前年比減少となった。
一方で、インターネット広告費は6983億円で前年比16.3%の増加(対総広告費シェアは10.4%)と年々伸び率鈍化しているものの堅調に増加している。2009年はインターネット広告費が新聞広告費を上回るか否かに注目スポットが当てられよう。
2008年のインターネット広告費の増加内容を見るとモバイル広告が検索連動広告の堅調な伸びなどもあり、913億円で前年比47%増と堅調に伸びたほか、PCインターネットでの検索連動広告も1575億円で前年比22.9%増とネット広告市場の牽引役になっている。PV数の伸びは鈍化しているものの動画視聴の普及により滞留時間が増えるなど、ネット広告のあり方も多様化しているという(結果とそいてPV単価は下落)。Flashなどのリッチコンテンツが増えたことや、Ajaxなどクリック数を減らす技術が普及したことで、1ページに滞在する時間が長くなっていることが背景にあるのだろう。もはやPVやインプレッション数はネットビジネスの収益性を図る指標にはなっていないと言えよう。滞留時間をマネタイズする手法の編み出しが重要になっている。

さて、広告市場はGDPの増減に連動した景気連動型のシクリカルな波が繰り返す市場なので、景気要因を除いた構造変化要因を見る上では各媒体広告費の対総広告費シェアを見てみると面白い。
約7兆円の広告市場のうちマスコミ4媒体のシェアは2008年で49.3%と50%を切るに至っている。内訳を見ると、テレビ広告費のシェアは2008年が28.5%で2004年のシェア34.9%をピークに既に年々低下してきている。年平均▲1.4%程度低下している計算になる。
新聞広告費の2008年シェアも前年比で▲0.9%減少、雑誌広告費も▲0.3%減少、ラジオ広告費も▲0.1%減少している。一方で、インターネット広告費は勃興期の急速な成長率が落ちついてきた2005年以降の年々のシェアは平均+1.6%増加している計算になる。
テレビ広告費の減少率をインターネット広告費の増加率がカバーしている傾向は今回の不景気に始まったことではない傾向値であることが分かる。

こうした対総広告費シェアの変化が2020年まで続くトレンドだと仮定して2020年の広告市場の姿を予想してみると面白い姿が映し出されてくる。
総広告費はGDPの1.3%のシェアが変わらないと考え、2010年以降、年率1.5%程度の緩やかな経済成長軌道に戻ったとすると2020年の予想総広告費は7兆4000億円程度と試算。但し、媒体別の内訳を見ると、テレビ広告市場が約1兆8600億円でシェア25.1%まで低下。一方で、インターネット広告市場は2兆2240億円でシェア30%まで伸び、途中の2018年にはインターネット広告市場がテレビ広告市場を追い越すことになってしまう計算になる。
テレビ広告市場はもともと約2兆円弱の市場規模があり基礎体力があるので、毎年シェアが▲1.4%ずつ減少しても2020年になってもインターネット広告市場と何とか並ぶ存在が維持できそうだ。
一方で、新聞、雑誌、ラジオの広告市場は悲惨だ。2020年の新聞広告市場は775億円でシェア1%、雑誌広告市場は1500億円でシェア2%、ラジオ広告市場は1100億円でシェア1.5%と計算され見る陰もない存在になっている可能性が高い。

米国ではamazon.comから電子書籍リーダーKindleが売り出され好調に売れている。また現在の日本の若者を見ても紙の新聞を購読している若者は少数で、殆どがネット閲覧になっている。こう考えると2020年は電子新聞や電子書籍をネットや専用リーダーで読んでいるのが当たり前になっているのだろう。またテレビもウィジェットテレビの登場で、PCかテレビかの境目も曖昧なものになっているに違いない。従って、今後のメディアのビジネスモデルも既存の枠組みの延長線上にはないと見ておいた方がいいのだろう。
広告収入単価を計るためのマーケティング指標も、従来型のテレビ視聴率やPV、販売部数など、リーチに根ざした指標ではマネタイズできなくなりつつあるようだ。

広告であれば、アクセスされたがどうかよりも、アクセスした人が最終商品やサービスに対して具体的な購買など、どのような具体的なアクションを取ったかどうかが重要になろう。その意味ではキーワード検索によるAdSenseなど従来型ネットビジネスモデルにも限界が来ているように思う。Semanticウェブなどキーワード検索に代わるWeb3.0化も必要かも知れない。或いは、2月17日のエントリー「Hott Papper ミラクルストーリーから分かる儲かるネットビジネスの秘訣」でも書いたように、アクセスした人へのプチ・コンサルティング力の発揮など、ユーザー・顧客との人間関係構築も一層、重要になるかも知れない。いずれにせよ、一方的にリーチしていればよいという従来型広告マーケティングの時代は終わったのだと思う。

電通発表の2008年の日本の広告費のデータから2020年という将来の広告マーケティングの姿を色々考えてみた。10年後のICT社会を想像する上での、ひとつの数字座標軸として頭の中にインプットしておきたいと思うと同時に、既存の広告モデルの基礎となっているリーチに変わるマネタイズの仕組みが必要になっていることを痛感した。

人気ブログランキングへにほんブログ村 IT技術ブログ IT技術評論・デジタル評論へにほんブログ村 経済ブログ 金融経済へRSS新着情報配信