「次世代マーケティングプラットフォーム」を読んで〜今の広告メディアの概念は大きく変わると再認識した

遅まきながら湯川鶴章氏の「次世代マーケティングプラットフォーム」(2008年10月6日発刊)を読んだ。今の広告メディアの概念は大きく変わると再認識した。
もはや次世代の広告市場は、「電通 vs Google」でもなく、ましてやGoogleが独り占めできるプラットフォームでもなく、デジタルサイネージやモバイルなど新しいプレーヤーを含めた複数のプレイヤー達が共存共栄で生き抜く時代になりつつあることを、自らの丹念な米国取材を基に明らかにした良書だと思う。次世代のメディア論を考える上でも参考になる本だと思う。

【広告の未来はテクノロジー企業が切り開く】
2007年あたりから米国のマイクロソフトやグーグルなどIT大手は広告関連企業を次々と買収している。2007年夏にはMicrosoftは広告マーケットプレイスの有力ベンチャーAdECNを買収、そのほか大手オンライン広告会社のaQuantive、モバイル広告技術を持つフランスのScreen Tonicを買収、Googleはゲーム内広告のAdscape Mediaやオンライン広告配信システム大手のDoubleClickを買収した。
Yahooも2007年4月には広告マーケットプレイス会社のRight Media社を買収、そのほか行動ターゲティング技術会社 BlueLithium社を買収しているなど枚挙にいとまがない。

湯川鶴章氏は、冒頭のプロローグの「広告の終焉の周縁」の中で、近い将来、テクノロジーの進化により従来の4マス+インターネット広告といった「広く告げる」一方通行の既成概念の広告は、経済全体の配線の組み換えによって新しいマーケティング・プラットフォームに生まれ変わると指摘している。
全国に展開するコンビニエンスストアのチェーン店網をつなぐPOSシステムで把握されているリアルタイム売上動向データや、携帯電話のGPSJR東日本Suicaなどによって入手できる個人位置情報や購買情報、電子カルテで把握されている既往歴データなど、あらゆるデジタル化情報をネットワークでつなぎ、コンピューターによる自動分析により消費者一人ひとりのニーズにあった製品・サービスに関する情報(広告)を配信していく時代になるという。コミュニケーションやメッセージの伝わり方が従来の1対Nや1対1ではなく、時間軸を超えたN対Nのコミュニケーション・ネットワーク型に変わっていくだろう。N対N型のメッセージの伝わり方も登場してくることから、いままでのメディア論にも新たな思考の切り口を与えてくれる。

【テクノロジーが作り出すのは21世紀の三河屋さん】
湯川鶴章氏は、取材活動を通じて得たものは「IT革命の本質の1つは、20世紀後半のマス文化の中で失われたきめ細かなサービスをテクノロジーの力を持って取り返すことだと」と述べている。

長谷川町子の「サザエさん」宅に出入りしている酒屋の三河屋さんは、磯野家の家族構成や家族一人ひとりのことも熟知している。台所の酒や醤油がどの程度残っているかも、だいたいメドがついていて、三河屋さんは適正な価格でサザエさん宅に最適な商品をタイムリーに届けてくれる。このことを知っているサザエさん三河屋さんに全幅の信頼を置いており、三河屋さんと競合する酒屋がどれだけ派手なCMを流そうと一向に見向きもしない。
しかしながら、20世紀後半になってマスプロダクション、マスセールス、マスコミュニケーションは顧客とのこうしたone to oneの関係を消滅させてしまった。しかしながら21世紀に入り、消費者はマスプロダクションやマスセールスに飽き足らなくなり、自分ならではの製品やサービスを求めるようになった。
21世紀はテクノロジーを使うことで、効率化、低価格化と引き換えに犠牲にしたone to oneの関係を取り戻せるのではないか、

という。言いえて妙な指摘だと思う。

【次世代マーケティングプラットフォームのイメージ】
書中、Web解析ツール開発会社のOmniture社のCEOのジョシュ・ジェームズ氏のインタビュー内容が掲載されていた。この中に、次世代マーケティングプラットフォームのイメージがある程度埋め込まれていると思えたので、いくつか興味深かった箇所を引用しておく。こうしたインタビュー記事の背後には、広告マーケットプレイスなど広告の自動化の重要性がキーワードとして挙げられている。

Q1)マーケティングの究極の未来は?
A1)お店に入れば売り場事態があなたに合わせて形を変えてくれる。あなたが過去に買った商品が自動的に一つの売り場に集まってくるのではないか。
またインターネットは、現状のWebサイト中心ではなく、ブログパーツのようにデスクトップ上で起動するアプリケーション群であるウィジェット中心に変化していくだろう。
広告も、ターゲッティングされたパーソナライズされたコンテンツになると思う。


Q2)テレビの将来は?
A2)究極の未来には我々が知っている形でのテレビは存在しなくなる。放送と通信が融合したときには、テレビ局側は視聴者の情報をたくさん持つようになり、視聴者もテレビ局に自分の情報を手渡すようになるだろう。視聴者の興味にあったCMが流れるようになるだろう。


Q3)広告の未来は?
A3)広告はなくならないだろうが、重要性は著しく減少し、360度マーケティングの方にバランスは急速に傾くだろう。


Q4)Web解析の他システムとの連携の仕方の行方は?
A4) Googleのキーワード検索とWeb解析、メールマーケティングの連携によるマーケティング効率のアップが1つの傾向。次にGoogleのようにキーワードでマッチさせるのではなく、どの記事をトップページのどの部分に表示させればページビューが上がるのかをWeb解析システムが判断してトップページのレイアウトを自動的に変えるような新しいレコメンデーションシステムを作ってしまう動き。

【リアルとネットの融合〜デジタルサイネージとモバイルウェブ〜】
PC以外の次世代マーケティング・プラットフォームのキーワードの1つとしてデジタルサイネージが挙げられている。デジタルサイネージとは直訳すると電子看板ということになるが、電子化された従来型の屋外広告との違いは、電子看板がPCと同じようにインターネットのLANで結び付けられており、センターサーバーで配信コンテンツの表示内容を柔軟に変えられる点だ。まだ、広告モデルが主体だが広告効果測定手法の未確立やハード、ソフト、広告配信の標準化が課題になっており、先進国の北米でも大きく収益化したビジネスモデルはない様子。だが、今後のビジネスアイデア例として、レシピ総数40万件以上を誇る日本のクックパッドが、スーパーマーケットのディスプレイを設置して、そこからクックパッドのレシピを検索できるようにすることや携帯電話との連携などが紹介されていて面白い。

次に、日本企業のチャンス分野としてモバイルウェブが挙げられている。米国でモバイル版広告マーケットプレイス事業を展開するAdMob社が冒頭に紹介されており、同社は人気SNSFacebookとも連携している。今後モバイル広告GPS電子マネー、更にはデジタルサイネージとの連携により、店舗内のデジタルサイネージと携帯電話を連携させることで21世紀の三河屋さんのようなマーケティング・プラットフォームを作っていくことが日本のテクノロジー企業にとって大きなビジネスチャンスになるのではないかと指摘している。

【総括的な印象】
コンピューターがかなりの部分のマーケティング施策を自動で実行するようになる現実性は高いように思う。逆に人間が行うべき仕事は、純粋な広告クリエイティブのウェイトは低下し、自動マーケティングプラットフォームの設計と、設計するための仮説作りが広告・マーケティング担当者の力量としてクローズアップされるのだろう。一方で、テクノロジー企業は、現存の従来型マーケティング・プラットフォームにどのような形で連携してシステム開発を行っていくことが重要になってゆくような気がする。

【変貌する広告代理店業の将来】
事業利益構造の変化を考えると、テレビ広告も含めた広告マーケットプレイス(広告枠の売買をネット上で行う)が本格的に始動する可能性が高いような気がする。
現在の広告会社は、テレビ広告売上の減少と、リスティング広告など作業が煩雑なマイクロ・メディアの増加に伴い、作業量が膨大化し、広告会社の利益率指標であるオペレーティングマージン(営業利益÷売上総利益)は低下している。低下基調にある広告売上を何とか伸ばそうとする余り、今まで参加しなかったような競合プレゼンにも参加するようになり、扱い獲得のためさらに膨大な体力と経費を消費するが、売上げには結びつかず、利益率は低下する悪循環に陥っている。
テレビ広告の減少に歯止めがかからない中で、もはや広告マーケットプレイスを導入して、バイイング作業を自動化するしかコスト削減方法はないだろう。システム上googleのノウハウを借りるケースもあるだろうし、
テレビ広告枠のセールスや作案の自動化により、かなりの人件費削減が可能だと思われる。
こうしてメディアバイイング部門の人件費削減もできようが、当然ながら広告マーケットプレイスではコミッション料率(粗利率)も低下するだろう。メディアバイイング部門のスリム化を進める一方で、プランニングなどコンサルティング的業務は一層な高付加価値化が求められ、バイイングフィーの低下により必然的にバインングのあTめにプランニングを無料で請け負うという従来型の商習慣はなくなり、コンサルティングフィーベースにシフトせざるをえなくなるだろう。広告会社の収益構造は大きく変わるのだろう。

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