新陳代謝を促せ!〜新産業育成とベンチャーキャピタル充実の必要性

新陳代謝を促せ!
新陳代謝を促せ。1月11日の日経新聞1面のコラム「ニッポン復活の10年」の伊藤元重東大教授の論評だ。日本国内は1992年頃からほぼ一貫して供給過剰で需要が足らない状況が続いている。これだけ長期間にわたって続いているデフレを解消するには産業全体の新陳代謝を進める必要があると。
例えば建設業や流通業、中小製造業などは需要に比べて企業数が多く、消耗戦に陥っているためM&Aや企業整理などを大胆に進める必要がある。一方で、雇用の受け皿となるような新産業をしっかり育て、供給過剰を解消するためアジアの需要をもっと取り込む必要があり、民間活力を活性化する必要があると。そして、規制緩和と法人課税の実効税率の引き下げが必要だと。
伊藤教授の指摘は御尤もだと思う。規制緩和法人税率引き下げは早急に実施されるべき施策だが、経済学者のいつものお決まりの答えだ。
リーマンショック後景気低迷が長引くと、世の中全体的にリスクに対して保守的な姿勢が強まりデフレ悪循環の傾向が高まってしまいがちだ。寧ろ、リスクを取りやすい環境作りをどのように進めるかの具体策を検討すべきだろう。
リスクを取っている企業や国ほど収益率や成長性が高いことは統計的にも証明されている。代表的な指標と思われる起業活動と成長率の関係を見ても、起業活動従事者シェアが高い国ほど成長率が高い。起業が盛んであれば、経営資源が速やかに移動し、イノベーションが進みやすいから起業が経済成長にプラスの影響を及ぼすことになる。
しかしながら、現実のベンチャー企業の起業動向を見ると日本は世界の中でも極めて低い水準に甘んじている。日本の起業率は1.8%(2002年)に留まっており、米国10.5%、イギリス5.4%、ドイツ5.2%と比べると大きく水をあけられている。起業件数でも中国は日本の7倍、韓国は8倍と日本を大きく上回っているのだ。

新産業育成とベンチャーキャピタル充実の必要性
2006年初頭のライブドアショック以降の新興市場の低迷に加え、2008年9月のリーマンショック以降、ベンチャー企業に資金を供給する役割を果たすべきベンチャーキャピタルの活動が極端に鈍っている。一方で、昨年末に提示された民主党の新成長戦略、国家戦略局の方針の中にも日本の内需拡大について新産業育成については触れていない点は大いに問題だと思う。

ベンチャー起業活性化のためには、制度・慣行といった実業面の改善とリスクマネーの供給環境整備といった金融面の2つの側面からの課題解決が必要になるだろう。
実業面では現行のモノ・技術・資金の流れの不備が指摘されている。また、偏差値教育の弊害や社長に個人保証を求め、失敗すれば敗者復活の機会がない点なども指摘されている。早急に弊害となっている業界慣行や規制の撤廃、大学教育の改革に着手する提言がなされるべきだろう。
一方で、ベンチャーへのリスクマネーの供給体制にも問題が多い。
日本のベンチャーキャピタルの特徴をみてみると、日本では、金融機関系(銀行、証券会社など)が6割、事業会社系が約2割であり、これらの子会社として設立されているものが多い。これに対し、アメリカでは独立系が8割を占めており、金融機関や事業会社の子会社は非常に少ない。金融機関や事業会社の子会社であるベンチャーキャピタルでは、親子会社間の人事異動の多さ等から専門的知識・能力を有するキャピタリストが育ちにくいうえ、ハンズオン型の経営指導的な投資は行われない。
 また、日米欧でベンチャーキャピタルへの出資者を比べると、日本は事業法人と金融機関が中心で、年金基金はほとんど出資していないが、アメリカでは年金基金が4割、欧州では3割を占めている。日本は欧米に比べて年金・投信運用を通じた家計の金融資産の起業への資金供給チャンネルが確立されていない。
これは、日本では、家計の資産保有は現金・預金が中心で、保険・年金が25%、株式・出資金は10%、投資信託は5%に満たず、その現金・預金が銀行を通じて企業に貸し出されるという間接金融の流れが基本にあるのに対して、欧米では現金・預金は約3割、米国では1割強にすぎず、大部分を保険・年金、株式・出資金、投資信託などリスク資産への運用に積極的に行う直接金融の流れが基本になっている金融構造の違いがある。
欧米では年金運用でのベンチャーキャピタルへの投資がオルタナティブ投資の有力選択肢になっているが日本では皆無。その理由は、日本のベンチャーキャピタルの平均IRRが-5〜0%と極めて低いことも足枷となっているのだろう。ベンチャーキャピタリストの育成も課題になっている訳だ。

今の時代に求められるベンチャー支援の方向性、過去ベンチャー支援がうまくいかなかった理由
なお、今の時代に求められるベンチャー支援の方向性、過去ベンチャー支援がうまくいかなかった理由については、2009年8月8日付けエントリー「間違ったベンチャー企業支援 〜官製VCと技術ベンチャー育成が機能しない理由」で色々書いた。こちらをご覧になっていただきたい。

 2010年のICTトレンド

このブログを書き始めた一昨年の夏の2008年8月16日のエントリーで、私は10年後のICT社会インフラのキーワードは、Wikiクラウド・コンピューティングメタバースではないかと書いた。

2010年代の10年間のIT業界の見通しについてシリコンバレー在住の海部美知氏は、1月3日のエントリーでIT・ウェブそのものの進化はますますスローダウンし、進化した技術をどうやって他の産業に応用して、問題を解決するのかに向かう時代になっていくのではないかと述べている。

これから先、2010年代はどうなんだろう、とぼんやり考えてみると、ひょっとしたら、目に見える「IT・ウェブそのもの」の進化はますますスローダウンするんじゃないだろうか。少なくとも、通信の世界から見ていると、「携帯電話」という商品そのものの魅力はすでにやや色褪せたというか、登場時ほどのインパクトはなくなっているし、動画やスマートフォンなどの分野でも、2005〜6年をピークに、その後は「改良版」が徐々に出てきているだけで、素人が見てもハッキリわかるようなインパクトのある製品やサービスというのは、現在の技術インフラ(チップとか通信速度とかコストとか)の制約の中では難しくなってるような気がする。(中略)進化した技術をどうやって他の産業に応用して、問題を解決するのか、もっと大袈裟にシリコンバレー風に言えば「どうすれば世界をよりよくすることができるか」といった方向にエネルギーが向きだしているような気がしている。

さて、そうした2010年代の1年目である2010年のICTトレンドは、こうした業界変化を裏方で支えていくための一層具体化したデバイスやサービス、要素技術が出てくると思われる。
技術の進歩はGoogleの出現のような画期的な変革はないものの、身の回りの生活品を変えてゆく着実な技術が様々な形で具現化していくような気がしている。有識者が書いているエレクトロニクス分野も含めたICTの2010年の注目テーマのコラムを拾ってみた。
(日経エレクトロニクス) http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20091229/178911/
(瀧口範子シリコンバレー通信」) http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070222/262978/
(TechCrunch 2010年に大きく伸びる技術トップ10–タブレットからソーシャルCRMまで) http://jp.techcrunch.com/archives/20100101ten-technologies-2010/

それぞれのコラムのキーワードを拾ってみる。
日経エレクトロニクスは、スマートグリッドと電気自動車開発、インターネット接続家電、医療・健康機器の情報家電との連携だ。
瀧口範子氏のシリコンバレー通信は、クラウドの一般ユーザー移行、携帯のマジックワンド(自動選択ツール)化、コンピュータの多様化、ニュース・コンテンツの有料化、インターネットテレビの本格化、グーグルの事業多角化、エコモニター技術、SNSユビキタス化、電子書籍リーダーの定着、Wi-Fiの普及化を挙げている。
TechCrunchでは、タブレッド、位置情報、リアルタイム検索、Chrome OSHTML5、モバイルビデオ、拡張現実(AR)、モバイルトランザクションAndroid 、ソーシャルCRMを挙げている。

さて、これらの共通項目で今後10年後に向けてのトレンドを作っていくと思われる代表的な技術トレンドを取り上げてみたい。
1.スマートグリッドの標準化動向
11月22日のエントリーでも書いたが、スマートグリッドは昨年のクラウド・コンピューティングに続く次世代の大きなインフラ基盤になってゆくものとして外せないだろう。特に米国で先行しているスマートグリッド(日本のスマートグリッドとは異なる)の標準化の動きは世界のデファクトになっていく可能性もあり目を外せない。Googleがパワーメーターの普及を通じた電力需給調整システムや電気自動車をバックアップ電源として活用するための新たな電力需給調整システム分野に参入しようとしている点は留意しておく必要があろう。

2.電子書籍端末など様々なネットワーク家電の出現
充実したコンテンツ、インターネットにいつでもどこでも繋がる、ハードもソフトも手ごろな値段で安いといった3点を満たした様々な端末ビジネスモデルが登場しそうだ。代表的なものはAmazonが販売している電子書籍端末Kindleシリーズだ。
またAppleが今春販売予定のタブレットも注目されている。キッチンでレシピを探すとか、ちょっとした調べ物をするといったキッチン用コンピューターなどの機能が期待される。
またモバイルビデオの普及も本格化する見込みだ。
11月21日のエントリーでもふれたがGoogleAndroidは携帯電話のみならずM2M(Machine To Machine)での 組み込み型ミドルウェアOSとしての普及を目指している点も見逃せない。

3.ARの普及による携帯のマジックワンド化(自動選択ツール化)
AR(拡張現実)のアプリケーションの充実で、街中で携帯をかざすと携帯のカメラ画面に探している目的物を示されるといったサービスも本格化するだろう。
4月11日のエントリーで書いたセカイカメラが本格的にフロンティアを築いていくことに注目したい。

4.Android携帯端末の多様化
これまでAppleiPhoneスマートフォンの独壇場だったが、昨年は、VerizonのDroidをはじめ、Androidケータイの機種が20種類あまり発売された。近々Googleの独自携帯電話端末Nexus OneGoogleiPhone対抗端末として発売されるが、それはAndroidケータイとしては初めての、キャリアを特定しないアンロック製品となる点に注目したい(T-Mobileからキャリア補助金付きのも発売される)。スマートフォンの勢力図と通信会社、ソフトウェアメーカー、端末メーカー入り乱れた様々なビジネスモデルが展開されそうだ。

5.SNSユビキタス化の進展(ソーシャルCRMの普及)
TwitterFacebookで一般大衆に普及したソーシャルでリアルタイムなコミュニケーションツールが、今年は企業にも浸透していくという。Salesforce.comが近く立ち上げるChatterは、TwitterFacebookから汲み上げた企業データのリアルタイムストリームを、ビジネスのツールとして活用するそうだ。SNSTwitterとリンクしてリアルタイム性を持ち、SNSがインターネット上の人間インフラのようにユビキタスに使われてゆくようになる。SNSは、リアルタイムでの集合知のプラットフォームに発展していきそうだ。


6.リアルタイム検索
5と関係してくるが、Google等はTweetなどリアルタイムアップデートの検索機能を充実させると予想される。Collecta、OneRiot、Topsyなどのリアルタイム検索専門サイトも、さらに精度を上げ、リアルタイム検索は、TwitterFacebookなどにおけるナビゲーションの役割を果たすだろう。また、リアルタイム検索とリアルタイムフィルタリングの結合によりユーザは、最新の情報を入手するだけでなく、もっとも適切で正しい情報を入手できるようになる。

海部美知氏は、2010年代はIT/通信は人々に幸福をもたらすようになってほしいものだと述べている。

深く静かに、他の産業の「縁の下の力持ち」として価値を発揮するんじゃないか。「クラウド」とは、そういう性格のものではないか。目に見える部分はほんの少しずつ、地味に使い勝手が向上する程度かもしれないし、90年代のように「諸手を挙げてみんなどーっと移行」というふうにはならないけれど。ここしばらくの業界の様子を見ていると、そんな気がしている。

こうしてWikiクラウド・コンピューティングメタバースと霞のように曖昧にくくっていた10年後のIT社会像は、縁の下の力持ちとして具体的な実像に近付いていくように思われる。

2010年の日本経済と民主党政権の新成長戦略を考える

murakyut2010-01-02

明けましておめでとうございます!
今日は、小江戸・川越へ七福神廻りををかねて初詣に出かけ、川越大師・喜多院で参拝してきました。 おみくじを引くと、吉。
久しく曇っていた空もようやく晴れ渡り、すっきりする。 心配事もなくなり、願望、後になって叶えられる。 まぁ、景気が未だ晴れない中にあって、そうなってくれるといいなと思う、そこそこ悪くない新年の御託宣でした。
ここを訪れた方々の新年のご多幸をお祈り申し上げます。
さて本題。年始なので2010年の日本を考えてみる。

2010年の日本
2010年の日本を展望してみる。2010年は日本のGDPが中国に抜かれて世界第3位に転落する大きな転機を迎える年だ。
2010年度の税収37兆円に対して新規国債発行額は過去最大の44兆円で、政府債務残高のGDP比は200%の大台に乗ると言われている。これは第二次世界大戦時並みの過去最悪水準だ。
2010年度一般歳出は当初の55兆円から、あの事業仕訳などにより公共事業費を中心に約2兆円削減され、社会保障関連支出の増加もあり53兆円に留まった。ここまで財政収支が悪化した最も大きい要因は、企業業績悪化などにより税収が1990年度の過去最高税収60兆円に比べて6割程度まで下落したことが大きい。
ここで必要なのが企業業績の持続的回復、いわゆる成長戦略だ。民主党政権は昨年末の12月30日に新成長戦略を閣議決定した(発表内容はこちら)。「環境・エネルギー」「健康(医療・介護)」など、日本の強みを生かし、更に「アジア」「観光・地域活性化」などのフロンティアを開拓することによって2020年までのGDPの平均成長率を名目で3%、実質で2%を達成し、2020年度名目GDP650兆円を達成するというものだ。今年6月までに新成長戦略の最終とりまとめをして成長戦略実行計画表(工程表)を策定するという。戦略というからには工程表に加えて、具体策、税財源の明確化が必要になるが、その具体策の中身も単なる予算の再配分だけではなく過去の経験にはない斬新な切り口が必要になるだろう。
日本には2つの大きな財産があり、1つは技術の蓄積、2つめは1400兆円の個人金融資産がある。この2つの大きな資産を新しい切り口でどのような成長投資に向けてゆくかが問われるのだと思う。

世界の抜本的な変化への感度が足りず、意識改革が求められている日本
2010年は、かつての米国の過剰消費型依存型の膨張経済が剥落したデフレ経済の中で、贅肉を落とした縮小均衡と成長という一見すると矛盾した戦略でスタートを切る必要がある。
また、日本企業を取り囲むグローバルな競争ルールは一変している。
その世界的な競争ルールの一変をもたらしている大きな理由の1つが、これまで私が評論してきたグローバルベースでのICTの進歩だ。ICTの進歩は「国境」や伝統的な「業界」の境界線を消滅させ、ハードとソフトの融合、製造とサービスの融合、Webの進化によるオープン・ソース化やソーシャル化による集合知を活用した新たな創造・生産をもたらしている。
石倉洋子著の「戦略シフト」によれば、こうした技術環境の変化が、企業の利益追求と社会的責任、グローバルとローカル、一国の経済成長と持続的社会の維持など従来、二律背反と捉えられてきた関係が協働できる多様かつ複雑な事業形態を生んでいるという。
ただ、日本企業の問題点は、こうした世界の抜本的な変化への感度が足りないため、意識と行動の改革が求められている点だ。


日本の2つの大きな財産の望ましい活用の仕方
こうした中で、日本の2つの大きな財産の投資が次のような形でなされる環境作りが政府の手で早急に作られる必要があると思っている。まず、蓄積された日本の技術力は、自社技術中心のコモディティ型ビジネスモデルではなく、製品・運用サービスを併せたトータルシステム提供モデルの中で活用されることが、新たな成長につながる鍵になると見ている。この理由については、11月18日付エントリー「技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるか」でも述べた通りだ。また、ベンチャー企業のアントロプレナーシップが大企業の新しいビジネスモデル創出と連携する創発環境作りなども大事だろう。こうしたビジネスモデル変革への環境作りが21世紀型企業の競争環境の整備ということだと思う。
また、1400兆円の個人金融資産については、銀行預金や国債への投資ではなく株式・債券市場への投資を通じて日本企業の国内成長投資は基より今後の成長市場であるアジア・新興国へのM&A資金に向かい、海外からの配当などの投資収益収入となって帰ってくるような仕組みづくりが必要だろう。

2010年の株式市場は、新興国の成長に支えられながら過剰流動性に企業業績の改善が加わり長期上昇相場の明るい展望
一方で、金融市場の動向に目を向けてみると、金融市場は世界的な巨額の財政出動による過剰流動性の超金余り状況が続いている。また、米国の猛烈な財政支出で増加した米国債の最大の投資家は世界最大の外貨準備を誇る中国であり、中国が米国の財政赤字を支えつつ、中国の高いGDP成長が世界経済を牽引していく構図は変わっていない。
2010年も基本的に先進国よりも高い経済成長を維持する中国、インド、ブラジルなどの新興国の株式市場がこうした過剰流動性の受け入れ先になっていく状況は変わらないだろう。
その中で、日本の株式市場についての見通しは意外と明るいだろう。私の知り合いのストラテジストの意見によると、2009年11月末にかけては急速な円高の進行で株価が下落したことはあるものの、こうした急激な円高がなければ2010年の企業業績予想も上方修正余地を残しており予想PER 20倍を前提とすれば、日経平均株価は高値で13000円程度もありうると見ている。日本の財政収支悪化による日本国債格下げ懸念もあるが、世界の中での相対的な経済基盤の強さを考えれば、株式相場では織り込み済みで懸念材料にはならないだろう。
2010年は流動性相場から業績相場に移行し良好な上昇相場が続く可能性が高いと思われが、株式投資コンサルタントの春山昇華氏は、12月30日のブログ・エントリーで「悩み多き日本株だが、前を向いて見よう」と述べている。春山昇華氏のコメントによれば、2010年は市場のセンチメントが懸念から期待に移り、株式市場への資金流入も増え長期間にわたって上昇が続く、上昇の第二フェーズに入ると見ている。懸念に支配されながら短期間に急騰する第一フェーズは2009年9月に終了し、10月からは上昇の第二フェーズに入っているものの、2010年はこれが本格化する年だと見ている。また、年末に示された新成長戦略についても、民主党参議院選挙での勝利のあとに、経済再生=GDP拡大=利益増大だと、徐々に打ち出すことになると見ているようだ。現在は民主党には経済ブレーンがいないなど揶揄されているものの、政権に擦り寄るエコノミストなどが今後は増えてくる可能性も高く、民主党政権が年末に打ち出した成長戦略実行計画表(工程表)の実効性も増してゆくとの楽観的な見方をしている。足元日経平均株価は11,000円を伺う好調な滑り出しとなっており、比較的穏やかに前向きに捉えてよさそうな1年になりそうだ。 
(1月10日追記)

戦略シフト

戦略シフト

クリス・アンダーソン著「フリー」の注目点と2009年の回顧

2009年の回顧
ここ1ヶ月近くブログを更新しないまま、2009年末を迎えてしまった。このブログでは2008年7月のiPhone登場を切っ掛けに基本的にクラウド時代のICTを中心としたビジネスモデルのあり方をテーマとしてきたつもりだが、1年を振り返って見ると、プラットフォーム戦略やオープンソース戦略、ベンチャー主導のイノベーションによる成長戦略などをキーワードに、リーマンショック後の日本の情報通信産業の国際競争力を復活するためには、どのようなビジネス戦略を取るべきかを問う形でのエントリー展開になってしまった。

具体的に1年間の評論を追って見ると、年初当初はWebプラトフォームビジネス中心としたビジネスモデル論(2009/1/17)(2009/2/14)(2009/3/24)、ICT産業がガラパゴス化から如何に脱却するか(2009/5/4)(2009/8/8)、ソフトウェア開発の重要性の高まり(2009/9/23)、Android携帯から見る経験価値経済の広がり(2009/5/31)などといったWebビジネス進化論的な評論から始まった。
夏場以降からはキャズムを越えるためのベンチャービジネス思考の重要性(2009/8/19)、オープンソースイノベーション戦略(2009/11/8)、保守・反動化する日本経済への警鐘(2009/10/25 デフレ経済への警鐘)、Android携帯開発に見る新しい黎明を迎えた携帯電話業界(2009/11/21)、第二のIT革命とも呼べるスマートグリッド革命の動き(2009/11/22)といったより時事トレンドを踏まえた競争戦略論に力点が移っていった。

自然体で取り組んできた自分の論評がいつしか日本経済が構造変化すべき課題まで盛り込んだ論評に変わっていったのも、変貌を模索する激動の2009年の特徴をなぞった結果だからだろう。そして2009年最後に、11月25日に邦訳版が出たクリス・アンダーセン著の「フリー、無料からお金を生み出す新戦略」を21世紀型ビジネスモデルの特徴として取り上げておきたい。

クリス・アンダーソン著「フリー」の注目点〜非貨幣経済型フリー
『フリー』は前作『ロングテール 』の著者としても有名な、『ワイアード』誌編集長のクリス・アンダーソン氏の最新作。米国ではハードカバー版が2009年7月に出版されているから日本では2ヶ月強遅れの出版となった。「無料からお金を生みだす新戦略」という副題からも分かるように、最近ネットの世界を中心に拡大しつつある「無料ビジネス」をテーマにして、様々な事例と行動経済学、心理学などの理論を駆使してまとめられている。この本の最大の貢献は、21世紀型のフリービジネスの定義を示してくれたことだと思う。
20世紀型フリ−とは、何かほかのものでお金を払わせることで、消費者が無料で便益を享受できるような無料サービスのことを言い、いわゆるマーケティング手法としての「無料モデル」だった。広告収入によるフリーペーパーなどはその象徴だ。ここまでは、既にかなり馴染みがあるフリービジネスモデルが多数存在しており余り目新しいものではない。

21世紀型フリーとはこれが更に進化する。それは20世紀型フリーのような貨幣経済での金銭の支払い動機に基づく無料かどうかだけではなく、人が評判や評価を得ることに対して労役を提供するといった贈与経済、無償の労働など非貨幣経済での動機に基づく満足感まで含んだ「無料ないし自由モデル」のことだと言っている。
これをアンダーソンは「フリーミアム」と呼んでいる。

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリーミアムとは「フリー(無料)」+「プレミアム(割増料金)」の造語で、基本サービスを無料で提供することで顧客を広く集め、その何割かに有料で高機能のプレミアム版に移行してもらうビジネスモデルを言う。もともとはベンチャー・キャピタリストのフレッド・ウィルソンが創った言葉だが、ワイアード誌編集長のクリス・アンダーソンがこれを著書『フリー』で広めたものだ。こうしたフリーミアムモデルが成り立つ理由は、(1)デジタルであれば大量に複製して配布する際のコストがほぼゼロになること、(2)そのため無料版を配布して最大可能数の潜在的顧客にリーチできること、(3)そのなかの数%の顧客が有料版に移行すれば、分母が大きいためにビジネスが成り立つのだと言う。(フリーミアム解説のリンクはこちら


20世紀型のアトム経済では競争市場では価格は限界費用まで下落する。21世紀型のビット経済ではデジタルテクノロジーの進化により情報処理・伝送能力の限界費用はゼロに近づく。それに加えて、情報収集の距離と時間軸がなくなることによりアイデアによって創造されるデジタル商材の開発コストも競争により急速に低下する。そのため低い限界費用で複製、伝達できる汎用情報は無料になりたがり、カスタマイズされたその人だけに与えられる特別な情報は限界費用も高くなり価格も高価になりたがる。21世紀のビット経済ではこうしたフリーへの万有引力には抵抗するよりはむしろその効果を活かすべきと説く。
例えば、音楽ビジネスでは不正コピーに対して、コストを払ってコピーガードを強化したり高い著作権料を要求して保護しようとするのではなく、寧ろ知名度アップに寄与したと見て音楽ツアーやCM出演料、グッズ販売収入などの新しい収益機会の獲得に注力すべきだという。ここまでは20世紀型フリービジネスでも見られる取組みだ。21世紀型のフリーミアム・ビジネスでは非貨幣経済効果を如何に取り込むかが重要になると説いている点に注目する必要があろう。

21世紀型の非貨幣経済型フリービジネスモデル
社会科学者のハーバード・サイモンは、情報が豊富な世界においては、潤沢な情報によって情報を受け取った者の関心が消費され欠乏するようになると言う。職場で無料のコーヒーが好きなだけ飲めるようになると、よりおいしいコーヒーを高い料金を払ってでも飲もうとする新規需要が発生する。これと同じように、ひとたび基本的な知識や娯楽への欲求が満たされると、人々を受身の消費者から創作に対する精神的報酬を求める能動的な作り手への変えてゆくという。そしてそうした創造作業への注目や評判の価値が創造の対価になり、21世紀型のフリービジネスモデルの原動力の1つになるという。Googleページランクシステムやウィキペディアはユーザーが使えば使うほど精度が高まる仕組みになっているほか、非貨幣経済型の対価としてFaceBookMy SpaceのフレンドやTwitterのフォロワーなどが挙げられる。

貨幣経済フリーミアムと非貨幣経済フリーミアムの組み合わせが今後のビジネスモデルの主流
2008年9月のリーマンショック前であれば以下のような非貨幣経済フリーミアムビジネスモデルのWebビジネスを進めることが可能だったが、リーマンショック後は(2)〜(4)のステップが進まなくなったという。
(1)すばらしいアイデア、(2)最大数の消費者を集められる無料モデルによる市場参入と資金調達、(3)人気を獲得できれば規模拡大のための追加資金調達ができる、(4)ビジネスを続けてより大きな企業に買収されるのを待つ。
つまり起業してもすぐに現金が入ってくるビジネスモデルであることが必要になってきている。ただ、不景気においても非貨幣経済型のフリーが後退した訳ではなく、従来型の有料サービスを併用した貨幣経済フリーミアムビジネスとの組み合わせが重要になるという。

2010年に向けて
2010年は、かつての米国の過剰消費型依存型の膨張経済が剥落したデフレ経済の中での成長を模索する年となる。贅肉を落とした縮小均衡と成長という一見すると矛盾した戦略を取る必要がある中で、フリーミアムビジネスモデルは、Webビジネスのみならずコンシューマー向けビジネスにとって新たな成長戦略の参考になるような気がする。

事業仕訳にみる次世代スパコン・プロジェクトの在り方

11月27日で事業仕訳調査が終了したが、その中でIT関係で様々な議論を巻き起こしたのが次世代スパコン開発の2010年度予算248億円(2006年度〜12年度の7年累計で1230億円)の税金投入の是非についてであった。結論は予算計上の見送りに限りなく近い縮減との方向性が示された。最終判断は鳩山首相と関係大臣、京セラ稲盛名誉会長など民間有識者からなる行政刷新会議に委ねられることになった。

おりしもちょうど、27日、長崎大学工学部で市販の画像処理装置(GPU)を760個使って3800万円で国際最速のスパコンを開発し、米国電気電子学会のゴードン・ベル賞を受賞したとの発表があった。しかも、日の丸スパコンは計算速度だけ見れば世界一速い訳でもない。同じスパコンでありながら改めて従来型の税金投入による日の丸スパコン開発のやり方への疑問が提起された格好だ。同時に、ガラパゴス化した現在の日本の国家IT開発戦略の問題点を浮き彫りにしたと思う(関連記事=11月28日付池田信夫氏ブログ)。

そもそも、スパコンスーパーコンピューター)とは、CPU1つで動く普通のパソコンと違い、複数のCPUを並列につなげて超高速情報処理するコンピューターのことを言い、気象予測や天文学シミュレーション、自動車や航空機の構造分析、金融工学などの大規模数値解析などのシミュレーションといった特殊用途に利用される。日本で開発されているスパコン京速計算機」はスカラ型と呼ばれる普通の汎用CPU(世界のスパコンの潮流はスカラ型へシフト)ではなく、複数演算を同時に実行するベクトル型CPUによる独自開発をし、スカラ型とベクトル型を併用するという更に手の込んだものだった。2006年度から理化学研究所富士通NEC日立製作所が共同で設計を開始したものの、2009年5月にはNEC日立製作所が経営環境悪化を理由に撤退している。

事業仕訳でのスパコン開発見直しの議論は、最先端のスパコン技術が日本に必要か否かという0か1の議論にすり替わって伝わっていた嫌いもないでもないが、事実は最先端のスパコン技術の必要性は認めるものの、248億円(総額1230億円)の投資価値の是非を含めて内容の在り方を問うものだった。
様々な議論の内容や長崎大学工学部の低開発費でのスパコン開発の事実と合わせる整理してみると、概ね、以下の問題点の指摘に集約できるのではないかと思われる。

現行のスパコン開発の問題点

  1. そもそも予算総額1230億円のうち193億円が計算機棟などの施設建設費(既に2009年度までに大半の164億円が支出済み)となっておりソフトウェア開発予算130億円よりも多額であることのアンバランス
  2. そもそもAMD製CPUチップなど市販の汎用CPUの技術性能が技術革新によって大幅に改善してきた中で、敢えて世界でもマイナーになってきているベクトル型CPUの開発に注力する費用対効果の合理性が不明なこと
  3. 公共財としての「京速計算機」の利用環境についての整備が不明確だったり、そもそもこうした技術がビジネスベースあるいは国家戦略ベースで海外市場に売っていけるのかどうかの検討も不十分なこと
  4. 従来からの限られた研究者だけのプロジェクトであり、長崎大学のケースのようなイノベーティブな考え方をする研究者を入れた技術戦略の議論がなされていないこと
  5. 米国などのスパコン研究開発は巨大化しており、一国だけでは担いきれないとのことから国際プロジェクト化している状況下で、日本はデファクト化も含めた国際的戦略展開の視野が欠如していること
  6. 省庁で分断された研究プロジェクトを統括して議論する仕組みができておらず国家基幹技術戦略について省庁横断的な検討が不十分なこと

スパコン開発問題は、ガラパゴス化した現在の日本の国家IT開発戦略の問題点と同義
世界でまともなスパコンを作れるのはアメリカと日本だけとも言われているが、現在、世界のスパコン市場を席巻しているのはIBMとHewlett-Packardだけで70%以上で、クレイやSGIなどを加えるとマーケットの95%以上が米国メーカーが独占しているという事実もある。

課題含みの日本のスパコン・プロジェクトは大艦巨砲コンピュータ開発と揶揄されているが、こうした背景には、硬直化した担当官庁の予算主義、大学研究室や学会で破壊的イノベーションを起こすための環境作りができていないこと、ITゼネコンと揶揄される日本の大手IT企業の硬直的な体質の存在などが指摘されている。まさに、スパコン開発予算についての事業仕訳調査の結論は、ガラパゴス化した現在の日本の国家IT開発戦略の問題点を炙り出したものと言えるだろう。

閑話休題:チベット紀行回想(2006年9月、青蔵鉄道でのラサ訪問の写真を整理)

既に3年前になるが2006年9月、中国青海省チベットラサ市を結ぶ全長2000キロの青蔵鉄道が2006年7月に開通した直後、青蔵鉄道でラサを訪問した時の写真を整理してみた。
思えば、標高5000メートルのクンルン山脈の峠を越えて、標高4000メートルのチベット高原を走る荒涼とした道は、1400年近く昔、玄奘三蔵が天竺(インド)に仏教の経典を求めて苦行しながら旅した道。おそらく光景は1400年前と変わっていないだろう。そこを、近代化した今、最新鋭の鉄道で一気に駆け抜けるのは圧巻だ。
3年前のチベット訪問後、不幸なチベット暴動が起き、当時見た寺院の光景がそのまま温存されているかどうかは分らない。
ただ、3年前に印象的だったのは、ラマ教寺院の若い僧侶も当たり前のように携帯電話を使っていたり、街中のインターネットカフェでは若者が対戦ゲームを興じていたこと。もはや情報通信が世界に行き渡る時代に世界に辺境はなくなったと思ったことだ。ICTは着実に国境、辺境を越えて距離と時間軸をなくした新しい世界を作っていくことを痛感する。
(↓写真1:青海省のゴルムドから標高5200メートルのクンルン山脈のタンラ峠に向けて、標高差3000メートルを登る青海鉄道)

(↓写真2:ラサ郊外の寺院からの山並み。ラサ市が標高3800メートルなので周りの山々は5000メートル級)

(↓写真3:ラマ教寺院の白壁。壁の白と空の青のコントラストが美しい)

(↓写真4:ラサ旧市街のパルコルから見たポタラ宮

(写真5:ラサ旧市街・ジョカン寺の前のタルチョー)

(写真6:ラサ旧市街の人々)

(↓写真7:セラ寺での経典の問答訓練光景)

(↓写真8:ポタラ宮。本殿までの200〜300メートルの標高差を登るのは正に高山登山)

第二のIT革命が始まった 〜スマートグリッド革命の始まり

欧米中心にスマートグリッドのへの取り組みが活発化している。10月25日のNHKスペシャル「自動車革命」では、Google太陽光パネルと家庭内と電気自動車のバッテリーをつなぎ、最適な電力供給の一元管理を進めようとしている取り組みが紹介され、新鮮な印象を受けた。
日本では、電力供給網が脆弱な米国と異なり、先端技術による最先端の供給網が既に構築できており、日本の送電網は電力会社の強固な送電網によりすでにスマート(賢い)なため、今さら再生可能エネルギーを含めた電力供給網の整備は不要という認識が強い。しかしながら、スマートグリッドは電力、IT、通信の連携による第二のIT革命をもたらすもので、これらの国際標準化に乗り遅れると、世界的なビッグバンに乗り遅れてしまうことが十分理解されていないように思える。なので、今回は新しいクラウド的なビジネスの動きについてまとめておこうと思う(関連記事)。

スマ−トグリッドを後押ししているのは低炭素化を目指しながら経済成長も目指すグリーンニューディール政策で、そこでの三種の神器となりつつあるのが省エネ技術、再生可能エネルギー、電気自動車だ。これらを支える電力インフラがスマートグリッド(次世代伝送網)だ。
欧米各国は、リーマンショック後の長期的な経済立て直し策として、スマートグリッドの国際標準化と産業新興に向けて政府ともども積極的な取り組みを始めている。
スマートグリッドは従来の大規模発電所から送配電網を経由して一方向に電力を供給するシステムと異なり、ITや通信、蓄電池などを駆使した双方向型の分散型電力網を言い、家電機器や電気自動車がその端末となる。
1993年に米国クリントン政権が誕生した際に「情報スーパーハイウェイ構想」が打ち出されたが、スマートグリッドは、インターネット革命に匹敵する電力版の第二のIT革命だと言っていいだろう。
15年前の通信網は交換機があるのが当たり前だったが、今やIP化され交換機は消えつつあり、Googleをはじめとするインターネット産業が興隆した。今後、10〜20年後には今の発電所を起点とした電力系統網の存在は様変わりし、送配電システムメーカー、蓄電池関連メーカー、自動車や家電メーカーなどに新しいビジネスチャンスと既往ビジネスの転換をもたらす可能性があると思う。

標準化に乗り遅れれば日本の将来は危うい
世界のエネルギー設備容量のうち、再生エネルギーの代表格である風力発電太陽光発電に使用される割合が2030年には10%(風力7%、太陽光3%)となり、原子力の6%を上回るだろうとIEAは予想している。こうした再生エネルギー普及予想の背景には、世界各国のCO2削減政策の推進がある。
米国のオバマ政権は2月に米国経済再生のためグリーンディールを国家戦略に挙げ、再生エネルギーの総電力量に占める割合を2025年に25%まで引き上げるとしている。
欧州連合EU)は、1次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに20%にする目標を掲げており、これに向けてスマートグリッドを推進している。
一方で、日本は、9月22日の国連気象変動首脳会合(気候変動サミット)で鳩山首相が日本の温暖化ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減することを目指すと宣言をした。
ただ、環境・エネルギー関連の国際的枠組みにおける日本のプレゼンスは今一つ発揮されていない。2009年1月の国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の設立準備委員会の第一回会合はドイツ主導で開催され、2009年6月の第二回会合でようやく日本は参加した。
また米国は、NIST(米国標準技術局)が2009年9月にスマートグリッドの標準化のロードマップを公表し、2010年にはその運用を開始すると表明している。IEC(国際電気標準会議)でも国際標準化の議論が始まっているなど、日本の出遅れ感は否めない状況だ。
日本のインフラメーカーは、蓄電池や送電分野で高い技術力を持っているが、日本独自規格で作られている。国際標準化に遅れれば日本は高い技術力を持ちながらスマートグリッドの世界市場に関与できないことになりかねない。

業際を越えた製品・サービスを併せたトータルシステム提案力が求められる
欧米では、IBMは、水、エネルギー、交通、医療、教育、行政などのサービスをITで最適化する取り組みの中で、スマートグリッドを重点機能として位置付けており、デンマークのEDISONスマートグリッド・プロジェクトでシーメンスやDONG Energyなど国際企業との連携も進めている。
また、米国NIST(米国標準技術局)の標準化推進では、GEがスマートメーターや機器、GoogleがアプリケーションやAPIIntel通信プロトコルを担当するなど異業種間連携がしやすくなるような標準化が進められている。

日本メーカーは、世界最高水準の技術を持ちながらビジネスモデル構築や標準化が不得意なため、トータルビジネス面では割り負けてきた。スマートグリッドで国際市場で日本の技術・製品を売っていこうとすると、これまでの「技術起点型の知的創造サイクルモデル」から「事業起点型の事業創造モデル」への発想の転換が求められるだろう。つまり、従来取り組んできた優れた技術を開発して権利保護し製品化すれば売れるという「自社技術中心のコモディティ型モデル」をやめて「業際を越えた製品・サービスを併せたトータルシステム提供モデル」への転換が試されるということではないかと思う。

このことは、11月8日のエントリー「技術力で勝る日本がなぜ事業で負けるのか?」でも書いたが、まさに日本製造業の世界復活が試される時を迎えていると状況なのではないかと思う。