オープンソースのAPI公開が知的創造とITベンチャーの活性化を促している

イネブラー型ベンチャーの活発なオープンソース化の動き
OpenPNEという株式会社手嶋屋がオープンソース方式で開発を行ってきたSNSエンジンをご存知だろうか。OpenPNE はPCとモバイルのハイブリッドなプラットフォームに、豊富なSNS機能を搭載し、多様なサーバー環境で、誰でも無償でmixiやGreeのようなSNSサイトが作れてしまう。社長の手嶋守氏は、1979年東京都生まれ。東京理科大学理工学部卒業後2002年3月に携帯関連のコンテンツの開発会社として「手嶋屋」を起業。 2005年に自社開発のSNSエンジンを「OpenPNE」としてオープンソース化し、日本で初めてオープンソース・ビジネスを展開した若手ベンチャーの旗手だ。
OpenPNEは、大手のNECや日立情報システムズ沖電気工業などが社内SNSシステムとして採用する基幹システムにまで成長している。
オープンソースAPI公開が進むことにより、イネブラー型のベンチャー企業が大企業を手中に納めるような勃興が起こっているのだ。オープンソースAPI公開が知的創造とITベンチャーの活性化を着実に促していることに注目したい。

NECでは2007年10月9日、オープンソースOpenPNEを採用したSNSを核とした企業向けWebツール「Social Tool Mart」をSaaS(Software as a Service)として提供開始している。http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/09/news104.html
沖電気工業も、2008年5月8日、株式会社手嶋屋が開発したオープンソースSNSエンジンOpenPNEを採用した企業内SNS導入支援サービスとして導入している。
http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/software/2008/05/09/12864.html

イネーブラーとは「可能にする人」という意味だが、「イネーブラー型企業」とは、 サービスや商品の開発 ・生産を受託する企業 であり、場合によっては商品の企画段階にも 関与する。野村総研によれば次世代型企業は「フロント型企業」と「イネーブラー型企業」に分かれるというが、「フロント型企業」とは、マーケティングや顧客との関係性を維持する企業で、顧客との接点や 顧客ID、あるいは課金等の仕組みをもつ企業のことを言う 。ただ、オープンネットワーク時代のイネーブラー型企業は、従来の下請け企業のようなイメージではなく、企業の大小を問わずLinux RedHutのような重要な産業インフラを提供する必要不可欠な基幹企業の役割を担いつつあることだ。


株式会社手嶋屋以外にも、興味深いイネブラー型ベンチャーが出現している。
メタデータ株式会社だ。同社はメタデータ自動抽出API(Mextractr WebAPI)を無償で公開している。社長の野村直之氏は、マサチューセッツ工科大・人工知能研究所客員研究員(1993-4)に在籍し、1984年〜1996年までNEC C&C研究所に在籍したあと、法政大学大学院ITPC兼任講師、リコー・ソフトウェア研究開発本部Global MOT担当などを経て、2005年12月16日にメタデータ株式会社を設立している。
メタデータ株式会社は、1つの出来事について記述した短い日本語文をなぞると、日付や地名、人名などが自動抽出され、拡張RSSなど、XML形式で返すオープンソース型のソフトウェアで、従来隔絶されていた、プレーンテキストの世界とDB、XMLの世界を橋渡しする変換・解析・抽出機能系WebAPIを提供している。安価で素早い高機能の企業マッシュアップ、個人情報の安心共有の提供、情報付加価値化サービスの提供をモットーにしており、セマンティック・テクノロジーメタデータ活用により、企業システムの情報加工業務の自動化率の向上のサポートをしている。
Mextractr WebAPIを活用したアプリケーションには、WebメールなどWeb上の情報をGoogleスケジュール上に、タイトルや日時、場所等を自動的に振り分けるMextクリッパーがある。
その他にはフリーランスのエンジニアの古川大輔氏が開発した「メイドめーる」が面白い。これは、Googleカレンダーの予定やlivedoor 天気情報を毎朝、携帯電話にメールしてくれるエージェントサービスで、メールに返信することで新しい予定を追加してくれる。いずれも優れもののマッシュアップアプリだ。

背景には、フロント型企業のオープンソース化の活発化の動き

こうしたイネブラー型ベンチャーが活気付く背景には、フロント型企業のオープンソース化の活発化もある。

日本テレビは、2009年2月23日にweb APIの公開を行った(http://www.ntv.co.jp/appli/api/index.html)。
第一弾として「ニュース検索API」(日本テレビ系列の番組を出演者で検索。最新の出演者情報と過去のデータベースを利用して新たなコンテンツを制作できる)と「出演者検索API」(日本テレビ系のニュースをフリーワードで検索。最新のニュースと過去のアーカイブを利用して新たなコンテンツが制作でき)を,個人向けに無償で公開している。また、3月11日には「NEWS ZEROブログパーツ」を公開した。これは同番組に出演するキャスター3人が,ニュースやエンタメ情報を紹介するというものである。このほか番組関連の各種メタデータを活用する形で,インターネット上でブログパーツの公開も行っている。テレビを見ない人にも届く宣伝ツールにしようという狙いがあるのだろう。

 また、少し古い例では、ぐるなびが2007年5月10日、同社が運営する情報サイト「ぐるなび」で提供している約4万件の飲食店情報を利用するためのAPIの公開を開始している(http://api.gnavi.co.jp/api/service.htm)。同社の持つデータを広く公開し、マッシュアップなど、外部のWebサイトに活用してもらうことでユーザー層の拡大を狙うというものだ。


オープンソース型ビジネスモデルの特徴と留意点
オープンソース型ビジネスモデルの特徴と留意点を整理してみたい。

1.オープンソースソフトを使う側のメリット
(1)コスト削減効果が期待できる

オープンソースは無償なので購入費用が不要。また、社内で内部的に使い、ソフトウェアの配布を伴わない場合にはソースコードを改変しても公開する義務が生じないため、自由にカスタマイズできるメリットがある。
(2)開発時間の削減が可能
ゼロから開発するよりも開発時間が削減できる。例えばLinuxを携帯電話や家電製品などの組込用OSとして採用 すれば、ある程度の基礎となる開発ができているため、時間をかけずに製品化できる。

2.オープンソースソフトを作る側のメリット
(1)有償でのサポート提供により収益機会が確保できる
イネーブラー型企業やJBossが提供するオープンソースは、成果物自体は無料で入手し、利用することも可能だが、保守などのサポートは無償で受けられない。別途、有償で年間契約を結ぶことで保守・メンテナンス収入が得られることになっている。

(2)デュアルライセンスによる利益確保ができる
商用ライセンスと無償ライセンスに分けることによって、利益を確保できる。例えばMySQLというデータベースは無償で利用できますが、一方で商用のライセンスも存在する。
(3)基本機能は無料、拡張機能は有料というビジネスモデルで収益機会が確保できる
ローエンド版は無料でハイエンド版は有料というモデル。具体的には「SugarCRM」というのがそのモデルを採用している。
ソースコードに変更を加えて再配布する場合に限ってオープンソースコミュニティにも流さなくてはならず、変更したコードを販売することはできないというライセンス契約の縛りを入れておくという契約モデルや、無料版でユーザーを確保し、さらなる機能を必要とする顧客にはその機能を販売するというビジネスモデルなどがある。

3.コミュニティによる価値の増殖を図る上での留意点
最初は創業者の必要性から開発され、同じようなモノを求めている同種の人たちから利用され、無償版のオープンソースがいくらでも改造できるために開発コミュニティが形成され、利用者と開発者がイコールな関係ができる。
しかしながら、ビジネスモデルとして成立するには、初期利用者以外の「機能や時間の短縮といった結果だけが欲しい顧客」への販売拡大が必要になる。
そのため、普及拡大期の第二ステップでは、丁寧なサポート体制の充実は不可避になり、使用する側のコミュニティの充実や、使用者側の意見のフィードバック機能が重要になると考えられる。
いずれにしても、双方向のコニュニティが育てられないオープンソースビジネスモデルは破綻せざるを得ないということなのだと思う。

参考までに、Optaros社が公開したオープンソース・ソフトウェアのカタログ「Open Source Catalogue 2007」で掲載されているオープンソース・ビジネスの主力4ビジネスモデルを引用してみる。

(1)Proprietary Offerings(プロプライエタリ・オファリング型)
ソフトウェアのオープンソース版はプロダクト・ラインのエントリ用として無償で提供され、それとは別に、個別企業が必要とする追加機能や機能強化版ソフトウェアが有償(ライセンス)で提供される。これらの代表的なものとしてIBMのWebSphereやSugarCRMなどがある。

(2)Dual Licenses(デュアル・ライセンス型)
オープンソース版もコマーシャル版も同一のソースコードからなり、オープンソース版は無償のGPLなどでその普及を目指し、有償のコマーシャル版はサポートなどの付加価値を付けたもので収益ドライバーとする。MySQLTrolltechのQtなどが該当する。

(3)Subscriptions(サブスクリプション型)
オープンソースのサービスにかかるサブスクリプション方式で、ソフトウェア自身に価格はない。利用するユーザーは、パッケージングや新バージョンのリリース、修正パッチ、サポートなどのために年間利用料を支払うようになっている。Red HatSuSEなどのLinuxディストリビューションJBoss、Alfresco、SpikeSourceやSourceLabsなどがこの範疇に入る。

(4)Value Add Services(付加価値サービス型)
オープンソース・プロダクトに対する付加価値サービスである。このサービスは、どれか1つのプロダクトというよりも顧客の抱えるプロジェクトに依存したコンサルテーションやインテグレーション、サポート、ホスティングなどを通して複数のプロダクトを対象に行われる。Optaros社やLinagora社がこの範疇に入る。

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