Androidの現状 〜DOS/V登場前夜に似てきたようだ 

昨日、林信行さんが主宰する六本木アカデミーヒルズのメンバーコミュニティ、iPhoneAndroidトレンド研究に参加してきた。同じ勉強会に参加していたINOCCUさんこと井上研一さんが、さっそくブログにまとめていたので引用させてもらいながら、印象を書いてみる。

講演にせよ、ディスカッションにせよ、話があっちこっちに飛んでしまっていたのですが、まぁ、それがAndroidの現状なのかなという印象を受けました。まだ、Androidの中の何かというテーマが絞れる状況ではなくて、Androidというキーワードが出てきそうな話を集めている段階。

まさに、同感だった。上がっていたAndroid端末の例も、組み込みソフトとしてAndroidを使ったNTT東日本のフォトフレームや、KDDISTBAndroid体重計など様々。参加していた開発者の方々も、とりあえずAndroidがどんなものか知るためにアプリケーションを試作してみたといった状況だ。まだまだAndroidの技術資産が蓄積されていない状況がよく分った。

自由度満載のAndroid
AndroidAppleのiTuneと異なり、Androidで開発されたアプリケーションについてGoogleは全く管理しない。Androidの機能面の話としては、Android1.6だと、Google Checkoutの機能が付いているとか、位置情報を示すGoogle Latititudeの機能が付いているとか、そもそもAndroidではアプリケーション開発者は自国通貨建てで世界のユーザーに販売可能だなどが紹介された。まさに自由度満載ということなのだろう。

林信行さんは、Androidでケータイを作るのなら、中国のChina Mobileが作ったO-Phoneくらいカスタマイズしきらないとダメではないかと言っていた。
どういうことかというと、現在、ドコモが出しているHT-03Aは素のAndroidが載っているだけなので、アプリケーションの購入環境もまったく開発進行途上にあるプラットフォームそのままなので、管理ツールも整備されていなければ、アプリケーションによっては電話帳が勝手に盗まれてしまうリスクを持つものがあったりする状況だからだ。

O-Phoneは、AndroidiPhoneそっくりなユーザインタフェースが作られているうえ、中国政府の監視もあり、検索ソフトも独自の仕様が搭載されておりGoogle携帯のイメージからかけ離れた、中国独自仕様になっている。
要すれば、ビジネスモデルを含めて如何様にでもカスタマイズできるところがAndroid端末の魅力なのだろう。Androidの自由度の高さ、開発の柔軟性を改めて感じるとともに、既存の携帯端末メーカーの現状に更なる危機感を感じた。

携帯端末業界はAndroidの登場でDOS/V登場前夜に似ている
現在、世界のAndroid携帯端末の販売は、台湾HTCや韓国サムスン電子が世界中でAndroid端末を販売し始めているが、それに続いて続々と大手メーカーがAndroid端末への参入を表明している。米モトローラが10月28日に米国ベライゾン経由で端末を販売すると発表。11月3日にはソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーションズがAndroid端末を世界中で発売すると発表した。さらに、デルも中国でAndroid端末を投入している。
携帯電話端末はオープン・プラットフォームに向かっており、Androidはかつての“PC AT互換機”になりそう状況になってきたと思われる。
PC-9801がPC AT互換機に押し切られたように、Android端末開発の安さと幅広いユーザー層に支えられて作り上げられた多様なサービスの魅力によってガラパゴスの代表に挙げられてきた日本固有の携帯電話が消されてしまうことになるだろう。そうなる前に、日本の携帯電話メーカーは、Androidで独自のビジネスモデルを設計し、自由度の高い端末設計で先行戦略に打って出る必要があるのではないだろうか?

新たな黎明期を迎えた携帯電話業界

湯川鶴章のIT潮流」で、ケータイ3社の戦略鮮明に−僕はソフトバンクに一票、というエントリがあった。その発端は、11月10日のソフトバンクモバイルNTTドコモの冬・春モデルの携帯電話新機種発表で、孫社長が「Wi-Fiが答えだ」、山田社長が「Wi-Fiより3G」との発言を受けて、ユーザーから見た携帯電話サービスの多様化が話題になっていたので、最近の携帯電話の背景にある事業動向についてまとめておく。
結論を言えば、今は無線ブロードバンドの変革点にあり、ここ2〜3年でAndroid+LTEで様々な無線ブロードバンド・サービスでの思わぬ展開がありそうだということだ。

足元は100Mbpsの高速モバイル・ブロードバンドへの移行の黎明期

足元の携帯電話会社のサービス戦略の動向は、3.9世代携帯電話(LTE)への移行に向けての各社のロードマップ、iPhoneAndroid携帯といったスマートフォンの導入戦略の2つによって左右され、これらが明確化する2012年くらいまでは視界の効かない試行的な端末・サービス展開が続くだろう。
報道では、以下のようにソフトバンクモバイルとNTTドコモの取り組み姿勢は対照的だとしているが、それぞれLTEへの移行にあたってのお家事情が背景にある。

ソフトバンクモバイルは、携帯電話の無線LAN機能を使って高速通信やコンテンツ配信を行う「ケータイWi-Fi」サービスを発表。孫正義社長は「3GとWi-Fiの両方を搭載しているのが当然だという時代になる」と現行3Gより高速なWi-Fiのメリットを強調した。
 一方ドコモは、フェムトセルを自宅に設置して高速に通信できるようにする「マイエリア」サービスを発表。山田隆持社長は「Wi-Fiは補完的に使うもの」と3Gの高速化で対応していく姿勢を示す。高速通信をめぐる両社の思想は対照的だ。

6月10日、総務省は、NTTドコモKDDIソフトバンクモバイルイー・モバイル沖縄セルラーに対して3.9G(LTE)の基地局開設計画を認定した。認定に伴って、3.9G(LTE)向けの周波数帯の割り当てが決まり、ソフトバンクモバイルが1.5GHz帯の10MHz、KDDI沖縄セルラーが1.5GHz帯の10MHz、NTTドコモが1.5GHz帯の15MHz、イー・モバイルが1.7GHz帯の10MHzを割り当てられた。

3.9G(LTE)は、3.9世代の次世代携帯電話規格で、最終的には100Mbps超の伝送速度といった光ファイバー並みの高速移動体通信が可能となり、技術的にも周波数の変調方式にOFDM方式を使うことから、UQコミュニケーション(KDDIグループ)が展開するWimaxウィルコムが展開しようとしている次世代PHSWiFiと技術的には95%近く同質化すると言われている。
ただ、サービス開始時期は携帯キャリアによって異なっている。現行使用周波数帯域を早速にでもLTEとして使えるNTTドコモは2010年12月と真っ先にサービス開始する計画に対して、ソフトバンクPDC(第2世代携帯電話規格)で1.5GHz周波数帯を2010年3月31日まで使っているためLTEの開始が遅れざるを得ない。そのため、先ずは2010年4月にHSPA+の商用サービスを提供、2011年7月にDC-HSDPAを展開、LTEについては加入状況などを見ながら検討するとしている。
KDDIは、従来3Gで展開してきたCDMA2000から3.9GでLTEに鞍替えするため、その準備期間もあり、2010年度の後半にも現行のCDMA2000の改良版であるマルチキャリア化で高速化したEV-DO Rev.Aの商用サービスを提供し、LTEの導入は2012年12月を予定していると言う。最後発のイー・モバイルは、この8月に下り最大21MbpsのHSPA+、2010年9月に下り42MbpsのDC-HSDPAの商用サービスを展開し、LTEの商用サービスは2012年の開始を予定している。
このように、LTEの導入に向けては、資金余力のあるNTTドコモが準備万端整っているのに対して、ソフトバンクモバイルKDDIは現行規格を延命させながらユーザーの高速化ニーズに応えざるを得ないというお家事情があるようだ。

ソフトバンクモバイルの「ケータイWi-Fiサービス」は、スマートフォンなど大容量ユーザーのトラフィックWiFiに分散させつつ、こうした先進ユーザーのブロードバンド利用の習慣が根付けば、無駄に既存3G設備を増強せずにLTE投資に集中でき、将来のLTE+WiFiのブロードバンド環境出来るという算段なのだろう。
一方で、NTTドコモの「マイエリアサービス」は、3Gで高速化しつつ早期にLTEにバトンタッチしつつフェムトセルスマートフォンなど大容量ユーザーのトラフィックを捕捉して行こうという考え方だろう。

両者の取り組みの違いにはインターネットというオープン性に根差したWiFiを重視するソフトバンクLTE+フェムトセルでオーソドックスな通信キャリアのモバイル・ブロードバンド戦略を推進しようとするNTTドコモの違いが窺える。

2〜3年後には多様なAndroid端末がモバイル・サービスの多様化を促す可能性が高い

もう一つ無視できないのが、iPhoneAndroid携帯といったスマートフォンの導入戦略だ。
iPhoneAppleが端末からソフトウェア(AppSore)、インターフェースまで一貫してビジネスデザインしている一方で、Androidは、あくまでもミドルウェア部品であって、端末開発やインターフェース、アプリケーション開発は個々の事業者に任されている点が大きく違う。
そもそもAndroidスマートフォンを開発するためのソフトウェア・フレームワークLinux OSに各種ミドルウェアとアプリケーションをパッケージしたもの。Androidは、元々
2003年10月、携帯機器向けソフトウェアの開発を手がける米国Danger社の創業者であるAndy Rubin氏(現・Google社のMobile Platform部門ディレクタ)が設立したスマートフォン開発向けソフトウェア・プラットフォーム会社で、2005年8月にGoogleに買収され、Googleの一部門になった経緯がある。2007年11月にGoogleは普及団体であるOHA(Open Handset Alliance)を設立し、ソフトウェア開発キット(SDK)のベータ版を公開。2008年10月にはAndroidの全ソースコードを公開している。
Androidの特徴は、ハードウェア開発と同時にソフトウェア開発を行える利点があり、GUIの作りやすさをはじめ、スマートフォンに関わらず、カーナビゲーションキオスク端末デジタル家電コピー機の操作パネルなど様々な分野に応用できるM2M(Machige to Machine)市場を狙った開発ソフトであるという点である。
こうした諸々の特徴から、Android端末は、iPhoneよりも製品開発の柔軟性があり、応用サービス分野も広い。
11月12日、NTT東日本がフォトフレーム型のAndroid端末を開発したと発表した。NTTドコモが2009年5月にリリースしたAndroid携帯端末はまだその入口に過ぎないのだと思う。

5月19日のエントリーで「Android携帯発売の意義 〜経験価値経済への移行のカンフル剤になるか?」という評論を書いた。LTEが本格普及し始める2012年以降は、100Mbpsの高速無線ブロードバンドと各種のAndroid端末の登場で、様々な経験価値の体感ができるようになるのだろう。
今は無線ブロードバンドの変革点にあり、ここ2〜3年でAndroid+LTEで様々な無線ブロードバンド・サービスでの思わぬ展開がありそうだ。

技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるのか?オープンイノベーションモデルを考える

以前に、ここのブログで紹介した妹尾賢一郎氏が書いた「技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるのか」をもう一度読み下したので、概要をメモしておこうと思う。8月11日付のブログMOTの視点から見たプロダクトイノベーションを実現するためのキャズム死の谷)の越え方などについて書いてみたが、今回は事業起点型の知財戦略の重要性などが浮き彫りにされた。
妹尾氏は、今日の国際市場の拡大と日本製品のシェア急落の背景には、欧米企業とNIEs/ BRICsといった新興工業経済地域の企業との巧みな協調関係があり、今後の競争力強化はコラボレーションによる協業的協調力(コラボレーティブ・イノベーション)強化が必要だという。但し、オープン戦略とかコラボレーション戦略とは単に仲良くやろうという意味ではなく、したたかな囲い込み戦略が本質だ。Linuxのような善意に基づくボランティア協業は例外的なケースだという。
また、イノベーション(価値の創造)の意味も大きく変わり、インベンション(発明、技術開発)と同義であったイノベーション・モデルの時代は過去のものとなり、イノベーション=発明×普及定着の時代になったという。
要すれば、技術力が必要十分条件の時代から「技術力は必要条件だが他に十分条件となるものが現れた時代」に入ったのだという。


21世紀に求められる事業でも勝つための三位一体型事業経営
今後は、事業でも勝つためには、次の三位一体型事業経営が必要になるという。
1)製品の特徴(アーキテクチャー)に応じた急所技術の見極めとその研究開発戦略。
2)どこまでを独自技術としてブラックボックス化したり特許を取得したり、どこを標準化してオープン化したりするかという知財戦略。
3)市場拡大と収益確保の両立させるビジネスモデルの構築といった事業戦略。

また日本のお家芸であった「既存モデルの錬磨」では勝てず、「イノベーションで勝つ」新規モデルへの移行が必要だとし、そのイノベーションの7原則として以下の点を挙げている。

  1. 従来モデルの改善をいくら進めてもイノベーションは起こらない
  2. イノベーションは従来モデルを駆逐し、その生産性向上努力を無にする
  3. システム的な階層構造上、常に上位のモデルのイノベーションが競争優位に立つ
  4. 下位レベルのモデル磨きは、上位のモデル磨きに留まる場合が普通だが、時には上位モデル創造となる場合もある(CDからDVDへの移行事例)
  5. プロダクトイノベーションの方がプロセスイノベーションよりも強い
  6. 同種モデル間の急送はインプルーブメント、異種間の競争はイノベーション
  7. 成長と発展、イノベーションとインプルーブメントは「スパイラルな関係」

新しいイノベーション・サイクルの考え方
従来、語られてきたイノベーションの考え方は、知財(技術)の「創造」「その保護・権利化」「知財(技術)の活用」の3つのステージを推し進めるといった「技術起点型の知的創造サイクル」だった(2003年からの知財推進計画)。
今後は、これらのサイクルを逆回転させ「事業構想」「知財(技術)を軸とした競争力デザイン」「知財(技術)調達のアレンジメント」へと進める「事業起点型事業創造サイクル」の考え方が重要になり、発想の転換が必要という訳だ。

これらのことをビジネスモデルの捉え方の点からいえば、「自社技術中心のコモディティ型モデル」から「製品・サービスを併せたトータルサービスシステム提供モデル」への転換が重要になると言うことだ。
これは例えばM&Aに際しては、「自社技術中心の意思決定」から「ビジネスモデル中心の意思決定」に変えるべきだということになろうし、製品の生産販売戦略に際しては、「個別製品毎の生産販売戦略」から「複数製品とサービスを組み合わせた統合バリューチェーンでのビジネス戦略」に変えるべきだということになろう。

また、最後の「知財調達(リソーシング)」の方法としては次の5つが挙げられており、それらを如何に組み合わせるかが(リソーシング・デザイン)が事業戦略上、重要だという。

  1. インソース(自前開発)−これまでの外企業の技術開発の考え方
  2. アウトソース(外部調達)−ライセンシングやM&A
  3. クロスソース(相互共有)−クロスライセンス
  4. コモンソース(共通共有)−ブルーレイ対HD-DVDといったパテントプール
  5. オープンソース(公開)

こうした事業起点型事業創造サイクルで日本企業が成功している事業分野は、デジタルカメラやSDカードなど記憶媒体の分野のみ。こうした事業構想起点での事業創造の考え方を普及させるためには知財関係者と事業関係者の相当な意識改革が必要だろう。また事業起点型事業創造サイクルのバリュエーションとして、二酸化炭素排出削減やレアメタル問題といった社会問題起点型事業創造モデルも出てくる。

インテルインサイド、アップル・アウトサイド
イノベーションの代表的なパターンとして、基幹部品主導型で完成品を従属させたインテルインサイド型と、完成品イメージ主導型で部品を従属させたアップル・アウトサイド型が挙げられており、これらが勝ち組の方程式になってきたという。
日本の部材産業は世界シェアが高いので日本では部材産業が優位と言われるが、収益が四苦八苦であれば単なる下請け部材に過ぎず競争力があるとは言い難いという。また擦り合わせ技術で日本が優位とされてきた自動車産業についても電気自動車の導入によるビジネスモデルの変化でエンジンに依存してきた自動車産業は危うくなる可能性を指摘している。

新しいイノベーション戦略のパターンとして、オープン戦略とクローズ戦略の4つの組み合わせパターンが示されている。

  1. クローズ・インベンションで始め、クローズ・ディフュージョン(普及)へ持ち込む
  2. オープン・インベンションで始め、オープン・ディフュージョン(普及)へ持ち込む
  3. クローズ・インベンションで始め、オープン・ディフュージョンに持ち込む
  4. イープン・インベンションで始め、クローズ・ディフュージョンに持ち込む

これらのパターンのうち、オープン化戦略に慣れていない日本企業に向いているのは、3)のクローズ・インベンションで始め、オープン・ディフュージョンに持ち込むパターンではないかという。

11月1日のブログではグローバルな投資視点の欠如が日本企業の競争力劣後の要因で、技術力よりも経営力の差異が問題ではないかと書き、その後、11月4日付ブログで究極のオープン・イノベーションモデルといえるOSS成功事例としてLinuxのビジネスモデルの事例を解析してみた。
妹尾氏の「技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるのか」を読み合わせてみると、Linuxの純粋なオープンソース戦略が、全産業の標準的な21世紀型のネットワーク・エコ開発システムとは言えないのだろう。だが、知財戦略の視点を入れたオープンとクローズを組み合わせた外部ネットワーク戦略と置き換えて捉えなおせば、21世紀型のオープン・イノベーションモデルは浮き上がってきたような気がする。

究極のオープン・イノベーションモデルと言えるOSS需要がクラウドの爆発で喚起される

日本のゼネコン型情報サービス産業にOSS需要が風穴を開けるか?
市場規模20兆円、就労者85万人、GDPの3%強を占める日本の情報サービス産業は、垂直型多重下請け構造から水平分業・分散型への構造転換の兆しが出てきた。日本郵政やエコポイント・システムでSalesForceCRMのSaaSが採用されたことから遅まきながら日本でもクラウド化の現実味が増し始めているためだ。景気悪化に伴いユーザー企業もコストの安いSaaSの採用や、究極のオープン・イノベーション・モデルの成果であり欧米で先行するOSS(オープンソース・ソフトウェア)の活用が広まりそうだ。プライベートクラウドの構築は、通常のシステム構築と同様に政府が要件定義を行うが、その要件定義の中に「OSSを使用すること」が盛り込まれるケースがあるという。英国政府のG-Cloudでは、OSSを使うことによって、日本円で900億円以上のコスト削減を見込んでいるという(関連記事)。

2020年にオープンソースソフトウェアが業界の主流に?システム・コスト削減の流れが後押し?
このようにグロ−バルでは米英政府のクラウド調達でWindowsに加えてRed Hat Enterprise Linux などOSS(オープンソース・ソフトウェア)が採用され始めている。理由は総所有コストが抑えられること、開発コストがかからないこと、アプリケーション・ソフト開発が比較的容易なことだ。2008年12月にパリで開催されたOSSカンファレンス「Open World Forum」で2020年までにOSSがソフトウェア業界の主流になるとのロードマップが既に発表されたが、クラウド化の進展と共にOSS化も着実に進展していることが窺える。
OSS(オープンソース・ソフトウェア)開発は究極のオープン・イノベーション・ビジネスモデルだ。オープンソースというのはプロダクト形態ではなく、IT事業戦略そのものを意味するからだ。(オープンソースが製品ではなく、IT戦略そのものである6つの理由を参照)。
そもそもソフトウェアの価格低廉化や無料化の流れは、デジタルネットワーク化が進む上で自然な流れと言える。情報の制作や配給が安価に行えるようになるとコピーの供給量も増大する。コピーが増大するにも関わらず人々がコピーを使用できる時間は限定されるため、需要は限定的となる。従ってデジタル化されたネットワーク上の情報の値段は下落していくためだ。こうした傾向は、ソフトウェアビジネスのみならずテレビ、新聞、雑誌などメディアビジネスにも該当する。

Linuxのビジネスモデルは21世紀型ネットワーク・エコ開発システムになり得るのか?
著書「Linuxはいかにしてビジネスになったか」において、情報の価値を経済価値(利益)に結びつける11のダイソン・モデルが紹介されている。

  1. 定期購読モデル
  2. パフォーマンスモデル(情報を無料で配布し、コンサート・チケットなどから利益を上げるモデル
  3. 知的サービスモデル(無料のセミナーを開き、個々の顧客に有料の知的サービスを提供するモデル)
  4. 情報を一定期間貸し出して利益を上げるモデル
  5. メンバーシップモデル(会員間の情報交換の調整役としての価値を会員費として収益化するモデル)
  6. オフライン会議モデル(パフォーマンスモデル、知的サービスモデル、メンバーシップモデルの組み合わせ)
  7. 製品サポートモデル
  8. 派生商品モデル(情報をライセンスし、ブランド名の入ったグッズなどで利益を上げるモデル)
  9. 広告モデル
  10. スポンサーシップモデル
  11. 複製販売モデル(電子透かしなどで情報管理し、複製されたすべての情報に課金するモデル)

これらの収益モデルは、メディアビジネスなど広義の情報ビジネスとして捉えたものであるが、OSSビジネスモデルでは、コミュニティ開発活動を通じて情報からダイナミックに生まれる価値への対価を求める10のスポンサーシップモデルが経済モデルとして重要だと言う。OSSの代表格の1つであるLinuxのビジネスモデルは、このスポンサーシップモデルで成功したのだと言う。
もう少し詳しく言うと、Linuxのビジネスモデルは、営利企業が直接的に開発者達のネットワークコニュニティに干渉せず、ネットワークコミュニティが生み出す編集価値をコンパイル(ソースコードをバイナリコードに変換)することに徹するバリュー・コンパイリング・モデルがLinux企業群によって形成されたため、ビジネスとして成功したのだと言う。
つまりLinuxの開発者であるリーナスは、ボランティア的な開発ネットワーク・コミュニティをまとめるリーダーに留まり、Red Hat社やVAリナックス社などの周辺のリナックス企業がLinuxカーネルを中心とするソフトウェアを組み合わせて1つのLinuxシステムとして動作するパッケージにコンパイルし、ディストリビューターとして営利事業を展開し、連携できたことでボランティア・ネットワークと営利ビジネスが両立できたというのだ。

もう少し、Red Hat社やVAリナックス社などの周辺のリナックス企業の付加価値源を整理してみると、それは何なのか?
様々な開発者達のネットワークコニュニティが様々な方法でLinuxを開発する。ただこれらは正式なソフトウェアとして利用する場合には、個々の最終ユーザーが個々に検証作業を行う必要がある。
そこでRed Hat社やVAリナックス社などの周辺のリナックス企業がこれらの検証作業を行い正式製品としてコンパイルする。だから最終ユーザーはリナックス企業が検証してくれた検証後の正式版を購入すれば面倒な作業をしないでLinuxを使用できる。
このように、様々な開発者と検証済製品との間のデコボコを均してくれるところにRed Hat社やVAリナックス社などの辺のリナックス企業の価値の源泉があると考えられる。

著書「Linuxはいかにしてビジネスになったか」では、Linuxコニュニティが継続的に編集価値を生み出せた理由として以下の8点を挙げている。そうしてこうしたLinuxコミュニティはカーネル読書会などの熱烈なハッカーの集まりによって活動がなされている(関連エントリー)。

  1. 誰でも自由に利用できるソフトウェアを作るというビジョン
  2. イデオロギーよりも社会的実用性を重んじるコミュニティの文化
  3. 開発にコミットする優れたプログラマーたち
  4. プログラマーたちに共通の言語であるソースコード
  5. ソースコードの運搬を低コストで実現するインターネット
  6. リナックスという成果物
  7. リナックス生みの親であるリーナスのリーダーシップ
  8. 営利企業と連携する戦略

Linuxはいかにしてビジネスになったか―コミュニティ・アライアンス戦略

Linuxはいかにしてビジネスになったか―コミュニティ・アライアンス戦略

営利事業としてのOSS関連事業の成長性
一方、営利事業で成長したRed Hat社はインテルの出資により高まったブランド力を背景に、同社のディストリビューションであるRed Hat Enterprise Linuxの保守サービス中心に業績を伸ばしている。Red Hatの2010年度第2四半期(2009年6〜8月)の営業利益は2754万2000ドル(1ドル100円換算で27億5420万円)で,前年四半期から29%増となった。2009年度通期の営業利益は,8252万1000ドル(同82億5210万円)で,前年から17%増と好調な推移となっている。米国調査会社IDCは2009年7月に,「オープンソースがもたらす収益は,不況によってコスト削減を図る企業が多いことが追い風になり、2013年までにグローバルで年平均22.4%の割合で成長する」という予想を発表している。

先にも述べたように、Red Hat社は、様々な開発者と検証済製品との間のデコボコを均してくれるところ付加価値を有する企業なのだが、幸いにRed Hat社は圧倒的な独占企業になってしまった。なので、同社は更なる業績好調が続くのだろう。

日本でのOSS関連事業の方向性
オープンソース・ソフト関連のビジネス形態には,(1)ライセンス販売、(2)保守サービス、(3)周辺サービス(システム構築やコンサルティング等)があるが、日本国内ではOSSの普及が遅れていることもあり、ライセンス販売で収益を伸ばすのはなかなか難しいと言われている。そのため(2)を主力事業とするLinuxディストリビューターが多いが、保守サービスだけでの事業成長は余り期待できないようだ。
日本でOSS関連事業を展開するにあたっては、Red Hatの社のようにブランド力を獲得しながら、OSSの普及に併せて、システム運用やポータル・サービスなどを組合わせながら事業成長モデルを描いていくというのが実態的な事業モデルの方向性だろう。
但し、様々な開発者と検証済製品との間に均すべきデコボコが存在することがOSSで付加価値を確保するための必要条件である点を考慮しなければならないだろう。

閑話休題 秋は過ぎ行く〜 雲取山紀行

9月に登った雲取山は秋に入っていたが、すでに自宅の周りも秋から冬。
本格的な冬にならないうちに雲取山を写真をいくつか掲載しておこう。
三峰神社登山口)秩父〜雲取へ

雲取山荘)三峰神社から6時間弱

雲取山荘からのご来光)これから好いことが起こりそうなご来光

雲取山頂上)雲取から奥多摩へ約5時間

オープン・イノベーションが日本企業にとって重要な理由

2009年8月7日のブログ「オープン・イノベーションへの警告」で、私は池田信夫氏の8月7日付のブログでのコメント「オープン・イノベーション化という言葉が最近、バズワード化している」を受けて、私もその通りだと思うと書いた。
この時、私自身オープン・イノベーションの受け止め方はプラットフォーム戦略の1つの手段という理解に留まっていたが、Lilacさんのブログ「My Life in MIT Sloan」の10月24日付のエントリー「オープン・イノベーションが日本企業にとって重要な3つの理由」イノベーションのジレンマへの対応手段になるとの大変示唆に富むコメントに接することができた。そのため、もう一度掘り下げて整理しておきたい。

得意分野が成熟産業化してきた日本企業、デファクト化を進めるのが不得意な日本企業にとって、オープン・イノベーションは戦略的な意味合いがある。このことをしっかり意識しておかないと、本当にただのキャンペーンに終わってしまうだろう、とLilacさんは言う。
オープン・イノベーションが必要な3つの理由とは、次の3項目だと言う。

  1. アイディアが生まれないからではなく、成功している成熟産業で、イノベーションのジレンマから脱出するため
  2. 自社技術の周りに「生態系」を構築し、デファクト・スタンダード化を進めるため
  3. せちがらい世の中で、企業の研究者同士のコミュニケーションを深めるための「かくれみの(コミュニケーションの場)」を確保するため

1.では、同じ成熟産業で成功している同業他社と協業しても新しいイノベーションは起こらないことから、小さいベンチャーや、他業種からの新規参入者、大学などを活用する。具体的には、自社の研究者、エンジニアをスピンオフさせて、こういうところに送り込み、JVにしたりして、資本は入れておくというものだ。
2.では、自社が基軸となる技術を持っている場合で、その技術を相手に合わせて変化させながらプラットフォーム化し、「業界標準」としていくモデルだと言う。
3.は、「談合」疑惑を避けるため、企業同士のコミュニケーションもかなり少なくなったことを受けて、研究者やエンジニア同士が、ざっくばらんに話し合う機会を作ろうというものだ。

イノベーションのジレンマからの脱出手段としてのオープン・イノベーションの重要性

3.の企業研究者同士のコミュニケーションを深めるための機会作りということに関しては、既に様々な異業種勉強会が存在するので、オープンイノベーションの積極的な意味合いとしては、少し違和感を感じるが、デファクトスタンダード化のための手段という解釈に加えて、イノベーションのジレンマからの脱出手段になるというのは大企業の企業戦略にとっても重要な視点だろう。

日本人の考え方でローカルな製品を作る時代は終わった
確かに、日本の戦後の経済成長は、自動車、半導体、テレビにせよ、欧米先進国でドミナント・デザインが決まった産業に参入し、キャッチアップするというものだったために、基本的にはプロダクト・イノベーションではなくプロセス・イノベーション主体で実現できた。プロセスイノベーションは、匠の技を活かしながら軽薄短小化と原価低減を進め、品質と価格での競争力を実現すればいいというものだった。
これらは、東大の藤本隆宏教授が論じている「擦り合わせ技術を中心とした日本のものづくりの強み」と呼ばれたもので1990年代までは確かに存在したかもしれない。
しかしながら、最近では、擦り合わせ技術の代表格であるガソリン・エンジンの自動車から電気自動車への転換がグローバルで進みそうな状況下、日本人の考え方でローカルな製品を作る時代は終わったのだと思われる。日本企業はもはや「日本らしい強み」に頼ってはいけない仕組みに変わらざるを得なくなってきているように思われる。
「匠の技の通用する分野は狭まっており、ビジネス的には袋小路である。すり合わせの有効性にも限界がある。日本企業が破れたのは産業構造の変化に日本の製造業が対応できなかったことだ」という池田信夫氏の論評ともつながる。

オープン・イノベーションは自己の技術をデファクト化するための戦術
8月7日のログでも述べたが、オープン・イノベーションやオープン化はプラットフォームを作るための一時的な手段であって、Googleなど先行するオープンイノベーション・モデルの上に乗って活用できればいいとか、物まねすればいいというものではない。オープン・イノベーションは、自己の技術をデファクト化するための戦術であり、イノベーションのジレンマから脱出する手段でもあり、その結果、最後はプラットフォームで圧倒的な市場を押えた者が勝つという真理は変わらないだろうから。
その意味で、流行追随のノリで余り軽々しく使うと、キャンペーンやバズワードになってしまうというのはその通りだろう。

グローバルな投資視点の欠如が競争力の差異になっているのではないか??

競争力の差異として、技術力よりも経営力の差異が明らかになった事例がここのところ散見されたのでメモとして記録しておこうと思う。
先週にかけて7〜9月期の決算が上場各社から発表された。4〜6月期に比べれば黒字化しており、経営者もコスト削減が進み黒字化したとのコメントや、新聞報道なども業績回復への兆しが見えてきたなどとの評論が多く見られる。こうした中で、気になったのが数字の背景にある経営改善の中身だ。
7〜9月期の韓国サムスン電子の営業利益は3,260億円だったのに対して、国内大手電機メーカー9社の営業利益は合算しても1,520億円と見劣りしている。回復の力強さでは海外勢に大きく水をあけられているのだ。

この背景には技術力の差ではなく経営力の差が大きく影響していると見られる。
例えば、半導体や液晶などの部品ビジネスでは、日本企業は景気が悪化すると一斉に投資にブレーキをかけた。今年1〜3月期に見られた急速な設備や在庫調整の動きはこうした企業行動を物語っている。同時に固定費削減のために製造派遣の解雇なども急速に進められ、派遣切り問題も社会問題になった。
サムスン電子は、景気の下降局面は設備コストが下がり投資のチャンスと見て大型投資を実施し、景気回復局面では生産力でライバルに差をつけることができた。
また、グローバル展開を強く指向していることから世界シェア拡大でも飛躍ができたことが挙げられている。

日本企業は目先の業績動向に気を取られすぎているようで、中長期で経営資源をどのように配分し育てていくかとか、景気悪化の底で投資して景気良好局面で締めていくといった、一歩先を読んでリスクをとる投資経営の視点やグローバル戦略など、リスクをとったダイナミックな経営視点が欠けているように思う。
こうしたグローバルな投資視点の欠如が企業の国際競争力低下の一因になっているのではないかと思った次第。