社会主義化するアメリカ 〜社会主義へ過度に反動化するように見える日本は?

春山昇華氏が書いた「社会主義化するアメリカ」を読んだ。リーマンショック後様変わりした世界経済の先導の主役、その中で埋没する日本のポジションの立ち位置を金融資本市場の視点から捉えなおしておくには参考になる本だと思う。米国経済を代表する自動車メーカーGMの破綻と国営化による再生、国民皆保険の検討などがアメリカの社会主義化と言うゆえんだ。ただし、米国を社会主義化というならば、そもそも社会主義的な日本は郵政再国営化社会の動きが進み、さらに社会主義化への反動が進んでいる訳だから、タイトルは日本の社会主義化を正当化するややミスリーディングな印象を否めなくもない。
(春山昇華氏ブログ http://blog.livedoor.jp/okane_koneta/

100年に1度の不況は回避されたが・・・
振り返れば、世界景気は今年の3月頃をボトムに回復基調に転じており、100年に1度の不況は、各国の中央銀行や政府の素早い財政支出対応で辛うじて回避されている。
IMFは10月1日に世界経済成長率は4-6月期に前期比3%程度のプラス成長に転換した発表している。日本の鉱工業生産もリーマンショック前の水準には遠く及ばないまでも確実に回復途上にある。一方で世界のマネーフローを見ると、世界的に巨額の財政出動のおかげで金融市場は過剰流動性の超金余り状況になっている。
その結果、2009年3月以降、投資家のリスク許容度は目覚ましく回復し、目に見える企業の業績実態に反して将来の企業の業績回復期待を大幅に先食いしながら世界の株式市場は急速に回復している。ただ、企業金融市場の動向を見ると、中央銀行や銀行主導の資金配分の動きがベースとなりつつあり、新興ベンチャー企業へのリスクマネーは細っているのが現状だ。

G2(中国と米国)時代の到来
一方で、世界経済の様相は、リーマンショック前後で大きく変貌した。それは、G20ではなくG2(中国と米国)が世界経済の行方を占う時代への変貌だ。米国の猛烈な財政支出で増加した米国債の最大の投資家は世界最大の外貨準備を誇る中国であり、中国が米国の財政赤字を支える構図はさらに大きくなった。
一方で、中国は7-9月の実質GDP成長率が前年比+8.9%と好調に推移するなど世界経済成長の牽引役となっており、中国人が消費三昧すれば米国製品の輸入は増加し、世界経済はもう一度好景気に転じる構図になっている。借金漬けが消費三昧をけん引していた米国の消費構造は崩れたため、中国の購買力が頼みの綱になっている訳だ。
春山昇華氏によれば、まさにオバマ胡錦濤という2人のリーダーが今後の世界経済の景気の行方を握っていくという。


信用と対話の重要性が増す時代
春山氏は、物的担保の裏付けがなくなり、通貨無制限発行がなされる現在の世界金融市場では、重要なのは真実よりも信用と対話だと言う。ブログ、Google検索に加えてTwitterの情報が世界を駆け巡り、情報爆発が進むメディア・情報通信の世界と同じだ。寧ろ、情報により支えられている金融市場と一体と言っていいだろう。金融は情報がカネの価値を決めていく世界だからだ。

経済合理性至上主義の崩壊と民主主義の復権
ただ、春山氏は、米国流資本主義を支えた経済合理性至上主義は崩壊したと言う。
物を効率的に生産するためには金が必要だ。金がなければ材料も機械も人も雇えない。こうした価値観の画一化が金銭獲得能力の優秀な人が全人格的にも優秀な人間だと評価してしまう傾向に陥った。こうした金銭獲得の欲望を最大化させることが規制撤廃など経済合理性至上主義だった訳だが、このことがサブプライムローン証券化による金融危機を引き起こしてしまったからだ。

こうしたお金で人の価値を評価する資本主義への強烈な反発が、個人の多様性を容認し個人の満足度合を評価の物差しにする民主主義思想の強化により引き起こされているという。
ただ、春山氏は、民主主義は多数決制度であるため、意見の良し悪しと関係なく人気取りのためのバラ撒き政策が実施されるリスクや、個人から薄く広くお金をかすめ取り、膨大な不当利得を得るようなビジネスを放任してしまうリスクなどを指摘している。
つまり、グローバル化する資本主義に対して新しいグローバルな民主主義体制が追い付いていないというのだ。

日本が進むべき道 〜民主党政権の政策執行力頼み
こうした世界経済の変化の中で、ガラパゴス化する日本が進むべき道について述べられている。
低コスト製造のための海外生産と国内雇用のバランスで利益追求をバランスさせてきた日本の輸出企業は、今回のリーマンショック後の不景気に直面して派遣切りに象徴されるような国内雇用の削減に動いた。しかし、こうした行為が国益にならないとの世間からの非難により、経営者の見識といった人間性重視の民主主義優位の方向性が余儀なくされるだろうが、こうした風潮は高齢者優遇などとあいまって、日本経済の成長力を衰退させるだろうと言う。
しかしながら9月に誕生した民主党政権の政策には、1993年に小沢一郎が書いた「日本改造計画」に裏打ちされた「努力する者には援助しよう」という自律思想が根底にあるという。つまり信賞必罰が根底にあるというのだ。
春山氏は、日本が今後とも世界の先進国であり続けたいのなら、こうした民主党の信賞必罰の精神と国際会議での国益を主張する努力に期待していると述べている。民主党への期待というのが現状日本へのインプリケーションなのだろう。

民主党ディスカウントの現実
金融市場での日本のパフォーマンスを振り返って、現状の評価をみてみよう。
日本の株式市場は、将来の企業業績の改善を織り込んで輸出セクターを中心に底堅い展開となっているが、新興国を中心とする世界株式市場の好調に比べれば、割り負ける状況が続いている。
何故なら、郵政実質国営化の動きや、友愛路線などといった民主党政権が進めている施策の方向性が金融市場に理解されずに、民主党ディスカウントを起こしているためだ。郵政実質国営化の動きなどは、社会主義的な日本がさらに社会主義化に傾斜しているとの憶測を生む状況になってきている。
まさに今後、重要になってゆく信用と対話が十分なされていない状況だ。しばらくは政権運営が未熟な民主党の政策執行能力への疑心暗鬼が続くのだろう。

社会主義化するアメリカ―米中「G2」時代の幕開け (宝島社新書 300)

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