政権交代後の情報通信政策の行方 〜変化する解決すべき本質的課題


総務省は6月にICTビジョン懇談会報告書をまとめ、2015年に向けてのスマート・ユビキタス戦略を打ち出している。具体的な施策として次の5つの施策を掲げて旧政権下で取組みを開始してきた。旧・郵政省時代からの規制政策の立案からICT産業全般の国際競争力強化実現のため政府間の外交営業も辞さない踏み込んだ内容になっている。

  1. 政府間対話の推進(国際展開の対象となりうる国への民間企業の国際展開の後押し)
  2. モデルプロジェクト等を通じた国際展開支援(わが国が強みを持つICT技術やコンテンツの国際展開支援)
  3. 戦略的研究開発と標準化・知財戦略の総合推進(先端技術の国際共同開発や国際標準化を目指した人材育成など)
  4. 国際展開を促進するための環境整備(ICTベンチャーの海外展開支援など)
  5. 地域別戦略の強化(中国、インド、東南アジア、中南米、ロシア、中東に向けた取組み強化)

一方で、ただ9月に新政権となった民主党政権は、日本版FCCの設置(通信・放送行政の総務省からの分離)による中立性の確保や事前規制から事後規制へ転換を標榜したり、2006年の政府与党合意で2010年まで検討が見送りされていたNTT再々編について、最近の原口総務大臣などの言動を見る限りでは再統合の方向を模索しているように見えたり、これまでの自民党政権とは異なった情報通信政策への転換が窺える。

政権が変わろうとも普遍的に目指すべきICT政策の方向性

ただ、GoogleAmazonなどが中心に新たな技術パラダイムのシフトが続き、日々目まぐるしく競争ルールが覆されようとしているグローバルなICT環境の変化を踏まえると、日本が取り組まなければならないICTの国際競争力強化に向けた政策や戦略の方向性は変わらないどころか、寧ろグローバルな技術革新に伴って常に視点をアップデートして捉えなおされる必要があろう。それは、現在、総務省が進めている2015年に向けてのスマート・ユビキタス戦略であろうと、民主党政権が掲げる情報通信政策であろうと、外してはならない同じ視点があるはずだと思う。
それは、やみくもに役所やNTTの組織を再編すればいいというものではない。情報通信インフラは立派なのにそれを利用するコンテンツやソフトウェア・サービスが世界の中で立ち遅れていることや、電器メーカーがガラパゴス化して滅亡に瀕している状況を如何に打破するかという視点だ。

2009年9月15日号の日経コミュニケーションで2010年に激変する競争政策の特集が組まれているが、ここで指摘されている3点は概ね方向性は間違っていないように思う。そこに私の意見も加味して、外してはならないと思われる今後の情報通信政策の論点を整理してみる。
1つ目は、事業者間の競争政策の再検討。
2つ目は、上位レイヤーの産業の育成に向けた競争環境のデザイン。
3番目は、主戦場が下位レイヤーから上位レイヤーにシフトする中でのグローバルな視点に立った産業創造に向けた新たな政策立案。

1つ目の視点の背景の動向を見ると、2006年以降導入されている新競争促進プログラム2010では設備競争の促進が謳われたが、実際のFTTH市場ではNTT東西のシェアが7割まで上昇し設備競争もできず、サービス競争も不十分な状況。今後、固定分野でのFVNO(Fixed Virtual Network Operator)のような形態の導入も含めたサービス競争の活性化策の議論が必要になろう。この辺は情報通信法制の見直しとも関連した議論になると思われる。

2つ目の視点の背景の動向を見ると、今後、無線でも最大100Mbpsを実現するLTEの普及でLTEFTTHの代替性が生じ、FTTHに課せられた規制は緩和の方向に向かう可能性があろう。他方、Googleなど海外勢によるクラウド・コンピィーティング・サービスが上位レイヤで大きな市場を作ろうとしている。これまでの国内のコンテンツサービス育成という視点を広げてグローバルな視点からの上位レイヤのサービス市場の活性化に向けた取組みが不可欠になってきている。

最後の3番目に関して付言すると、2006年当時は想定できなかった世界的不況の中で単なる料金引下げを意識した競争政策を見直す必要性がでている一方で、Googleなどグローバルなクラウド・サービス企業が上位レイヤーで更なる躍進を遂げている中での産業育成策に対処する必要がでてきることだ。

低炭素化を目指すグリーンICTが世界の成長復活の合言葉になっている中で、ここでは、短期的な景気対策という視点以上に長期的かつ業際的な取組みをまじえた広範な視点からの広義のICT産業育成が求められていると思われる。


低炭素化を目指すグリーンICTでの市場創造の方向性 〜高速分散情報処理のアルゴリズム開発などソフトウェアベンチャーの育成の視点も忘れてはならないのではないか

今年6月から総務省が掲げている2015年に向けてのスマート・ユビキタス戦略が重要な施策になることは間違いないが、それ以上の留意が必要のような気がする。
グローバル市場ではわが国が不得意なソフトウェア技術のデファクト化や標準化をベースにプラットフォームレイヤの競争市場環境が生成しつつあり、産業の成長の源泉になりつつあり、これを乗り越える必要がある。
従って、ICT技術やコンテンツの海外進出支援、先端技術の国際標準化推進などでは、わが国が強みを持つ従来日の丸技術をそのまま無理やり押し付けるだけでは、先端的なソフトウェア技術で装備された国際市場でのプラットフォーム競争を打破ることはできず、ガラパゴス化状態を本格的に抜け出してグローバルにスケールするのは難しいだろう。

確かに、ソフトウェアシェアが0.4%の日本がこの分野で正面突破するのは難しいかもしれないが、クラウド・データセンター構築では、日本が強みを持つ太陽光発電や携帯電話技術に加えて、ICTベンチャーの育成と国際進出支援の中でソフトウェアベンチャーの支援も見失ってはならないように思う。

低炭素化のためのコスト削減のためには、システム・インテグレーションの発想だけではなく1000台のPCで処理しなくてはならない分散情報処理を30台のPCで処理できるようにするアルゴリズム開発も引き続き重要な取組視点だと思う。
こうして、クラウド・エンジンは全て海外製に任せるということではなく、国産クラウド・エンジンの開発を行うことは、低炭素化という観点のみならず、クラウドサービスの共通化に向けたプラットフォーム基盤(API)の在り方や国際間の情報流通に関する基本的なルールの在り方、各国法規の適用などを考えてゆく上でも重要な基礎部分になると思われる。
日本のICT産業はこれまで通信事業者とシステム・インテグレーション産業の存在中心に語られてきた傾向があるが、グローバルな視点でICT産業のスケール化を進める上では、従来にない更に複眼的な視点で実効性を求めてチャレンジすることも重要だろう。