Googleも消滅する2030年のメディアのかたち

クラウド時代に求められる高度な情報処理リテラシー

情報洪水の中で迷子にならないためには、情報の出し手と受け手の双方にクラウド時代にあった高度な情報処理リテラシーが求められると改めて思った。

9月25日に30年近くに渡ってジャーナリズムの視点からデジタルメディアの在り方を模索してきた坪田知己氏による「2030年 メディアのかたち」が出版された。坪田氏は、私もメンバーとしてお世話になった日経デジタルコアというIT有識者による双方向型の勉強会を主催するなど、双方向メディアの在り方を実践されてきた人だ。帯には「新聞・テレビだけじゃないグーグルも消滅!その先にある究極のメディアとは」とある。
クラウドの時代になっても「主体は人間である」ことに変わりはないというジャーナリズムの本質と、変わらざるを得ないマスメディアの形態についてバランスよく書かれたものだ。まさに2030年になっても変わらないものと変わらなくてはならないものは何かが問われている著書だ。
やや平易な初心者向けのような表現で書かれているもののこの著書はバランスが取れた良質な啓蒙書だと思う。

2030年 メディアのかたち (現代プレミアブック)

2030年 メディアのかたち (現代プレミアブック)

限界感が見えてきたGooglezon の世界

2014年のネット・メディア業界の近未来像を予言したSF 調のフラッシュムービー「EPIC2014」。これは2004 年に米国フロリダ州のジャーナリスト非営利教育機関ポインター研究所出身のRobin Sloan 氏 とMatt Thompson 氏がネット上に公開したもの。
日本でも翌2005 年頃、デジタルネットワ―ク化により距離と時間軸が消滅するCGM 化を標榜したライブドアニッポン放送敵対的買収をしかけて問題となったこととも重なり、メディア業界関係者の間でセンセーションを巻き起こした。でも、5年経ってみると、どうもその予言を修正する必要が出てきたように思う。

EPIC2014 の予言の概要を紹介する

「西暦2008 年にGoogleAmazon が合併してGooglezon が誕生。西暦2014 年、Googlezon はインターネットでの検索履歴や購買履歴を基に、その人に最適なニュースやコンテンツ、商品情報を送るEPIC(Evolving Personalized Information Construct: 進化型パーソナライズド情報構築網)を立上げ、従来型のマスコミは主流からは消えた。
EPIC の下では、雑多で混沌としたメディア空間が秩序立てて選別され、ブログの書き込みから携帯カメラの画像、映像レポート、取材にいたるまで、個々人が貢献するようになり、記事やコンテンツの人気度に応じて、Googlezon の巨額の広告収入の中から対価を得るようになる。一方で、従来型のマスコミが姿を消し、 NewYork Times はGooglezon の支配から逃れるためオフライン化し、エリート層と高齢者向けの紙媒体として存続を図る」

2004年以降の現実を追ってみると、そもそも2008年にGoogleAmazon は合併せず、そもそもこの時点から予言は外れていることになる。どうも、Googlezon の世界には限界感が見えてきたように思う。何故か?

情報の出し手(出版社など)の現状と将来像を冷静に見てみよう。
もそもそも私がよく知っている何人かのウェブ・エンジニアに聞いても、検索エンジンで、ネット上の書き込み情報や記事の個々の重要度を判定して有益な新しいメディア空間を秩序立てて生成することは究極的に不可能だという。ということは将来においても情報の出し手が全て検索エンジンなどのテクノロジーだけで自動的に生成されることはないということだ。ネット上であふれている情報は今後とも玉石混交の情報のままでしかないだろう。
リアルの世界も同じだ。身の回りを見てみると、情報洪水の中で書店に山積みされている書籍を手に取ってみると、最近、特に粗製乱造の感がしなくもない。でも、この情報の山から適切な情報(書籍)を選び出すのは技術では不可能で人力に頼るしかないのだ。

情報の出し手側の玉石混交状態の情報過多状態は、ネットでもリアルでも今後とも続くのだろう。

一方で、情報の受け手(生活者)の現状を見てみよう。
若手を中心に、ググれば全て分るといったGoogleの技術万能主義をあたり前に受け入れる歪んだ風潮がはびこっているのも事実だ。そこでは、情報の受け手の情報処理能力も明らかに低下しているように思う。

こうした情報の出し手や受け手の情報量のダブつきと情報処理能力の低下は何故起こっているのか? 一義的には、ITの技術革新が急速に進みすぎているためだと思うが、本質的なことは、情報の出し手と受け手の双方で、物事の分析・調査力、見識力などが低下しているのではないかと思う。

2030年のメディアのかたち
坪田知己氏が指摘する以下の4点は、クラウド時代のCGM(Consumer Generated Media)の在り方やビジネスなどを考える上で、忘れてはならない視点だと思うので、当たり前だと思うけれでも列記しておく。

  1. 情報社会の主導権は提供側(情報の出し手)から需要側(情報の受け手)側に移る。
  2. メディアと社会構造、組織構造は双生児であり、新しいメディアの登場は新しい社会の夜明けとなる。
  3. 多対1にメディアは向かい「マイメディア」の時代がやってくる。
  4. コンテンツの中身もさることながら、サービスの質、透明性、ユーザーとの対話などの信頼性を確保することが大事になる。